第9話 第二部 二番目の手紙さんの旅 エイヤ

ニャーモさん私はとうとうインドネシアのスラバヤというところについて、サムハさんと言うとても可愛らしくて賢い女子大生さんに拾われることができました。今から私の旅をニャーモさんにお話しします。

 

 ニャーモさんが私をデンマークから海に流してくれましたね。私は少し不安でしたけれど、みんなの言うとおりこのボトルさんはすごく強いからと信じて流れていきました。

 ニャーモさんの見つけてくれた場所はとても良くて、本当に南へ南へと流れていきました。しばらくすると大きな魚を見つけました。私はくじらさんのことを思い出して、お友達になれるかなと話しかけようと近づいていきました。

「おや、おまえはメールボトルか?食ってもうまくはないが、いたぶって粉々にして俺様の鬱憤晴らしにはちょうどいいな。こっち来いよ。遊んでやるから。」

 その大きな魚は言いました。言っている意味が私にはわかりませんでした。ただ、遊んでやると言うので何か面白いことがあるのかなと考えました。

 するとその時とても不思議な形をした鳥のような魚が、本当に魚なのかどうかわからなかったのですが、翼みたいなもので私を包み込みものすごいスピードで泳ぎ出しました。私はとてもびっくりしました。一体何が起こったのか分かりませんでした。

「おいお前なぁ!なんで俺様の邪魔ばっかりするんだ!俺様の獲物だぞ!!おい、こら!待て!待てったら!チッ!今度あったらたたじゃすまねえぞ。覚えておけよ!」

 後ろから大きな魚の声が追いかけてきました。でも不思議な生き物は止まりません。しばらくそんなスピードで泳いでいました。そしてやっと止まって、

「あーもう大丈夫だ。危ないところだった。君はメールボトルだろう?君はあの魚を知らなかったのかい?あれはサメっていう魚なんだ。ものすごく狂暴でサメに狙われたら人間だってひとたまりもないんだよ。君なんか噛まれて粉々になってしまうよ。なんでもかんでもサメにかかったら本当にあっという間に壊れてしまうのさ。

 僕は君に気がついてこれはいけないと思って君を守って急いで泳いだ。びっくりしただろう?」

 私はそれを聞いて本当にびっくりしました。

「あれはサメと言うのですか?遊んでやるからこっちに来いって言われました。」

「遊ぶなんて!君をぶっ壊すつもりだったんだよ。」

 私は海には恐ろしい魚もいるのだということを初めて知ったのです。

「でもサメはあなたを襲わないの?あなたは大丈夫なの?」

 その魚?は笑いながら言いました。

 「僕の後ろに回ってごらん。僕に触ってはいけないよ。」

 私は言われた通りにしました。

「さあ、こっちに戻っておいで。僕のしっぽみたいなのがみえただろ?」

 私は、はいと返事をしました。

「あのしっぽの先から毒を出せるんだ。その毒にやられたらサメだって動けなくなるんだよ。前に僕を襲おうとしたサメにその毒を使ったんだよ。もちろん動けなくなったよ。サメ仲間はそのことをしっているから僕たちの仲間を襲うことはないんだ。君は無防備だな。」

「無防備ってどういうことですか?」

「うん、強い魚も弱い魚もみんな自分の身を守る何かを持っているんだ。そうして生き延びて行くんだよ。でも君はこのボトル君だけ。鋭い歯もないし、毒の出るしっぽもない。危険を防ぐものを持っていない。そのことを無防備って言うんだ。」

 そのとき私の頭の中に声が響きました。

『私たちは武器は持たないわ。でも『知識』と言う名の盾を持っているの。だからたくさんの事を知りなさい。そうすれば盾はどんどん強く大きくなるのよ』

それはニャーモさんの家で眠っている手紙さんの声でした。私はこの時、手紙さんと交信ができることを知りました。


「私を助けてくれたのですね。ありがとう。あなたは魚ですか?海の中を泳ぐ鳥ですか?」

 私がそう尋ねるとその不思議な形をした生き物は少し笑いながら

「僕は魚でマダラトビエイのエイヤって言うんだ。ほら背中に点々模様がいっぱいあるだろ。この羽みたいに見えるのは羽じゃないんだよ。僕たちの仲間はみんなこうやって両方のヒレでひらひらひらひらって泳ぐんだよ。人間が僕たちをまねて『ステルス』なんて名前の戦闘機を作ったけど、使用料金払って欲しいなぁふふふ。」

 「面白い。すごく面白いです。本当に海の中にはいろんなお魚たちがいるんですね。マダラトビエイのエイヤさんに出会えて良かったです。私はサメのことなど全く知らなかったから。」

 「君の名前は何て言うの?」

とエイヤさんが聞きました。

 私の名前?私の名前?その時私はとても大事なことを思い出しました。あの時あまりに寒かったから、そのことばかりに気を取られて忘れてしまっていたこと。あのくじらさんが私にメールボトル19という名前をつけてくれたこと。あーそれは、ニャーモさんにも伝えていなかった。そしてマッコウクジラさんはPHR07と言う名前だった。

 今になって思い出すなんて私もどうかしている。反省しながら私はメールボトル19と言う名前です。とエイヤさんに伝えました。


「そうか、いい名前だね。君はどこに行くの?いやメールボトルだからどこへ行くとは決まっていないよね。どこに行きたいの?」

「私は寒い地方にいました。だから暖かいところに行きたいのです。」

「そうか暖かい処。じゃあ僕は君を連れてってあげるよ。この辺りはねサメも多いからまたさっきみたいなことがあると困るしね。君を守って途中まで連れてってあげる。」

 私はマダラトビエイのエイヤさんに守られながら海を漂って行きました。

 そしてその時手紙さんに伝えました。私たちの名前。手紙さんは『ああ、思い出したわ、本当に大事な事を忘れていたなんて・・・』と言っていました。


「 ここからもう少し南下してそれから地中海というところに入るよ。暖かい海だよ。」

 そう言ってエイヤさんは私を連れて行ってくれました。結構日にちもかかったけれども地中海というところはとても綺麗で、本当に水が暖かいなと感じました。地中海を通って行くとエイヤさんが言いました。

「僕はここまでだよ。僕たちの仲間はみんなここら辺りの海までが住処だからね。ここから先はまた君は一人で旅をして、自分の行きたいところに流れて行きなさいね。ここからはね、スエズ運河っていう所を通って行くんだよ」

「スエズ運河って何ですか?」

「それはね海じゃないんだ。人間が陸地を掘って水を流して海と海を繋いだんだよ。」

「人間がそんなことをしたんですか?何のために?」

「スエズ運河がない時はね、魚も船もアフリカ大陸というところをぐるっと回って旅をしたんだ。アフリカ大陸は小さな島じゃないんだよ。ものすごく大きいんだ。だから船なんかは何日も何日もかかって南へ向かい、アフリア大陸の先端まで行ったら又何日も何日もかかって北に上がって目的地に行かなければならなかったの。魚だって大変だったよ。

 だから昔の人が運河というものを作った。そして、地中海とアラビア海をつないだんだよ。ここは細いけれども大丈夫だよ。僕はこの向こうには行かないのでここでお別れ。君の旅が無事であるように祈っておくよ。」

「マダラトビエイのエイヤさん。私頑張って流れていきますね。助けてくれてありがとう。」

 私は一人になりました。マダラトビエイさんと一緒にいた間に、沢山のことを知ることができました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る