第2話 第一部 ニャーモさん
私はニシンさんたちに いっぱいお礼を言いました。 ついに海から上がり砂浜で、 何ヶ月ぶりでしょう? お日様の光を浴びてうっとりしていました。
「ボトルさん。おつかれさま。よくここまで私を運んでくれたね。ありがとう。」
一人の大きなおばさんがやってきて 砂浜にドカッと腰を下ろしました。ふわふわとした薄い金色の髪の毛で青い目をしています。 海を見て空を見上げて 綺麗だな海綺麗だな、そう言いながら深呼吸をしています。 本当に気持ちよさそうに しています。 おばさんは辺りを見回しました。 そして私の入っている プラスチックボトルを見つけました。 その途端におばさんの顔つきが変わりました。
「なんてことを!またプラスチックボトルを海に捨てた人がいるのね 。これはね 魚たちが餌と間違えて食べてしまって ひどいことになるのよ。 こういうものを捨てるって 本当に良くないことなのに。捨てる人はいなくならないのかしらね。」
おばさんはそう言いながら 私の入ったボトルを 手にとって 少し向こうにある ゴミ箱に捨てようと歩き始めました。私は焦りました。 捨てられては困る、 捨てられては困るのよ! 私はボトルの中で カタコトカタコト音を立てました。 おばさんは自分が手に持っているボトルから音がしたことにびっくりしました。立ち止まって プラスチックボトルをじっとみました。
長い長い 海の旅で私の入っているボトルはどろどろでとても汚れています。あちらこちらに海藻もへばりついていて 中は全く見えません。 おばさんは 自分の手で ボトルをちょっとこすってみました。 そうすると 中に何かがあるのが分かりました。
「おや?これはもしかしたら メールボトル? だったら 捨ててはいけないわ。 中を見なくちゃ。」
おばさんは私が聞いたこともないような言葉でしゃべっていました。 でも不思議なことに私にはその言葉が全部わかったのです。
私の言葉もわかるかしら。思い切って話しかけてみました。
「 私は 遠い遠い国からやってきました。 メールボトルです。 私は手紙。 どうか捨てないで私を読んでください。」
おばさんは目をまん丸にして驚きました。私の話した言葉は日本語でした。 おばさんの聞いたことない言葉でした。 それでもやはり不思議なことに おばさんにも私の言った言葉が 全部わかったようです。
「メールボトルと分かったら捨てないわ。安心して。でもね、プラスティックはいけないわねぇ・・・ガラス瓶って考えなかったのかしらね?」
おばさんにそう言われて私はちょっと恥ずかしくなりました。多分・・・私を書いたあの人は、ガラスだとパンッと割れてしまうことがあるかもしれないと思ったのかもしれません。
「ごめんなさい。」
と私は謝りました。
「はいはい、まあ、それはそれとして、まずこのボトルを綺麗にしなきゃいけないわね。」
おばさんはそう言ってプラスチックボトルを手に持って砂浜を駆け上がっていきました。
そこには一台のモーターサイクルが停めてありました。 どうやらおばさんのモーターサイクルのようです。黒くて鋭い感じがしてなんだかとても格好いいなと私は思いました。 おばさんは座席をポンと上げて、その中からタオルを取り出しました。そのタオルで ドロドロになったボトルさんを拭き始めました。だんだんと中がしっかり見えてきました。 そこにはきちんと折りたたまれた私が入っていました。
「もう少し待ってね 。もう少ししたら出してあげるから。ボトルが綺麗に乾いてから。 そうじゃないとあなたが濡れてしまうからね 。」
おばさんはそう言いながら 一生懸命タオルで拭いてくれました。
ボトルさんも綺麗になってきて嬉しそうでした。
「もう大丈夫ね。 さああなたを出してあげましょう。」
おばさんはそう言って きっちりしまったボトルの蓋を開けて私を取り出しました。
海の匂い 空気の匂い、お日様の匂い。 私は なんて気持ちがいいのだろうと思いました。
「あなたの名前は何て言うの?」
おばさんが聞きました
「私は手紙。 あなたは何という名前ですか ?」
「私はニァーモ。」
おばさんの名前はニァーモと言うの。まるで猫みたいとちょっとおかしくなりました。
「ここはどこですか?」
「 ここはね フィンランドのヘルシンキというところよ。」
私の知らない国でした。
「 ここは 地球のどの辺ですか?」
「 地球の 随分北よ。 手紙さん、あなたはどこから来たの?」
「 私は日本」
「知ってるわ。行ったことがないけれど とても素敵な国だよね。そんな遠くからやってきたの ?よくここまで たどり着いたね。」
「ここは涼しくてとても気持ちがいいけれど 今は秋ですか?」
「 ちがうわ。今は夏なの。 ここは北の国なので 夏でもこんなに涼しいの。 そして今は夏休みの時期で みんなあっちこっちに旅をしたりするのよ。 私もね、今からこのモーターサイクルに乗って もっと北、ラップランドという所に行くの。 あなたも一緒に行きましょう。 ラップランドを見せてあげるわね。 とても素敵な所よ。」
私は嬉しくなりました。
「 はい連れて行ってください。」
「ラップランドを旅した後は またフィンランドに戻って、 私の住んでいるトゥルクという町に行きましょう。 そこに私の家があるから、 そこに着いたら あなたとゆっくりお話ししましょうね。」
「あのぉその前に一つだけ聞かせて欲しいのですがいいでしょうか?」
「うん、いいわよ、何?」
「ニャーモさんはいつも浜辺でゴミを拾っているのですか?」
「浜辺に来たときはいつもね。海岸を綺麗にしたいじゃない。ボランティアなんかでたくさんの人が集まって一日中海岸の掃除をしたりするけど、そういう人たちってえらいなぁと思うけどね。でもそれだけじゃいけないと思ってるの。ひとりひとりが海岸に来た時に自分が持てるだけのゴミを拾っていったら、もっともっと綺麗になると考えてるの。無理はしない程度にね。
ペットボトルだけじゃないのよ。ガラスだって割れたりして海の生き物を傷つけているかもしれないし、缶だってだめ。いくら拾っても捨てる人がいなくならない限りゴミはなくならないの・・・・・あなたをゴミと間違えなくて本当に良かった。」
私はこの人に拾われて良かったと思いました。
「さあ出発するわよ。」
ニャーモさんは だいぶ綺麗になった プラスチックボトルの中に もう一度私を入れて ジャケットのファスナーを開けて 胸の中にしまいました。
ニャーモさんはエンジンをかけて 颯爽とモーターサイクルを走らせ始めました。
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