第3話 第一部 白い夜

どのくらいの時間が経ったでしょうか。 私たちは長い長い海の旅で疲れてきっていたのでぐっすり眠っていました。 モーターサイクルの音が止まりニャーモさんが言いました。

「 ラップランドに着いたわよ。 さあ目を覚まして。」

 そして自分のジャケットの中からボトルさんを取り出しました。


 あーなんて素晴らしい景色なのでしょう。 空は真っ青。遠くまでずっと畑が続いていて、 そこには色とりどりの ベリーがなっていました。グーズベリー、ラズベリー、ブルーベリー、クランベリー 。そしてそれらを摘み取る人々が 働いていました。

 遠くに見えるのはあれはトナカイの群れでしょうか? トナカイがいっぱい歩いているなんて 信じられないような景色でした。


 「みんな何をしているの? それにあれはトナカイでしょう?」

「 みんなはね たわわに実ったベリーを摘み取っているのよ。 夏の間にできたベリーを全部摘み取るの。 そうしてね お砂糖を入れて ジャムにしたり、干してドライフルーツにしたり、冬のために今働いているの。 それから向こうに見えるのは、そうトナカイよ。 日本にはトナカイはいないのかしら?」


「私は行ったことないけれど多分動物園にはいると思うの。 でも国の中をトナカイが走っていることは ないと思う。」

 「トナカイもね、 ラップランドの人達は狩りをして 冬の食料にするのよ 。もちろん むちゃくちゃたくさん狩ったりはしないわ。 自分たちに必要なだけ。

 動物のめぐみに 捨てるところはひとつもないの。 皮を剥いて それをジャケットにしたり 毛布にしたり 床に敷く 絨毯にしたり。 角や骨は大事に取っておいていろんなものを作るのよ。

 肉は塩漬けにしたり 乾燥させて 干し肉にしたり 燻製にしたりして やっぱり冬の間の食料にするのよ。

 海でお魚も捕るわよ。さけがいっぱい取れるから。それも燻製にしたり塩漬けにしたりフレークにしたり。 全部全部冬のためのものなの。」

 「ラップランドの冬は何も取れないの?」

 「取れないというよりも 外に出ることができないの。 それぐらい寒いの。

 どんなに寒いかと言うとね、 今はぁーって息を出すでしょう。 冬だとね出した息が いっぺんに凍って 粒になってパラパラと地面に落ちてしまう。

 鼻水なんか出たら大変よ 。一瞬のうちに鼻水は氷の棒になってしまうの。」


 そんなに寒いの!!と私はびっくりしました。


 「それでもねラップランド人は外にも出かけて行くのよ。 その時にはトナカイの毛皮で作った 暖かいジャケットを羽織って 顔をかくして凍らないようにして出て行くのよ。」

 「じゃあラップランドの人達は冬は家の中で何もしないで過ごしているの?」

 「ふふふ、ここはねサンタさんの国なの」。

 「ラップランドってサンタクロースの国なの?」

 「そうよサンタクロースさんがいるの。 今は夏だから サンタさんもお休みしているけれど 。ラップランドの人たちはね、 冬になると家の中で 女の人は刺繍をしたり縫い物をしたり お人形を作ったり 可愛いバッグを作ったり そんなことをしているの。 男の人達は 木でおもちゃを作ったり トナカイの角や骨でいろいろなものを作って毎日を過ごすの。そういうものが クリスマスに 世界中のこどもたちに配られるプレゼントになるのよ。

ラップランドの人たちはみんなサンタクロースさんのお手伝いをしているのよ。」


 私は自分の知らないことを教えてもらって すごく嬉しくなりました。 すごいんだなぁ 見知らぬ国に来ると 今まで知らなかったことが いっぱい分かるし、いっぱい見ることができる。 本当にこの国にたどり着いてよかった。 そう思いました

 イワシさん達が、ここの国にたどり着くといいわよ。 とても素敵な国だから。 と言ってくれた意味もよくわかりました。


「 夜になる前に テントを張ってしまうわ。」

 ニャーモさんはそう言ってとても器用にテントを張りました。 テントの周りには溝を作って もし雨が降ってもテントの中がびしょ濡れにならないようにと、 すごく慣れた感じでした。 そして火を起こしてお湯を沸かしその中に缶詰を入れて晩御飯の用意です。


 私が日本の話をしている間に 夜が来たようです。 ところが不思議なことに空が全く暗くならないのです。 白くて 明るいのです。私はとても奇妙な気持ちになりました。

「 ニャーモさん今何時なの?」

 ニャーモさんは笑っていました。

「 もう夜の九時を過ぎてるのよ。」

「 でも こんなに白いし明るいし、ニャーモさんの顔だってはっきり見えるし。 遠くの方まで見えるよ。 これは一体どうして?」

「 そうね日本にはこんなものはないのよね。北のほうの国は白夜っていうのがあってね。 夏の間はお日様が沈まないんだよ。」

「 おひさまが沈まないの?」

「 そうずっと。一日中お日様は 私たちに見えるところにいるのよ。だから夜になっても暗くならない。」

「 でもそれじゃあ、いつが朝かいつが夜か北の国の人は全然分からないの?」

「 そんなことはないよ。 人間の体の中にはね、 いや人間だけじゃないね、 生き物の体の中にはね、 動物だって植物だって みんな時計があるのよ。 時計を持っているの。 だからお日様が沈まないからと言って 夜か昼か分からないことはないの。 私だってもうそろそろ眠りたいなーって思ってきたもの 。」


私は ニャーモさんと出会ってから 知らないことばっかり 話してもらって本当に驚きました。 そっか、こんな国があるんだね。 白夜! なんて素敵なんだろう。


 ニャーモさんは眠る前に テントの周りに三つトーチを建てました。 それに火をつけました。

「 どうして明るいのに 火を灯しているの?」

「 これはね 狼が近づいてこないようになんだよ。」

「狼もいるの?」

「 森の中には狼がたくさんいるわよ。でも狼はとても賢いの。 それに皆が思っているほど乱暴者じゃないよ。 人を襲ってくるなんてことは めったにないの。 おそってくる時は人間の方が悪いことをしている時だよ。 それでも念のためこうやって火をたいておくの。狼は燃えている火が怖いから近寄って来ないのよ。 さ、手紙さんも一緒に寝ましょう。」

そう言ってニャーモさんは テントの中で あっという間に眠りにつきました。


 私はラップランドに着くまでずっと眠っていたので あまり眠くありません。 テントの隙間からじっと外を眺めていました。 白くて明るい不思議な光の景色です。 不思議な夜です。


オオカミさんが見えました。オオカミさんが四匹ぐらいいました。 オオカミさんが近づいてきました。私はドキドキしました。 本当に大丈夫なのかな? 近くまでよってきたオオカミさんは 銀色のふさふさした毛をしていてとても綺麗でした。その目はキラッと光っていたけれど優しい光を放っていました 。

「オオカミさん、オオカミさんも仲良くしようね!」

  オオカミさんは乱暴ものじゃないんだな。 オオカミさんは火の側にはきませんでした。 そしてまた森の中へ帰ってきました。私の声が分かったのか、一度振り返ってそして走っていきました。 そうしているうちにいつのまにか私も 眠ってしまいました。


 朝になりました。 朝になってもよくわからないようだけれども、それでもお日様の光が夜より華やかでした。ニャーモさんは パンとコーヒーとチーズの朝ごはんを食べて、 手早くテントをたたみ 周りも綺麗に掃除をして 旅立つ準備をしました。


そしてまた私をボトルごと自分のジャケットの中に入れて、

「 さあ出発するわよ。ここから真っ直ぐに私の住んでいるトゥルクまで行くの。」

と。

 今度はニャーモさんの家に行くのです。

 「さようならラップランド。本当にここに来ることができてよかった。 みんな 寒い寒い冬も元気で過ごしてね 。」

 私はラップランドの大地にお別れの挨拶をしました。

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