第4話 第一部 私を読める?
ニャーモさんの家に到着しました。 木でできたお家でした。 壁は薄い水色です。 そして屋根はとても明るい赤色。 小さな窓がいくつかあって窓辺には花が飾られています。 まるでおとぎ話の 中に出てくるような可愛らしいお家です。
ニャーモさんはモーターサイクルを倉庫の中に入れてそれから私たちを連れてお家の中に入りました。 上着を脱いで ニャーモさんは私を プラスチックボトルから取り出して 暖炉の上にそっと置きました。
「手紙さんしばらくここで待っていてね。 私はまずシャワー浴びてくるわ。 シャワーを浴びた後は、あなたが入ってたプラスチックボトルをきれいにきれいに洗わなくっちゃ。」
そう言ってニャーモさんは シャワー室のあるほうに行ってしまいました。
私はお家の中を見渡しました。 そんなに大きくはありません。端っこに気持ち良さそうなベッドが置いてあって、 窓辺にはニャーモさんがお仕事をしたりするときに使うのでしょうか。 机と椅子がありました。 机の上には 可愛らしいランプが置いてありました。反対側は キッチン。キッチンの横にお食事をする時のテーブルと椅子がありました。 床には 何の動物でしょう? 毛皮が敷いてありました。窓と反対側の方に暖炉があります。暖炉の上には木や石でできたお人形さん達が並んでいます。 その横に私も置かれたのです。暖炉の前にはふかふかのソファーがありました。
ニャーモさんが入っていった方にはきっとお風呂場があるのでしょうね。ニャーモさんの家はそれだけです。
ですが壁にたくさんの絵が飾ってありました。それは絵と言うより模様を描いたもののように見えました。
ニャーモさんがとても綺麗好きで 何もかもきちんと整頓されているのが 非常に気持ちが良かったのです。
私は本当にいい人に拾われたなとしみじみ思いました。
しばらくしてニャーモさんが お部屋に戻ってきました。
「 あーさっぱりしたわ。 モーターサイクルで走るのは気持ちがいいのだけどね。 でも体中ほこりだらけ。 全部綺麗にしてきたわよ。 今度は手紙さんが入ってきたボトルさんをピカピカにしなくちゃね。」
休む間もなく早速キッチンでボトルさんを洗い出しました。 中も外も 丁寧に丁寧に洗っています。 あのドロドロだったボトルさんは ピカピカ光るぐらい綺麗になりました。それをきちんと拭いてニャーモさんは やはり暖炉の上に置きました。
「ボトルさん良かったね、すごく綺麗になったね。」
私がボトルさんに話しかけるとボトルさんはちょっと自慢そうにきらっと光りました。
「手紙さんが入っていたボトルさんはね 特別なもの。私の宝物なの。 だから絶対捨てたりしないで、 そうね、ここにはお花をさして飾りましょう。暖炉の上に置くのは火が入っていない時だけ。寒くなって火を入れたらすごい熱でボトルさん溶けてしまうもの。」
とニャーモさんは言いました。
「ここに並んでいる可愛いお人形たちは何?」
「それはねフィンランドで取れた石や木で作ったトントゥと言う妖精なの。フィンランドの人達はねみんなトントゥに守られているのよ。 だからこうやって大切に暖炉の上に飾ってあるの。」
フィンランドの人たちは自然に宿った妖精さん達を信じているのだなと思いました。心の底から自然を愛し尊ぶ人たちなのでしょう。
「壁に飾ってあるたくさんの絵は?」
「ああ、私が描いたの。一応デザイナーって言えばいいかな?夏場は自動車の部品工場で働きながら暇を見つけて図案を描いている。冬は自動車工場には行かないで家の中で絵を描いたりお裁縫をしたり・・・モーターサイクルも倉庫の中でお休みよ。」
たくさんのことを聞きました。 たくさんの話をしました。 でもまだニャーモさんは私を読んではいません。
「いつ私を読むのかな?」
そう考えていた時にニャーモさんが言いました。
「 今晩 明るい夜の中で手紙さんをゆっくり読むわね。」
私は嬉しい気持ちとちょっとドキドキした気持ちが 混ざっていました。 どうしてかと言うと 手紙は日本語で書かれています。ニャーモさんはそれを読めるのだろうか? 私たちはお話ができるけれども 文字を読むことは できるのかしら? もしできなかったら どうしよう。 そう考えて私は 夜が来るのが 待ち遠しいような 少し怖いような気持ちになりました。
白い光の 明るい夜の中 ニャーモさんは 窓辺の机に向かって とうとう私を広げました ニャーモさんはじっとそこに書かれた言葉を 辿っていました
「私の手紙を拾ってくださった 優しく親切な方 これは 私が書いた手紙です。 私の名前は たちばなみやこ。 日本人で七十歳のおばあさんです。 私は一人で住んでいます。
若いころは言語学者であった夫の海外渡航に便乗して、私はたくさんの国に旅しました。それらはとてもすばらしい思い出です。
夫も亡くなり私も年を取りましたが私はもっと旅がしたかったのです。けれど世界中が 重い重い病にかかってしまいました。 どこの国も その病気で大変です。どこへも行けなくなりました。
そして 悲しいことですが世界のあちこちで 未だに 戦争も起こっています。
どこにも出歩けない数年のうちに私は七十歳になり、もう旅をする元気が なくなってしまいました。
それはとても寂しいことでした。まだ行ったことのない国にいってみたい。 話したことのない国の人とお話がしてみたい。 いろんなことが知りたい。 そう思っていますがもう私がこの家から 遠くに出て行くことは無理みたいです。
私は考えました。 メールボトル。 プラスチックのボトルの中に この手紙を入れよう。そして 海に流すのです。現代に・・・・インターネットでお友達が探せる世の中ですのにずいぶんと古風な・・・しかも海洋汚染とか動物愛護とか叫ばれている昨今に、メールボトルなんて顔をしかめられるかもしれません。それでも私はこのやり方で・・・ちょっとした賭け、運だめしみたいな気持ちでこの方法を選びました。 もしかしたら 途中の岩場に引っかかって 私の手紙はどこにもたどり着かないかもしれません。 もしかしたら どこかにたどり着くかもしれないけれども 誰も見つけてくれないかもしれません。 もしかしたら 見つけた人が 汚いボトルだとそのまま捨ててしまうかもしれません。
けれど私は希望を持ちました。この手紙は きっと誰かの手元に届く。そしてその人は この手紙を読んでくれて私の友達になってくれる。
どこの国の人でしょう? どんな言葉を話す人でしょう? それを考えるだけで 私はワクワクするのです。
今これを読んでくださっているあなた。 どうか私にお返事をください。 私はあなたのお返事を 楽しみに楽しみに いつまでも待ちます。
私の手紙を拾ってくださって 本当にありがとう。
追伸
プラスチックボトルを海に流したことお許しください。あなたの国を汚そうとはけっして思いませんでした。 橘宮子」
最後には 日本の住所が書いてありました。
ニャーモさんは 長い長い時間 手紙を見つめていました。私はニャーモさんが 読めているのか 、それとも日本の文字が分からないのか? どうなのだろうととても心配でした。ニャーモさんは 随分長い間 黙っていました。
そしてとうとう私に 話しかけました。
「 手紙さん 不思議なことね。 あなたと私がお話ができるように 私は この日本の文字が全部読めたよ。みやこさんという人が書いてくれた ことが全部分かったよ。 私はみやこさんのお友達になれるのね。 なんて素晴らしいのかしら。。 なんて嬉しいことかしら。
私のお返事を待ってくれているみやこさんのことを考えて たくさんのことを書くわ。
最初のお手紙は、 そうね、 手紙さんの海の旅行の大冒険。 それを全部知らせなくちゃね。 そして私と出会ったこと。 ラップランドに行ったこと。 それから私のお家にやってきたこと。 全部書きましょう。
みやこさんに このお手紙の お返事を送りましょう。」
ニャーモさんはとても明るい顔で私に微笑みました。私はほっとして そして嬉しくて嬉しくて たまらなくなりました。
次の日、明るく白い夜の窓辺でニャーモさんはみやこさんにお返事を書き始めました。
その顔はとても楽しそうでした。時々小声で歌を口ずさみながらニャーモさんはいっぱいいっぱい書き綴っていました。
「さあ、手紙さんできたわよ。」
「もちろん、フィンランド語ですよね?」
「そうよ、でも大丈夫、私が日本語の手紙が読めたのですもの。みやこさんだって私の国の文字は読めるはずよ。」
私はきっとニャーモさんの言う通りに違いないと思いました。
「手紙さん、あなたの写真を撮るわね。それからあなたが入ってきたプラスティックボトルの写真も撮りましょう。そしてラップランドで写した写真と一緒にお手紙の中に入れるのよ。そうしたらみやこさんは本当にあなたが私の家にいることがわかるものね。」
ニャーモさんはそう言ってパチパチと写真を撮りました、ニャーモさんが暖炉の上に私を立てかけて、その周りに花を置きました。私はちょっと照れくさかったけれど嬉しかったです。入っていたボトルさんもニャーモさんがぴかぴかに磨いているし、その中に花を入れてとてもきれいです。
「みやこさん・・・きっととてもよろこぶだろうなぁ」
と思いました。
ニャーモさんは長いお返事を書き終えて、写真と一緒に封筒に入れて郵便局に持っていきました。
「日本には何日ぐらいで届きますか?」
「早くて十日ほど、二週間あったら必ず届きますよ。」
郵便局の人がそう言ってフィンランドのきれいな切手を貼りました。
郵便局から戻ってきたニャーモさんはにこにこして言いました。
「楽しみだわ!楽しみだわ!みやこさんは私の手紙を読んだら、きっとお返事くれるわよね?」
「必ずくれますよ。お返事楽しみですね。」
私はそぅ答えました。
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