第18話 第二部 サムハさんとの生活
サムハさんは毎朝手紙さんを胸に抱きかかえるようにして、浜辺を散歩していました。時には長いスカートをまくりあげて、浅瀬の海に入っていくこともありました。そして珊瑚の様子を見ています。サムハさんは手紙さんに語りかけました。
「珊瑚って綺麗でしょう。赤やピンクや白にベージュ。それに少し紫がかったものもあるわ。サンゴがとても綺麗なので、本当は取ってはいけない人達が夜にこっそり取りに来たりするのよ。珊瑚は装飾品としてずいぶん高く売れるの。でもね乱獲は絶対にいけないのよ。乱獲ってむやみやたらにとってしまうことなの。
珊瑚だけじゃない。お魚でも動物でも何でもそうなんだけどね。必要以上にいっぱい取ってしまうと、もうそれらがなくなってしまう。なくなってしまったら地球上に何もかも居なくなってしまうのよ。そんなことのないように取っていい分量は何もかも決められているのよ。でもねなかなか乱獲する人が減らないの。私はそういうことを一生懸命勉強したい。綺麗な海を守る、海の生き物達を守る。そういう人になりたいの。」
サムハさんのその話を聞いて、手紙さんはニャーモさんが話してくれたラップランドのトナカイの事を思い出しました。同じね、と思いました。
家に帰ってからサムハさんは、これを見て。と言って珊瑚のペンダントを見せてくれました。銀色の鎖の先に薄いピンクの珊瑚がぶら下がっていて、とても綺麗なペンダントでした。
「ほらね。こんなふうにペンダントにしたりネックレスにしたり、指輪にしたりイヤリングにしたり男性のネクタイピンにしたり。いろんなものに使われるの。ここの国でとれる一番高価なものなのかもしれない。だからみんなが欲しがるのよ。」
サムハさんのそのペンダントはサムハさんが生まれた時にお父さんとお母さんがプレゼントとしてくれたものでした。
サムハさんは毎朝の散歩から帰ると、ボトルさんの入れてあるタライの水を新しいものに換えました。夜まで経つと水は緩くなってしまいます。だから朝冷たい水に換えるのです。ボトルさんはとても気持ちよさそうに見えました。それからサムハさんは勉強を始めます。教科書を広げノートを広げて一生懸命に勉強しています。その姿を見て手紙さんは偉いなぁといつも感心していました。
それと同時にサムハさんに手紙を書いてもらってからもうすぐ1ヶ月経つ。ニャーモさんからの返事はまだかなと思っていました。実はサムハさんも毎日それが気がかりでした。私の手紙が10日かかって届いたとしてお返事も10日かかるとして。もうそろそろ一か月だから届いてもいいのになと、毎日それが待ち遠しくてたまりませんでした。
サムハさんや手紙さんがそう思っていた数日後、郵便配達の人が大きな小包を持ってきてくれました。それを受け取ったサムハさんは
「ああ、とうとうニャーモさんからお返事が来たわ。でもただの手紙じゃない。こんな大きな小包よ!それにこの小包の上にすごいことが書いてあるわ。
『誰もこの小包を取らないで』って。こんな事書くなんて!あー私がお手紙の中にこの国は貧しいから、人の物を取ってしまったりする人もいるって書いたから、きっと不安に思ってこうやって書いてくれたのでしょうね。それにしてもなんて大きな荷物でしょう。
サムハさんは花ござを敷いた床の上に小包を置き、丁寧に封を開けました。そして驚きの声を発しました。なんということでしょう、これ!
そこから出てきたのは様々な模様の布で作った様々なもの。一体いくつあるのでしょう。サムハさんはそれらを床の上に広げていきました。どれもこれもとても綺麗です。やっぱり女の子、サムハさんはその綺麗な品物を見て驚くとともに、顔を真っ赤にして興奮していました。
半分ぐらい品物を取り出すと手紙が出てきました。
「手紙さん、ニャーモさんからの手紙が入っているわ。これ今読んだらいいかしら?」
「何時でもサムハさんの好きな時に読んだらいいと思いますよ。でもこれらの品物について何か書いてあるかもしれないから、やっぱり今読んだ方がいいかもしれない。」
「そうね、その通りね。」
サムハさんはうなずいて手紙の封を開けました。封筒の中には手紙ともうひとつ封筒が入っていました。何かしらこれ?と言って手紙を読む前にその封も開けました。米ドルが入っていました。お金が入ってるわ・・・・どういうことかしら?サムハさんは少し不安な気持ちになって手紙を読み始めました。
手紙を読み終わるとサムハさんは神様にお祈りをしました。心の中でこう願っていました。『どうかどうか私がニャーモさんの願いを叶えてあげることができますように。何もかも良いように物事が運びますように。どうぞお見守りください。私が間違えないようにどうぞ導いてください。』と。
「ニャーモさんの手紙にはどんなことが書いてあったの?私にも教えてくれますか?」 手紙さんはそう催促しました。
「もちろんよ。あのねこんなことが書いてあるわ。長い手紙でニャーモさんが流したメールボトルがどんな旅をしたのか全部とってもよく分かりました。サムハさんに拾ってもらえて本当に良かったです。って。そしてこのたくさんの素敵なものは、全部ニャーモさんがデザインして布になったものをニャーモさんが縫ってくれたの。この3枚とっても可愛いサンドレス。暑い国だからってこんな素敵なドレスを縫ってくれたの。びっくりだわ。こんなドレス、スラバヤの街で買ったらとっても高価よ。私になんか買えないようなドレス。それが3枚もあるなんて!どれも可愛らしい。この1枚はボトルさんがずらっと並んでいる柄ですごくいい。大好きだわ。
それからこの薄い布、この2枚はヒジャブって書いてあるわ。やっぱり私が手紙の中に学生の間は黒いヒジャブしか使わない。自分で働けるようになったら上等のヒジャブを買うって書いたから、私のために作ってくれたのだと思うの。
この模様は2枚ともとても不思議。」
2枚の布を持ち上げて手紙さんに見せました。
「ああ、その黒い方。黒地に様々な色が踊っているように見えるでしょう。それはフィンランドの冬の夜に見えるオーロラの模様。それからもう一枚の白い方。少しピンクがかっていて・・・それはね夏の白夜の模様よ。白夜に星は見えないけれどもニャーモさんは小さい星をいっぱい描いて可愛らしくしてある。ニャーモさんはサムハさんにフィンランドの夏と冬を知ってもらいたかったのだと思う。」
「とっても素敵ですね。夢のような夜空なのね。本当に素晴らしいお品もの。どうしましょう。こんなに頂いてしまって。」
「サムハさんドレスを着てみてください。私見たいです。」
「そうね。着てみましょう。」
サムハさんは3枚のドレスを持ってちょっと奥に入って着替えてきました。3枚ともとてもよく似合いました。
「嬉しいわ。本当に嬉しいわ。」
サムハさんは踊るようにくるくる回りました。
「ヒジャブも使ってみてください。黒じゃないヒジャブ姿のサムハさんの顔が、どんな風になるかとっても見たいわ。」
「今取り替えてみるわね。ちょっと待ってね。」
サムハさんはまた奥に入ってきました。最初にオーロラのヒジャブを頭に巻いてきました。その色柄とサムハさんの小麦色に日焼けした肌がとてもよくマッチして、いつもよりずっとずっと美しく見えました。サムハさんは鏡を見て、
「まあ、なんて素敵なんでしょう。私じゃないみたい。」
と言いました。そしてもう一枚の方のヒジャブに取り替えてきました。白夜のヒジャブをつけたサムハさんは、アラビアンナイトに出てくるお姫様のようでした。手紙さんがそう言うとサムハさんは少し恥ずかしそうにしましたが、やはり鏡を見て
「素晴らしいわ!これは学校で何か大きな催し物がある時。特別の日。そんな時に使うわ。本当に嬉しい。本当に嬉しい。
私はニャーモさんに感謝して、ちゃんとニャーモさんの願いを叶えてお返しをしなければいけないわ。」
サムハさんは言いました。手紙さんは最後の言葉の意味が分かりませんでした。
サムハさんは手紙に書いてあったニャーモさんの『お願い』のことだけは、手紙さんに話さなかったからです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます