第19話 第二部 決心
夜になってサムハさんはニャーモさんに手紙を書きました。もちろんお礼の言葉もいっぱい書きました。法を犯してまでドル札を入れてくれたことに関しても、ニャーモさんの心遣いに感謝しました。アラーの神様は許してくださいます。でもそこまでの心遣い本当に申し訳ない気がしました。私はニャーモさんの願いを叶えます。待っていてください。この手紙が届いた時、あなたの願いが叶います。
手紙にそのように書きました。
翌朝のサムハさんの行動はいつもとちょっと違いました。散歩に行くのかなと思っていたらボトルさんをタライの中から出し、ボトルさんの中に入っていた水を全部捨てそしてお日様の光が当たるところに置きました。どうしたんだろうと手紙さんは思いました。 そしてサムハさんは誰かに電話をかけていました。服装はとても地味なグレーのワンピースに黒いヒジャブでした。
熱帯の太陽の光はすごいです。ボトルさんはあっという間に外も中も乾いてしまいました。サムハさんは乾いたボトルさんの中に手紙さんを入れました。何で入れられるのだろう?今日はどうしたんだろう?手紙さんは不思議なことばかりと思いました。
その時自動車の止まる音がして手紙さんには分からない言葉、多分インドネシア語でその男の人は何か言いました。サムハさんは返事をしてボトルさんごと手紙さんを持ってその男の人の車に乗りました。二人は何かを喋っていましたが、手紙さんには分かりませんでした。手紙さんがわかるのは日本語とフィンランド語と英語。インドネシア語は全く分かりません。
しばらく車で走っていると町中に着きました、。サムハさんは言いました。
「この人私のお父さんなの。今日電話をしてスラバヤの町に連れて行ってって頼んだの。
ここがスラバヤの町なのよ。あなた達に一度見せてあげたかったの。私はここで育ったの。どんな感じ?」
とサムハさんが聞きました。
沢山の店が並んでいました。全部露店というのでしょうか。きちんとした建物ではなくてテントのようなものを張って、台を置いてその上に所狭しとものを並べ、テントからも色んなものがぶら下がっていました。そんなお店がずらっと並んでいるのです。様々な物を売っていました。食べ物屋さんもたくさんあるし、お洋服屋さんや靴屋さん。おもちゃ屋さんでしょうか。本屋さんもあるみたいでした。その他もう何だかわけがわからないようなものをたくさん売っているお店もありました。
そこに人々が集まって買い物をしたり、買ったものを道ばたで食べながら大声で話していたりしていました。
サムハさんのお父さんの車はオート3輪と呼ばれるものでしたが、この道にはオート3輪がいっぱい走っていました。そしてスクーターと呼ばれる乗り物でしょうか。自動車もスクーターも自転車も人も、みんなごちゃごちゃで歩いてごちゃごちゃで走っていました。
手紙さんはフィンランドを思い浮かべて、ずいぶんと違うんだなーここがスラバヤ、インドネシア。サムハさんはこの地に住んでいるんだな。サムハさんが生まれた時からの居場所なんだから、きっとこういう情景は不思議でもなんでもないんだろうなと思いました。 でも手紙さんは心の中で、うまく説明はできないけれども、ここは自分の居場所じゃないような気がすると思いました。暑い国ですから食べ物に虫がたかっていたりします。ハエがブンブン飛んでいたりします。北の国は寒いからそんなことは全くありませんでした。本当に違う何もかも違う。でもサムハさんは全く気にしていないようでした、ボトルさんにちょっと尋ねてみると、ボトルさんもいやというような素振りを見せたのでした。
サムハさんはお父さんにお願いしたのでしょうか、スラバヤの街の中心部へ来ました。そこはさすがに整備されていて、高いビルディングなどもいっぱいありました。
「ここはねスラバヤの中心地。政治や経済の中心地なのよ。ここはこんなに開けていてとっても近代的だけども、その他のところはさっき通ったような所ばかりなのよ。」
とサムハさんは言いました。そしてお父さんにお願いして自分の家に連れて帰ってもらいました。お父さんはサムハさんに何か言って、オート3輪を運転して帰っていきました。
サムハさんはそのままメールボトル19を抱えて海辺を散歩しました。
「町中はね、私もあまり好きじゃないの。だからこういう所に一人で住んでいるのよ。ごちゃごちゃしていて、いろんな匂いもして、たくさんの人がいて、なんだか落ち着かないでしょう。それでも私の生まれたところで私の居場所なの。
手紙さん達はあの町が気に入ったかしら?」
手紙さんはすぐに返事ができませんでした。好きではないなんて絶対に言えません。言葉が見つからなかったのでこう言いました。
「海がすごく綺麗。ここからの景色は最高ですよ。大好きですよ。」
と。
サムハさんはにっこり笑って
「そうよね。そう言ってくれてありがとう。」
と言いました。
お家に入るとすぐに水を張ったタライの中にボトルさんを入れました。
「暑かったでしょう。ごめんなさいね。しばらくここで涼んでね。」
ボトルさんはほっとしたように見えました。
サムハさんは目的を果たしたと思いました。自分の心がしっかりと固まるように。そして手紙さんたちの気持ちも確かめたのだけれども、その気持ちもちゃんと分かりました。
午後、サムハさんは熱心にお祈りをしていました。
『アラーの神様、私に決断の勇気をお与えくださってありがとうございます。この子達と別れることはとても寂しいことで、私にそれができるのか心配でたまりませんでした。
この子達と過ごす毎日は格別でした。私はこの子達が大好きです。でも自分の欲を考えてはいけないのがアラーの神様の教えですよね。
私よりもっともっとこの子達を必要としている人がいるのですから。
私は大丈夫です。私がメールボトル19さんを拾ったこと。一緒に過ごした毎日は夢ではなく本当のことでした。その沢山の思い出が私の中にちゃんとあります。だからいつでもこの子達の事を思い出せますし、お話もできることが分かりました。
神様、素晴らしい時を与えてくださって心から感謝致します。』
翌朝、白地に薄い色でたくさんのベリーが描かれている布で作られたサンドレスを着て、頭には白夜のヒジャブをつけたサムハさんに手紙さんは驚きました。それは本当にお姫様のように綺麗だったのですが、白夜のヒジャブは特別な日につけるとサムハさんは言っていたのに、今日は何か特別な日なのだろうか?と。
サムハさんはまた今日も昨日と同じように、ボトルさんをタライの中から出して、お日様がカンカンと照りつけるところに置きました。ボトルさんはあっという間にカラカラに乾きました。そしてやはりその中に手紙さんを入れました。又どこかに連れて行ってくれるのかしら?と手紙さんは思いました。
けれど手紙さんの入ったボトルさんを抱きかかえて、サムハさんは浜辺を歩き出しました。
サムハさんはにっこり笑って、遠くを指さし
「バリ島はあっちよ。ここからは見えないの。ここはスラバヤ。あなた達はバリ島に行きたかったのよね。ここで良かったのかしら?」
と聞きました。手紙さんは答えました。
「バリ島がどんなに素晴らしいところか知りません。でもここで良かったんです。だってサムハさんに会えたんだもの。バリ島だったらサムハさんに会えていない。だからここで良かったんです。」
サムハさんは嬉しそうに笑いました。
「じゃあお家に帰りましょう。」
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