第17話 第二部 お願い

その晩ニャーモさんは机にむかって手紙を書き始めました。空ではオーロラが様々に色を変えながら踊っているとても美しい夜でした。ニャーモさんはひとつひとつ言葉を選びながらとても慎重に、そして丁寧に手紙を書いていました。

 手紙を書き終わると大きなため息をついてしばらく考え込んでいましたが、やっぱりというように自分の机の引き出しを開けて、そこにある封筒を取り出しました。その中には何枚かのドル札が入っていました。

「これだけあれば大丈夫、足りるわ。分かってるの。小包にお金を入れるのは法律違反だっていうこと。それぐらいわかっているの。でも学生のサムハさんに余計な出費をさせたくないし、それにきっとサムハさんの信じている神様はお許しくださると思うわ。そうに違いない。私は特に宗教は持っていないけど、でもトントゥが許してくれるわ。」

 ニャーモさんは独り言を言いながらドル札の入った封筒を丁寧に糊付けし、自分が書いた便箋でその封筒を包み、もう少し大きな封筒にそれらを入れきっちりと封をしました。 出来上がった手紙を布製品の入っている小包のちょうど真ん中あたりにはさみ込み、開けてもすぐに分からないようにしました。そして小包の蓋を閉めました。ガムテープでしっかりと閉めました。でもまだ用心をしなければいけません。すごい雨が降るかもしれない。それで大きなビニールで小包をきれいに包みました。これで雨にぬれても中のものに染み込んではいかない。サムハさんの住所を書き、自分の住所を書き。


しかもニャーモさんは余白のところに文章を書きました。

『この荷物は私の大事なお友達へ贈るものです。どうかこの小包を持って行かないでください。彼女に届けてください。もしあなたがこの小包のものを欲しいと思ったら私の住所に手紙をください。この小包の中と同じものをあなたに送ります。必ず約束します。だからどうかこれをきっちりサムハさんの所に届けて下さい。』

 ニャーモさんはサムハさんからの手紙を受け取って、インドネシアはフィンランドと違って貧富の差も激しく、貧しい人達もまだ多くいる国。もしかしたら小包を横取りして中の物を売って生活の足しにしてしまうかもしれない。そう考えたのです。でもこれだけはどうしてもサムハさんに届いてもらわなければならない品物だったので、そのようなことを小包の上に書いたのでした。ニャーモさんはもし本当に誰かが私に手紙を送ってきたら、必ず同じものを作って送ってあげようと考えていました。


翌日郵便局に電話をかけました。外国へ送る小包を一つ取りに来てくださいと。しばらくたつと郵便局の車が止まって、ドアをノックする音が聞こえました。

「雪の中をありがとうございます。これです。インドネシアに送ってください。航空便で送ってください。何日ぐらいで着きますか?」

「航空便だと10日かかるかかからないかくらいですね。でも航空便だと少し高くなりますがいいんですか?」

「はい早く着いてほしいのです。」

 ニャーモさんはそう言って航空便代のお金を払いました。郵便局の人は確かに預かりましたと言って帰っていきました。

 ニャーさんは大きな大きな仕事が一つ終わったと思いました。後はサムハさんがどういう風に私の手紙を受け止めてくれるのか、もうそれを待つしかないと思っていました。

 ニャーモさんはまたサムハさんから来た手紙を読み返しました。そしてどうしてもこの願いは叶えて欲しいと強く思ったのです。


手紙さんはニャーモさんの様子をずっと眺めていました。ニャーモさん疲れただろうな。ぐっすり眠るといいのにな。できることならフィンランドの子守歌を歌ってあげたい。でもそんなの知らないし、ニャーモさん少しおやすみなさい。声には出さなかったけれども手紙さんはそう語りかけました。

 ニャーモさんにそれが通じたのでしょうか。暖炉の前の深いソファーに腰を下ろし、おなかにブランケットをかけて、ほっと一息ついたかと思うとすやすやと寝てしまいました。ニャーモさんの気持ちの良さそうな寝顔を見て、手紙さんはほっとしました。


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