第16話 第二章 ニャーモさんの気持ち
ニャーモさんはサムハさんの書いてくれた手紙を全部読み終えて、ほーーーっと大きな大きな息をしました。自分がデンマークのあの浜辺から流したメールボトルは、こんなすごい旅をしてサムハさんの元にたどり着いたのだ。感激と言う言葉だけでは言い表せない感情がこみ上げてきてニャーモさんはとうとう泣き出してしまいました。
顔を両手で覆っておいおい泣き続けました。そんなニャーモさんを見て手紙さんが声をかけました。
「ニャーモさん。」
ニャーモさんは顔をあげて泣き笑いの表情で手紙さんに言いました。
「ごめん。泣いたりして心配かけてごめん。哀しくて泣いたんじゃ無いの。嬉しくてたまらなくなってしまったの。手紙さん、あなたはメールボトルナインティーンと言う名前だったのね。」
「はい。私はすっかり忘れていたの。あの子が思い出させてくれました。」
「手紙さん、あの子とボトルさんの旅、全部お話してあげるね。」
ニャーモさんはそう言って話し出しました。手紙さんは黙って聞いていましたが・・『手紙さん』と手紙さんは同じもの。分身、同体なのです。だから本当は今回の旅のこと、すでに全部知っていたのです。でもそのことはニャーモさんには言いませんでした。
「ありがとう。」
手紙さんは話してくれたお礼を言って
「お返事書いてあげてね。私は安心してまた眠ります。」
とまた黙ってしまいました。手紙さんもすごく嬉しかったのです。ニャーモさんがこんなに喜んでくれたことが。
ニャーモさんは優しく手紙さんをなでて、すっかり泣き止み、サムハさんからの手紙を何度も何度も読み返していました。長い長い旅の物語、手紙さんが知ったこと、考えた事、それらを頭の中にたたき込むかのように繰り返し読み続けました。
その中でニャーモさんの心に矢のように突き刺さって、抜けなくなったことがありました。
翌日ニャーモさんは朝ごはんを食べるとすぐに精力的に動き出しました。自分がデザインして布になり、それを購入したものを全部床の上に広げました。そして
「どれがいいかな?どれがいいだろう?どれがいいの?」
と大きな声で独り言を言いながら布を選んでいました。
「これとこれとそれがいいわね。」
と3枚の布を選び、それからうんうんとうなって考えていました。
「ここにあるものでは駄目だわ。」
そう言って机の引き出しを開け、新しく描いていたデザイン画を取り出しました。それはオーロラを題材にしたデザイン画と、白夜を題材にしたデザイン画でした。
ニャーモさんは突然、履いていたズボンの上にダウンのズボンをはきました。着ていたセーターの上にダウンのジャケットを着ました。靴下を3枚履きました。それからその上にトナカイの毛皮でできた長いコートを羽織りました。同じ素材の帽子を目深にかぶり、分厚いマフラーで首と鼻と口を覆いました。分厚い手袋をして最後に雪用のロングブーツを履きました。そして手紙さんに
「行ってくるわね。」
と言って飛び出していきました。この格好は不思議でも何でもないのです。ニャーモさんはンケラド工房に行く時、あるいは外に出る時、冬はこれぐらい着込まないとすぐに凍えてしまうのです。鼻と口を覆っていないと、とても冷たい空気が肺の中に入ってきて呼吸ができなくなってしまうのです。これはこの国に住む人の冬の外出の仕方でした。
ンケラド工房に行くとニャーモさんは自分が描いた2枚の絵を工房の人に見せました。
「これで布を作って欲しいんですけれども。」
「これらのデザインはみんな好んでどんどん売れそうだね。早速作ることにしよう。」
ニャーモさんは店に置いてある白地の布を見ていました。
「えーとこの布、これで作って欲しいんです。お願いします。そしてなるべく早く作って欲しいんですけど。」
「この布だとそうだね。一週間もしないうちにできると思うよ。」
「じゃあお願いします。」
ニャーモさんは工房の人に頼んでお家に帰りました。
一つ用事が済んだニャーモさんは最初に選んだ3枚の布を残して、あとは全部片付けました。型紙を作りその通りに布を切っていきました。ミシンを出してどんどんどんどん縫っていきます。次の日も同じ作業をしていました。その次の日も同じ作業していました。その次の日も同じ作業していました。そしてとうとう3枚のサマードレスが出来上がりました。ニャーモさんはそれを見て、
「うん上出来上出来。とっても可愛いわ。長さもいい感じだし柄もすごく可愛いのを選んだし大丈夫。これならきっと気に入ってもらえるわ。」
そう思って満足しました。
それから自分がすでに作り置いていたテーブルクロスやクッションカバーや可愛いバッグ。そんなものを取り出して選び出しました。どれがいいかなーどんな感じが気に入ってもらえるだろう。選んでいる間ニャーモさんはとっても楽しそうでした。そして奥の物入れから結構大きな段ボールを出してきました。まずダンボールに大きなビニールを敷いてそしてその中にきちんとたたんだ布製品をどんどんと詰めていきます。
「うん、あとはンケラド工房に頼んだあの布だけだわ。」
5日経ってンケラド工房から電話かかってきました。出来上がった連絡でした、ニャーモさんはまたあの服装をして勇んで工房に行きました。布はとても綺麗に仕上がっていました。
「すみません。これ両方5M ずつ欲しいんですけど、そんな少しでも売ってくれますか?」
「もちろん売ってあげるよ。ニャーモさんの描いたデザインは、非常に雰囲気が良くて評判がいいんだ。ほんと買わなくてもあげたいぐらいだよ。」
「いやいやちゃんとお金を支払います。本当に無理を言いました。ありがとうございました。」
ニャーモさんは大事そうにその布を抱えて家に帰りました。それを広げてみました。
「うん、とってもいい!」
そしてミシンで端がほつれないようにだけ縫いました。
「さあ全部出来上がった。これでよし。あとはお手紙を書くだけだわ。少し休んで今晩ゆっくりお手紙を書こう。」
ニャーモさんはそう言って満足そうに微笑みました。ニャーモさんの様子を毎日見ていた手紙さんは、きっとニャーモさんはサムハさんにプレゼントしたいんだなと思っていました。あの3枚のドレスはニャーモさんが着るには若すぎる。それにあんなふわふわのサンドレス、フィンランドではあまり着ないよね。風をはらんで寒そうだもの。暑い暑い国だから夏でも冬でも、冬があるのかどうかは知らないけど、一年中着られるね。ニャーモさん色々考えたんだねと思って、手紙さんは手紙さんなりに満足していました。
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