第15話 第二章 サムハさん

サムハさんと名乗った女の人はしばらく歩くと

「ここ私の家よ。」

と家の中に連れて行ってくれました。不思議な家でした。屋根が草みたい。二重になっていて間に隙間がありました。壁が少なくてドアといえばいいのか窓と言えばいいのか?それが全部開け放たれています。そして天井に4枚の羽根があるものがくるくると回っているのです。スクリューかなと思いましたが形は違いました。

 サムハさんは、ちょっと待っていてねと言って、大きなタライに冷たい水をいっぱい入れてやってきました。そしてボトルさんの中から私を取り出して自分の机の上に置き、ボトルさんをその水の中に浸しました。

「熱かったでしょう。ここで浸っていたら涼しくて気持ちがいいと思うわ。」

 私はサムハさんはとてもやさしい人だなと思いました。ボトルさんは水の中でとても気持ち良さそうにしていました。

 「サムハさん、私を読めますか?」

「読めますよ。ニャーモさんっていう人が書いてくれたのですね。」

「はい、そうです。ニャーモさんにお返事を書きますか?」

「もちろんですよ。だってメールボトルさんは遠い国からやってきてくれたんですもの。遠い国のお返事をちゃんと書かなくては。」

 サムハさんの返事に私はほっとしました。

「ここはバリ島ですよね?」

 サムハさんは小首をかしげて笑いました。

「ここはバリ島じゃないわよ。向こうに見えている島はマドゥラ島。バリ島はもう少し南東の方でここからは見えないわ。ここはインドネシアのジャワ島って言うの。その一番端っこで。ここの名前はスラバヤって言うのよ。あなたはバリ島に行きたかったの?」

「はーい。」

と私は言いながら、いやここでよかった。このサムハさんに拾ってもらえて良かったと思いました。


「ここの家は私がいたフィンランドの家とはずいぶん違います。」

 サムハさんは言いました。

「フィンランドは北国だからとても寒いでしょう。ここは一年中とても暑いの。だからねお家の屋根は草葺で途中に隙間があって風が入るようになっているのよ。ドアも全部開いて風が通るようにしているの。天井で回っているのはシーリングファンって言って回ることによって風を起こしているの。とにかく風を入れて風を通して、少しでも涼しくしなきゃ暑すぎるんですもん。」

と笑いました。

「サムハは学生さんだと言いましたよね。何の勉強しているんですか?」

「私は海洋生物の勉強しています。海の生き物について色々と学んでいるのよ。だってこんなに海が近くてたくさんの魚たちや海藻やサンゴや色々なものが海の中にはいるのだもの。それらのことを勉強して海の生き物を大切にしたいなって考えているの。」

 サムハさんはとても真面目な人のようでした。私は熱い国の過ごし方もサムハさんの学んでいることも知りました。でもわからない不思議なことがありました。


「あなたは何で黒い布で頭を覆っているのですか?暑いでしょう。」

 サムハさんはまたにっこりしました。にっこりするととても可愛らしい人です。

「私はね、イスラム教という宗教を信じているの。アラーの神様というのがいらっしゃるの。イスラム教の女性はみんな布で髪の毛を隠さなくていけないことになっているの。

 でもね最近は女の人だけそんなことをするなんて男女差別だわって言って、イスラム教徒の女性の中にも頭に布をかぶらない人が増えてきたのよ。これはヒジャブという名前なんだけれども、かぶらない人も増えたし、それから黒い布ではなくてとっても鮮やかな色や綺麗な模様のあるヒジャブを被ってる人も増えてきたわ。どんどん世の中というのは変わってくるものなのよ。」

私はそうなのかと思いました。暑いのに黒い布をかぶっている理由は分かりました、でも宗教ってどんなものなのだろう?

「サムハさんはずっとヒジャブをかぶりますか?綺麗な色や模様のあるヒジャブにはしないのですか?」

 「私は学生でお金もそんなにないわ。大学を卒業してお仕事で賃金がいただけるようになったら、綺麗な布のヒジャブを買います。今はまだ我慢ね。」

サムハさんはまた笑いました。どこにでもいる普通の女の子です。オシャレもしたいだろうし、遊びたいだろうし。そういうこともイスラム教は禁じているのかな?と思ったので聞いてみました。


「ううん。イスラム教はそんなにたくさんのことを禁じたりしていないわよ。みんなでパーティーしたり、ダンスをしたり、遊ぶことだってたくさんできるのよ。大切なのはほかの宗教の人たちをも尊敬すること。妙な宗教だと自分たちの宗教以外の人たちを『サタン、悪魔』って呼んだりする。とんでもないことだわ。それにいっぱいお金を出さなくちゃ神様が怒ってしまって悪いことが起こりますとか言って、信者にたくさんのお金を払わせたり。そういう宗教は絶対だめね。イスラム教はそんなことは絶対しないのよ。

いくつか決まりがあるだけ。このヒジャブもそうだし、イスラム教では豚肉は食べてはいけないの。あとは何でも食べていいし・・・お金を払うこともないし。お祈りだけしていたらいいの。

 それからね、『ラマダン』と呼ぶ時があって、一ヶ月の間、断食するの。断食って飲んだり食べたりしないことよ。イスラム教はそれだけ。」

それだけって・・・と私は驚きました。一ヶ月もの間、飲んだり食べたりできないって。この暑い国で飲み物摂らなかったら熱中症になってしまう。下手をしたら死んでしまうじゃないと怖くなりました。


「大丈夫!!アラーの神様は優しいの。一ヶ月と言ってもね、お日様が昇る前とお日様が沈んだあと、私たちは体に優しい食事をしていいのよ、もちろん飲み物もたくさん飲んで良いの。お酒はだめだけれどね。それでお日様が出ている間は涼しい木陰で過ごすの。だから大丈夫なのよ。」

 サムハさんの話を聞いて私はイスラム教のことをだいぶ知ることができました。ふと思いました。ニャーモさんは何か宗教を信じているのかな?って。そして思い出しました。ニャーモさんが暖炉の上に飾ってあるトントゥの事。あの妖精さん達がフィンランドの人を守ってくれると言っていた・・・やっぱり神様みたいなものなのだろうなと思ったのでした。

  

 ニャーモさん。これで私の旅の話は終わりです。ここまで私が語って、サムハさんが英語で書いてくれました。サムハさんに感謝です。

 ニャーモさんこの長い手紙が届いたら、サムハさんにお返事を書いてあげてくださいね。

 :::::::::::::::::::::


ニャーモさん、サムハです。これでこの手紙はおしまいに致します。一日も早くあなたのお手元に届くように願っております。    サムハ


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る