第12話 第二部 間違えても
そう言い残してアミメオトメエイさんは大きなひれをふわっと翻して泳いでいきました。それは踊りのように見えました。ニャーモさんがお家の中でもお外でも時々ふわふわ踊っていたのを思い出しました。
アミメオトメエイさんは少し軽い感じがしましたが、ちょっとニャーモさんに似ているような気もして私は嫌いじゃありませんでした。それにいっぱいいっぱい教えてくれたのですもの。
私たちは東へと漂って行きました。けれどアミメオトメエイさんが言ったようには海の色が変わらず、ずっと同じ色のままでした。おかしいなぁと思いました。あのアミメオトメエイさんが嘘をつくとは思えませんでした。
・・・・・多分、私たち間違えてしまったんだ!いったいここはどこ?バリ島にはどうやって行けばいいの?私は混乱してしまいました。
その時です。黒い大きな大きな影が見えました。その大きさはサメやエイと違ってもっともっと大きかったのです。私は間違いなくくじらさんだと思いました。もしかしたらあのくじらさんかもしれない。ああ PHR 07さん!そうなのだろうか?私はくじらさんの方に近づいてとボトルさんに言いました。ボトルさんも同じ事を考えたのかもしれません。どんどんとくじらさんの方に流れていきました。すぐ近くまで来た時私はくじらさんに声をかけました。
「こんにちは。私はメールボトル19です。あなたはマッコウクジラさんですか?」
するとそのくじらさんはにこっと笑って
「お嬢ちゃん、わしはシロナガスクジラじゃよ。シロナガスクジラのおじいちゃんじゃ。この辺りのクジラの仲間の中では多分わしが一番の年寄りじゃよ。
知っておるかな?お嬢ちゃん、アメリカの偉大な作家ハーマン・メルヴィルっちゅう人が書いた『白鯨』と言う有名な小説な。あのモデルはわしのおじいちゃんなんじゃよ!ほっほっほっほ。すごいじゃろ!」(注)
「シロナガスクジラさんって言うのですね。そうなんですか?私はそのお話を知りませんが、すごいですね!小説になっちゃうおじいちゃんなのですね。」
シロナガスクジラのおじいちゃんはふっふっふっと笑いました。どうもおじいちゃんになって歯がないようです。私はこのおじいちゃんくじらさんはとっても優しいと感じたのです。
「あのここはどこでしょう?私はバリ島に行きたいのですが・・・・インド洋のあたりを流れていたのですが・・」
「バリ島??うーん?ここか??ここは東シナ海と言う海じゃ。バリ島はもっとずっと南じゃよ。お嬢ちゃん、たくさんの島があったじゃろ?その島と島の間をややこしく流れてしまってどんどん北に向かってしまったんじゃなぁ。」
私は急に力が抜けてがくっとしてしまいました。ニャーモさんに南のお話がしてあげたかったのに、又北に向かっているって・・・確かにあのとっても熱くてたまらない海とは違っていました。どうしたらいいのかしら?考えても何も浮かびませんでした。ボトルさんも困った様子です。
そんな私の様子を見てシロナガスクジラのおじちゃんが言いました。
「お嬢ちゃん、間違えるちゅうことはそんなに悪いことではないぞ。その証拠にこうやってわしと出会えたじゃろ。間違えた為に何かほかの良いことがあるかもしれんじゃろ。なんぞ、わしにできることはないかのぉ?」
と。
その時急にこのおじちゃんくじらさんに尋ねてみようと思ったのです。PHR 07さんのことを。
「私の名前はメールボトル19です。ずっと以前にマッコウクジラさんに出会って私はこの名前をつけてもらいました。マッコウクジラさんの名前はPHR 07さんです。私はこのくじらさんに助けてもらったのです。会いたいなと思います。おじいちゃんくじらさんは PHR 07さんのことを知っていますか?」
おじいちゃんくじらさんはしばらく考えていました。
「わしはずいぶん長く生きているんでな、もしかしたらむかしむかしに出会ったことがあるかもしれん。けど覚えておらんの。」
私はちょっとがっかりしましたが、広い広い海の中には沢山のくじらさんが居るのでしょうから、おじいちゃんくじらさんが覚えていなかったとしても、会ったことがなかったとしてもそれは仕方のないことだと思いました。おじいちゃんくじらさんにお礼を言ってお別れをしようと思った時に、おじいちゃんくじらさんはちょっと待ちなさい、と言いました。そして私をパクッと口の中に入れたのです。
「お嬢ちゃんしばらくここにいなさい。飲み込んだりせんから心配せんでええぞ。」
おじいちゃんくじらさんの口の中はやっぱり歯が全くありませんでした。ボトルさんはとにかく飛び出ないように舌のしわの間に挟まりました。(注:シロナガスクジラには歯がありません。ヒゲくじらと言ってもともと歯がないのです)
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