第23話 第二部 オーロラの夜

「 はい」

 ドアが開きました。

「国際郵便ですよ。インドネシアからです。」

「うわーーーー本当に?ありがとう。」

 ニャーモさんはそう言って小包を受け取りました。ニャーモさんは大興奮していました。

「帰ってきたわ!帰ってきたわ!メールボトル19が帰ってきたわ。」

 急いで箱の蓋を開けました。そうすると暖かい空気が箱の中に入ってきました。暖炉の火が赤々と燃えていて、小さな木々がパチパチと爆ぜる音がします。その暖かさ、あの暑さとは違う暖かさ。まだ柔らかい布に包まれていましたが、手紙さんもボトルさんもその暖かさがとても心地が良いと思いました。


ニャーモさんは布を取りました。メールボトルを抱き上げて

「おかえり。おかえり。とうとう帰ってきたんだね。ずっと待っていたんだよ。ああ本当に帰ってきたんだね。」

 そう言って頬ずりをしました。それから窓辺に飾ってある額に入れた手紙さんを降ろして、額の中から手紙さんを出しました。

「手紙さんここにいちゃだめだよね。あなたもボトルさんの中に入らなきゃいけないよね。

 ボトルさんの蓋を開けて最初の手紙さんを入れました。ボトルさんの中には2通の手紙が入りました。

手紙さんは『手紙』さんとボトルさんに『おかえり』と優しく言いました。

ニャーモさんは心の中でサムハさんにうんと感謝していました。なんどもありがとうと繰り返していました、この子達と別れるのはサムハさんもとっても寂しかっただろうに・・・私の願いを叶えてくれた。ありがとうサムハさん。と。


「手紙さんと手紙さんじゃややこしいわね。宮子さんが書いてくれた手紙さんは日本語だから、お名前は『手紙さん』私が書いた手紙はフィンランド語の手紙『キリエさん』ボトルさんはボトルさんでいいわね。」

と言ってニャーモさんはにっこり笑いました。

 二番目の手紙さんはこれからはキリエさんです。

「お名前嬉しい。でもニャーモさんの相棒のモーターサイクルのお名前は?」

 キリエさんはそう尋ねました。

「・・・・あの子はヴィットピレンと言うモーターサイクルなのだけど・・・・そうね、お名前ね。じゃあ、あなたたち考えてくれる?」

「ヴィットピレン?んーっと・・・・じゃぁ・・・・ピレン!」

 手紙さんもそれがいいと言いました。

「あははっは、ピレンちゃんね、良いわね。決まりね。」

 ニャーモさんは楽しそうにくるくる回って踊り出しました。


その時、キリエさんと名付けられた手紙さんは『私の話を聞いて』というように突然喋り出しました。

「ガタガタガタって音がしてストンと落ちるの。わけのわからないところに置かれて色んなインドネシア語聞こえて。サムハさんはお姫様のように綺麗で。白夜のヒジャブ特別な日にするって言ったの。サムハさんのお父さんの車でスラバヤの町に行ったの、そこごちゃごちゃしていて。特別の日って言ったのに郵便局に行く日、サムハさんは白夜のヒジャブしたの。ええとね、乱獲はいけないの。珊瑚は高く売れるから夜中に取りに来る人がいるの。ボトルさんの首にサムハさんの大切な珊瑚のペンダントかけてくれたの。そしてガタガタガタガタ何日も何日も。それからね、斜めになったの。後ろにすごく引っ張られるの。郵便局でサムハさんがテリマカジって言ったの。バリ島だと思ったら違ったの。でもそれで良かったの。とってもいっぱいぎゅうぎゅうづめでね。それから眠ったけれども、ものすごい音がして落ちたの。ストーンと落ちたの。落ちたけれどもドアが開いたらとっても寒くてフィンランドと分かったの。すごく嬉しかったの!スラバヤの町ねテントのお店がいっぱいでガチャガチャしていてフィンランドとは全然違ってた。サムハさんは神様にお祈りをしていたの。」


手紙さんは面白そうにほほえんでいました。キリエさんとは同体だからキリエさんとボトルさんが経験してきたことは全部知っています。でも。私は何も言わないでおこう。キリエさんがいっぱいお話がしたいのだから。

 ニャーモさんは目を丸くしながら笑って言いました。

「わかった、わかった、わかった。全然分からないけど分かったわ。いっぱいいっぱいお話ししたいことがあるのね。キリエさん、あなたの話はめちゃくちゃよ。今日はもういいから明日ゆっくり聞かせてね。

 キリエさんもボトルさんも長い旅で疲れているだろうし、今夜はゆっくり暖かくお休みなさい。ここにサムハさんの手紙があるわ。サムハさんはあなた達と郵便局でお別れして、私の手元に帰ってくるまでの旅の話が聞きたいって書いてある。だから私はあなたに全部聞いて、そのことをサムハさんに書いて送ってあげるわ。今のあなたの言葉では何が何だかさっぱり分からない。落ち着いてね。明日ゆっくり話してちょうだい。」

キリエさんの興奮した様子がとてもおかしいのか、ニャーモさんは言いながら涙を流して笑い転げていました。


ニャーモさんはテーブルの上に手紙さんキリエさん、ボトルさんを置きました。そしてキッチンに行って四つのカップに温かいミルクティーを作ってきて、それぞれの前に置き、自分も椅子に座りました。

「これで体があったまるわ。」

とニャーモさんは言いました。それはまるで家族団らんの絵のようでした。


ニャーモさんはミルクティを飲み干すと、立ち上がってカーテンを開けました。

「あなたたち見て。ほら空を見てごらん。今夜のオーロラは今までにないぐらい美しいわよ!」

 メールボトル19はニャーモさんの言葉にお空を見上げました。確かに美しいオーロラの夜でした。

 けれども満足そうに幸せの笑顔で夜空を見上げているニャーモさんの横顔が、そのオーロラよりももっともっと美しいと思ったのです。


                         第二部  終わり



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遠い国の返事 @Kyomini

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