第10話 第二部 ランタンフィッシュ
私はエイヤさんと別れてスエズ運河を通っていきました。確かに両岸が見えます。街があったり草原があったり、広い海とは違うことがよくわかりました。そしてたくさんの船が通っているのです。こんなに船と近くになったことはなかったのでちょっと怖いなと思うのと、なんだかおもしろいなと思う気持ちがありました。それでもボトルさんにあまり近寄らないようにしようねと話しかけると、分かったというように船から遠ざかりました。
スエズ運河を抜けるとそこには非常にたくさんの船が止まっていました。なんでこんなに止まっているのかなと考えたのだけれども、多分スエズ運河は狭いからいっぺんにたくさんの船が通れない。それで順番を待っているのだなと思いました。大きな船ばかりです。色々な船がありました。荷物をいっぱい積んでいる船もあるし、船自体が大きな倉庫のように見えるようなのもありました。それから全部灰色の船もありました。こんなにたくさんの船が、スエズ運河ができる前はアフリカ大陸と言うのをぐるっと回っていたのだなあと、その時のことを想像しました。
しばらくその辺りを漂っているとたくさんの魚がやってきました。その魚たちはかわった色をしていました。そして私に言いました。
「ダメよ、もっともっと深く潜って。もっと深く。船のそばに行っちゃだめ。船のお尻に大きな羽みたいな物が見えるでしょう。あれはスクリューって言ってあのスクリューに巻き込まれたら粉々になってしまうのよ。だから絶対近くに行っちゃだめ。」
そう教えてくれた魚さん達はとてもぱっちりした大きな目で、奇妙な色をして群れで泳いでいました。どこかで見たことがあるような気もするけども、はっきり思い出せません。海面の方を見上げると、確かに大きな羽が回っています。そっかあれに触ってしまったら粉々になるのね。海の中は危険がいっぱいなんだわ。ボトルさん気をつけようね。そしてそのお魚さん達に言いました。
「教えてくれてどうもありがとう。私はスエズ運河を渡ってきたのだけれども、ここは何という海ですか?」
「ここは紅海よ。」
え?アラビア海じゃないの?じゃあ私は間違えたのかしら?
「あの、地中海でお別れしたマダラトビエイさんがスエズ運河を渡るとアラビア海だよって教えてくれたのですが・・・・」
「ああ、大丈夫。少し行くとアラビア海に入るからね。間違っていないわよ。」
私はそれを聞いてほっと安心しました。
「ここにはものすごくたくさんの船がいるけれども、みんなスエズ運河を渡りたくて待っているんですね。全部灰色の船は何なんでしょう?」
「あーあれは軍艦よ。ここはいろんな船が通るでしょ。当然便利だからなんだけれども船にも怖いことがあるのよ。それはね荷物を狙ってくる海賊船がいるの。海賊船は宝物の荷物を積んでいる船の横に近づいて、海賊たちが飛び乗って全部持って行ってしまうの。そんな海賊たちから普通の船やお仕事の船を守るために軍隊の船が来ているの。
軍隊の船が来てからは海賊船はあまりこなくなったみたいよ。だって悪いことしたらやられちゃうから。」
私はまた一つ物を覚えました。そういうこともあるんだ。人の船から物を盗んでしまう。そんな悪い人たちがいるんだね。そんなことにならないように守っている船の人たちもいるんだね。色々なんだなあと思いました。
「あなたはどこへ行くの?」
と魚さんが聞きました。
「アラビア海からずっとずっと進んで行こうって思っています。どこまで行くのかそれは分かりません。でも私はメールボトルなのでどこかの国の浜辺にたどり着くこと、それが私の役目なのです。」
「そう。どんな国がいいの?」
「暖かいところがいいなと思っています。」
「だったらここから東へまっすぐ進むといいと思うわ。そのうちにインド洋に出るわ。そのあたりになると小さな島々がいっぱいあるのよ。」
「あのー私はメールボトル19と言います。自己紹介が遅くなってごめんなさい。あなた達は何というお魚さんですか?」
「私たち?私たちはランタンフィッシュって言うの。ランタンフィッシュはイワシの仲間って言われてるけど、どうも親戚じゃないみたい。よく分からないけど。」
イワシの仲間と聞いた時に、私は日本を出てしばらく行った時にイワシの群れにあったことを思い出しました。どこかで見たように思ったのはそのためでした。でもこのランタンフィッシュさん達はイワシさんとはずいぶん違うように見えました。
「私たちは南国の魚だから普通のイワシとはだいぶ違うと思うの。同じ仲間の魚でもすむ地域によってずいぶん違うのよ。その場所に一番合うようにだんだん変化してきたのだと思うわ。昔昔からね。普通のイワシのすんでいる辺りはあまり怪しい魚がいない処だと思うの。 でも南の海には妙な魚もいっぱいいるし、私たちは色を変えることができるの。海の深さによって色を変えるのよ。深いところでは茶色になって岩場にへばりついているの。そうしたらね、大きな強い魚が来ても私たちのことがわからないのよ。岩だと思ってしまう。そうやって色を変えて自分たちの身を守るのよ。
それから私たちの体って光るのよ。きらきら光るの。ランタンって灯りのことでしょう。電気がついたように光るの。」
私はこの魚さん達も自分の身を守る武器を持っているんだなと思いました。小さな弱い魚さん達は大きな強い魚さんたちに食べられないように、いろんな武器を持っているんだな。マダラトビエイさんの言った言葉がよみがえりました。
「ランタンフィッシュさん達の灯りがつくのが見たいわ。」
私は思わずそう言ってしまいました。
「じゃあもっと深く潜ってみましょう。ついていらっしゃい。」
ランタンフィッシュさんたちは私たちを深いところまで連れて行きました。 そこは真っ暗な夜のようでした。その時たくさんのランタンフィッシュさんたちが一斉に光り出しました。青、緑、黄色。そしてたくさんのランタンフィッシュさん達が踊り回ります。それはまるで夜空に輝く星のようで・・・いえ、違います。それはフィンランドの夜空に輝くオーロラとそっくりだったのです!
海の中でオーロラが光る。なんて素敵なことでしょう。私はまだ目的を果たしていませんが、この旅を始めて良かったなと思いました。そして待っていてくれるニャーモさんや手紙さんに会いたいなと思いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます