第9話 津軽優次・高校1年生 着色

「ただいまー。」

家に帰りすぐに食事を済ませる。両親と双子は何か話そうとしたが僕のオムライスを急いで食べる形相っぷりに唖然としていた。部屋へ無言のまま向かう。「何かあったのかねぇ。」「さあ?でも最近優次あんまり元気なかったし良い兆候何じゃない?」「そうだね。父さんも同感。」

部屋に入り椅子に腰掛け彼女に渡された小説を鞄から取り出し手に取る。表紙のタイトルを見てページを開く。プロローグを読む。少しずつイメージして漫画やドラマに出てきたキャラクターを適当に演じさせて小説の内容を進める。読む手が止まらずページをめくる。心臓の鼓動が早く動き出し手に汗が滲む。興奮していた。面白おかしい部分もあり1人その場で笑ってしまった。気付くといつもの就寝時間をすぎて読み込んでいた。机の上に指標になる物を探しとりあえず薄い定規を挟んで読む手を止まらせた。こんなに高揚したのは歴史にハマった以来だ。面白い!小説って頭の良い固く難しい内容ばかりだと思ったが案外読めてしまう。

世の中まだこんなにも面白い物があったなんて。捨てたもんではない。


翌日の放課後。再び図書室へ寄り昨日途中まで読んだ本の貸し出し受付と、渡してくれた彼女がいれば感謝を述べたい。入り口ドアを開けると相変わらず閑静で人は少ない。受付の人に貸し出しを行った。図書室外から持ってきたのか変に思われた。

「すみません。つい面白くて家に持ち帰ってしまいました。」委員の者は納得したのか笑顔になり優しい対応で「そうですか。余程面白かったんですね。全然これぐらい許しますよ。僕も稀に貸し出し記帳せずに持ち帰っちゃいますし。」受付を済ませて昨日と同じ位置で座ってひとまず続きを読む。あとは昨日の彼女が来たらお礼を述べたい。待つのはちょっと変だけど。しかし、彼女はいつになっても訪れない。窓から外は暗くなり席を立ち思い切って受付にいる委員に聞いてみる。

「あの。そういえば髪はボブで丸眼鏡をした背の高い女性っていつもここに来るんですか?実はある事情があってその人にお礼を述べたいんです。」「ん?ああ。芳賀さんね。残念だけど彼女昨日限りで学校辞めたんだって。」「えっ!辞めた!?」「そうなんだよ。元々1年の頃から小説家としてデビューしていて、今では小説界隈で超有名天才作家と言われる程。それで作家として集中したいらしいから辞めたと。ちなみに芳賀さんは昨日まで3年生の図書委員会の部長だったから図書委員だけには明かしてくれたんだ。あっ、秘密だよ。世間に知られたら最悪バッシング受けて辞めるのを止めなかったこの高校が存続不可能になるから。絶対に言わないでよ。」「あ、はい!」

芳賀さんって言うのか。

そんなに凄い人だとは思わなかった。だとすると、今僕が読んでる本を選ばせ小説に引き込ませたのはまさに天才故?か。

僕の色が新たに着色された。

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