第4話 固い移動

彼女の恋愛に対する熱意と一目惚れ。

気が合うとはいえ、止められる気がしない。互いに席を去りカフェを出る。

どうしようか。

本来なら今日はカフェで各々の素性を話す、つまり、同じ大学の学部仲間として親交を深めるつもりだった。扉を開けて外の広い歩道へ出る。夕凪は固い顔をして僕を見た。

「い、今すぐでなくても大丈夫です。何処か寄ってからでも。」本当に不思議な人だ。今言ったことはモテる自信を持ち合わせた相手をリードする男性が使う言葉が常識であろう。

でも、彼女の真っ直ぐに自分を見る眼差しには、早く経験したい、この機を逃したくない、そんな本心が視える。

僕も一人前として成りたいなら。

「ううん。このままホテルに向かおう。夕凪の熱意に応えたいし。」何言っているんだろう。都会に来て赤の他人しかいない世界をより実感したのか羞恥心と無縁になったような。「…ありがとうございます。」彼女は少し表情が柔和に変化した。


そのまま僕らは夜のホテルへ徒歩で直行した。

約10分程歩き次第に外部の臭いと雰囲気が下落してきた。暗く虚師に塗れた世界は苦手だ。僕達は横並びに無言のまま目的地へ向かった。目的のホテル街に到着し安価で入りやすいホテルを探したがどれも同じに見える。昼間にホテルとはイレギュラーな気分だが、これも一つの新体験だ。

「じゃあ、ここにしよう。綺麗で出入り口が他からは見えないし。」「うん。」

果たして僕はリードしてるのかされてるのか。それにしても、出入り口のドアが一見正面からじゃ見当たらないよう側方から入る形なのは考えたものだ。自動ドアを通り、セルフで部屋の受付と支払いをする券売機があった。てっきり受付人の柄の悪そうな従業員が待ち構えているのかと身構えていたが拍子抜けした。夕凪もセルフで受付できることに驚いていた。

「すごいですね。小説やドラマに出てくるラブホテルと違い、今はこんなにも手軽だなんて。」

「確かに。僕もびっくりしたよ。気にせず恥ずかしさが不要な世の中になってきたね。」

「私も同感です。」

2人で適当に安価で済む部屋を選択し、部屋のキーカードを手に取りエレベーターに乗る。3階にすぐ着き廊下に出る。静かで昼なのに夜にいる気分だ。ライトアップも暗めで廊下の床や壁も従来のホテルとは異なる。端の左側のドアとわかり近づく。キーカードでドアを開けてちょっぴりピンクの混じった壁紙の部屋に入る。いかにも夜のホテルだ。テーブルと椅子に腰掛けて上着を椅子に掛ける。夕凪もトートバッグを置いて上着を椅子に掛ける。緊張しているせいか服をハンガーに掛ける選択肢が僕らにはなかった。沈黙が8秒経ち思い切って打ち砕く。

「夕凪。」

「はい。」

「夕凪は高校まで1人寂しく小説に没頭していたと明かしてくれたよね。だから、僕のことも話す。少し長くなるけど聞いてくれる?」

僕のことを話すのは構わない。だが、夕凪のことはまだ僅かにしか知らない。彼女は僕に本当の心を開くのだろうか?

「はい、お構いなく。」

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