第5話 津軽優次 前半の過程 

夜のホテルで自分の話を夕凪は素直に承諾してくれた。僕は口を開き語る。


田舎で海の近い地域に育った。

僕には父と母、双子(兄)がいてごく普通で優しい家庭に恵まれた。優しく内向的な性格ではある。


小学生の頃、歴史にドップリハマった。5年生の時図書室で偶然歴史の漫画が目に留まったのだ。気付いたら毎日昼休みには必ず図書室へ通っていた。これまで友達とも遊ばず家で双子とゲームをする日々の僕にとって色が塗られた。主に日本史だが各時代の偉人一人一人の生涯を漫画に構成した物を読んでいた。次第にその漫画に僅かにしか出で来ない家臣や支えた人物や当時の生活まで気になり、別の資料や偉人リストを病的に漁っていた。6年生に進級した時には中学で学ぶ範囲まで熟知していた。

また夏休みの自由研究ではたまたま有名な武将の展示会が片道約3時間半掛かる遠くの地域に開催されていた。家族で旅行がてら展示会に寄った。ほとんど本物の刀や甲冑が数多く展示され直に観賞するのはとても魅了された。

甲冑に小さく茶色い染みがあり「なんだろう?」と疑問に思い近くの説明文を読んだ。長文でまだわからない漢字だらけで困っていると隣にいた父が「これ血なんだあ。」と述べる。父も茶色い染みに目線を向けていた。聞いてすぐに理解した。恐怖と同時に面白さが一層脳を巡らせた。


中学からは部活を始めて歴史に対し興味減退したが、大人になった今でも書店で歴史コーナーを見かけると手に取ることがたまにある。日本史は好きだが世界史は普通である。歴史はロマンがあり先人たちの生き様には当時小学生の僕には深く感銘を受けたのだ。

中学に進学し初めて運動部の部活動を志した。元々運動神経はあったが、とりあえず競技としてのスポーツをしてみたかった。種目はバレーボール。

しかし、学内で一番厳しい部活動だとは夢にも思わなかった。

週に4日放課後練習で別の1日は町内クラブと合同練習、土日の遠征も多く勉強する暇は授業時間のみであった。当初は練習についていくだけで精一杯だった。特に毎週火曜は異常な回数の筋トレを終了させてそのまま体育館で練習すると腕と足が上がらず想像以上の負荷が身体に掛かられた。そのあまりのハードさに何度も断念しそうになった。

だが、1年も経過すればケロっと練習をこなせるまでに体力が備われていた。顧問からの厳しい指導にも耐え、2年から何度も試合に出場していた。3年最後の北海道大会では自身がフル出場のままベスト8と結果を残せた。

無論、これまで過ごしてきた仲間達も共に切磋琢磨して鍛え上げられたからに異論はない。チームの喧嘩はないが顧問の愚痴を練習外で言い合い、合宿では顧問にバレないようゲーム機を持ってきて夜部屋で多数集まって遊んだのも青いものだ。

しかし、小学生の頃同様に部活以外の学生生活では無味乾燥な毎日であった。

友達はいるがプライベートで遊ぶ仲ではない。特に体育の授業でペアを組む際は中々自分だけ見つからず困惑したことが苦痛でだった。きっとクラス皆んなからは、僕は単に優しいしか取り柄のない無益な人間に見えたのだろう。

その苦痛を伴う辛さは今後も続き、空蝉になるに違いないと僕は諦めていた。

そして、田舎故に一生夢を叶えられないのだと悲観することになる。



「一旦ここまで。大分自分本位で話し込んじゃったね。」

僕は話が止まらなかったことに自ら気付き一度語りを止めた。夕凪もちょとばかし聞くのに疲れただろうし。「ううん。そんなことないです。私にとっては貴重な話ですから。」なんて優しいのだろう。真摯に話を受け止める者はそういない。

それよか、これから肉体的行為のムードとは状況的に程遠くなってる気がする。

ならばもう、仕掛けよう。

一生に一度の人生。

「夕凪。目、瞑って。」

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