幕間 罰を償う

いつからだろう?人は無益で害虫な存在だと認識したのは。


私は国枝"渚"。とある都会に生まれ育った。都会といっても東京程とは比較にならない位の小規模だが。

両親は代々医者の家系である。親戚もそれなりに金を稼げるぐらいに優秀な仕事をしている。誰しも羨む頭の良い豊かな家庭だ。しかし、私はそいつらに取り残されていった。いくら勉強をしても100点は愚か80点代が限界であった。学ぶことは確かに大事だ。けれども、私としては別の分野で将来活躍したかった。

苦難は突如訪れる。小学6年になり、ある時。相変わらずテストで満点を取れなかった。一向に成長しない私に憤慨したのか父は、家族としての一線を越えさせた。

家では私と仕事を早めに終えた父の2人。私の部屋のドアを乱暴に開けて入ってくる。「渚。君には失望した。君はもう私達の家族ではない。今日から君は罰を受け続ける奴隷だ。よって…。」部屋の鍵を閉める。すると、勢いよく私の目の前まで歩み、固く大きな両手が伸びる。首を絞められた。身体は意図も簡単に浮かび頭から意識が遠のく。危うく死ぬ寸前まで絞められたが、父の手は離す。海から引き上げられた魚のように息を吸い吐く。その時、私の胸を触れてきた。シャツの下から直に感触があり、父に触れられたと気付くと鳥肌が疼いた。恐怖心とあまりの突然にショックを受け私は動けなかった。そのまま夜伽をされた。


心の中は閉塞した部屋に包まれた。


何時間したか。生で私の中に熱い物体を挿入されてから。今も中で上下に揺れ動く。

母は?弟は?何で居ないの?

夜伽が終わり、父は無表情で部屋を去る。邪悪な吐き気を襲いながらも、私は裸体で涙を浮かべたままベッドに寝ていた。ふと、頭から声が響く。


『渚。』


誰だ?聞き慣れた声だ。「だれ?」『私は私よ?』「はっ?だから誰なんだって言ってるじゃないか?」『わからない?それならそこにある鏡を見て。』裸のまま起き上がり目の前の全身鏡を覗く。そこには私と同じ姿をした者がいた。当然反射して自分が写ったに過ぎない。しかし、鏡に写った同じ者は、私の意思と関係なし裸のまま動き出し喋り出す。『やあ、初めて会ったね。私は夕凪。』

うわっ!「な、何で?」『そんなに驚かないで下さいよ。私は貴女の一部であり理想そのものはずですよ?」理想そのもの?『貴女はこれまで自分に嘘を付いて生きてきた。好きでない勉強を毎日強制され、友達や意中の人と恋愛すら望めなかった。学校と家でも孤独。仕舞いには父から屈辱的な罰を刷り込まれた。貴女は、渚はもう辛いのでしょう?それなら、私が代わりに貴女の罰を背負い、乗り越えてあげる。多分明日の夜もまた父とやるかも。その時は私に任せて。』

彼女はそのまま鏡から消え去った。


翌日、部屋で昨日と同じように父から迫られる。瞬間、吐き気が襲い私の視界が少しずつ暗くなる。

「ハッ!」目を開く。ベッドに寝ていたようだ。顔に何か付着している。違和感を取り除くよう手で拭うとそれは白い粘着液だった。小学6年の私はすぐに理解した。生憎そういうことは7歳から密かに研究していた。これは、父のだ。「ウッ!」胃から食道から口腔へと吐き気を襲う。でも、何故その時の記憶が無いんだ?

『私のお陰…。』頭から響く。

そうか、これは夕凪の仕業か。「ハハっ、アハっ、あっはははははは、ハハハ!」理解した。夕凪は私に潜む自分。なりたかった人格その者だ!素晴らしい!素晴らしい!

アタシの求めたものがもう目の中にある!!


それから中学、高校と流れ、その間父だけでなく他の男達を夕凪は一目惚れし、誘い、自ら虜にした。夕凪のお陰で。気づくとアタシを卑下する者はいなくなり、平和に過ごすことができた。アタシにとって男は糞のドブネズミ以下だった。その男が死ぬか壊れるかの堕落様はたまらない。高校卒業前、ついに父は精神を壊し母と弟を猟奇的に惨殺し最後は自殺した。次第に"渚"としての活動もほとんど無くなり、ある時は半年も無停滞に。そうした困難な状況になると夕凪が駆けつけ助ける。


渚としての罰は夕凪が償ってくれるのだらら。


大学に入り、新たに再び夕凪が一目惚れし動き出す。しかし、今まで虜にしてきた爪垢達と異なり、優次は男性にない別の何かがある。優次に抵抗感を感じないのは不思議だ。夕凪がすぐに満足して陥れられなかったのは初めてである。




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