第13話 前静
夕凪が二重人格だと知って半年。
あれから一度も話していない。外出する際、玄関を出た矢先、左の階段から降りていた渚とたまに鉢合わせる。渚は眼を逸らして急いで僕を避けて外に走り出ていく。罵倒は覚悟していた。だが意外にも無言で焦って避けるとは。本人も夕凪が僕を堕落させる前に珍しく引っ込んだと言っていたし…。それにしても、何処へ行くのやら。
大学では渚は秋学期からしばらく登校していない。
当然だ。
あんな捻くれた性格が"2人"もいるんだ。
一方、僕は大学で新しい男友達が数人できた。バイト先も同様に。買い物や飲食店、映画館、美術館、博物館等地元と異なり栄えた町の楽しさを味わう。夢も充てる。今では税理士を目指して猛勉強中だ。経営学部のイベント講座で偶然知ったのがキッカケだ。自分には合うのか日商簿記1級を僅か3ヶ月で取得出来た。絶賛沼に浸かっている。
それにしても、あの夏以来、自分が夕凪に依存していたと自覚し、危うい立場にいたのだと反省した。そもそも僕を利用するつもりで謀っていたなんて末恐ろしい。入学式で席が隣になったのは偶然かもしれないが。いや、それも夕凪の策略では。
ストップ!!!
振り返って気にしたところで夕凪の思う壺だ。まさにか弱い男を従順にさせる『魔女』だ。
夜、バイトを退勤して家に帰宅し就寝準備をする。突如聞き慣れないインターホンが鳴った。ん?こんな時間に誰だろう?ガチャ。!!久々に見た女性であった。
「へっ!?渚?」
彼女は革ジャンに黒のスキニーパンツと冬では寒そうな外着をしていた。流石に夕凪と思い出深いMA-1じゃないか…。彼女は鋭い目つきで睨んだまま問う。
「行くぞ。愚図粘土。私の鐘を鳴らしに。」「鐘を?」
「ああ、そうだ。アタシと夕凪の罪と罰を償いにな。」
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