第12話 悪魔からの助言
「ウジ虫がっ。」
「夕凪…?」
何を言ってるんだ?僕は困惑していた。何か夢でも?果ては幻覚?どうしたんだ?支えすくんでいたまま。突如、お腹の溝に激痛が走った。
「ぐふっ!」
何だ?吐き気を襲うまま咄嗟にお腹に視線を向けた。刹那、今度は顔の右頬に鈍痛が。左に顔をずらしたまま身体ごと後ろへ吹っ飛ばされた。この時ようやく、”殴られた”と思い立った。ぐっ、痛い。
体勢を立て直す。目から涙が溢れそうになる。立ち上がり身構える。夕凪はゆっくりと立ち上がり対面する。俯いたままの顔が上げられ僕を一瞥する。
「っ!!」
恐怖心が込み上げたと同時に疑問が浮かぶ。何だ?まるで別人!?見たこともない鋭い目付きで真剣な表情をしていた。
「全く、アイツもどうかしているぜ。」
アイツ?
「ゆ、夕…。」遮るように彼女は話す。
「そりゃアタシが付けた渾名だ。"アタシ"は『渚』だ。愚図野郎。」
「渾名?君は夕凪自身だろ?何を言っているんだ?」
彼女は聞くまま片方の眉を潜めた。
「チッ!またそっからかよ。めんどくせぇな。」
汗が背中から滴る。彼女の悪魔的纏いに対し本能で警戒していた。それぐらい危険な存在に変化していた。
「……まぁ、いい。久々に戻って来て高揚してるから教えてやるよ。その間、口出ししたら殺す。」
……………。
「フッ。夕凪はアタシの中に巣食う二重人格だ。」
二重人格!?
「無論、夕凪自身自覚し理解してる。ただし、夕凪に替わるのはある条件が必要だ。アイツにとって異性への一目惚れだ。それが夕凪になる条件。夕凪にとって自分を満たしてくれる、守ってくれる優しさを吸入する存在が大好きなんだよ。俗に言う依存だな。ったく、その依存に漬け込むアンタも馬鹿だよなぁ。ハッ。今のお前じゃ、反論できそうにねぇか。おいグズ、名前は?」
えっ、あっ。
「優次、津軽優次、です…。」
頭が追いつかない。
「そうか。で、優次よ。アンタは夕凪をどう思う?」
「す…。」
「好きだよなぁ。」
またしても言葉を遮られた。彼女こと渚は嘲笑うような顔で両腕を組みながら僕を見下す。背はこんなにも低いのに。
「アイツは昔から男を虜にするのがうまい。特に一目惚れした男には尚更。夕凪は"そういう狂気"がある。挙げ句、虜にされた者は全員地の底まで堕落する。満足するまでな。だが、今のアンタを見る限り、運がいい。余程夕凪のタイプだったんだろうなぁ。」
そんな、まさか。
「おっと、初セックスでの処女は演技だ。血が出なかったり中に入れたのに違和感を感じなかったのか?…まぁ、いい。」
これは、嘘だ。コイツが言ってることは嘘に違いない。夕凪が前から男を虜にして僕を弄んでいたはずがない。だって、さっきまで本音で僕に過去を教えてくれたじゃないか!
「…嘘だ。夕凪は!そんな人を弄ぶような人間じゃない!」
渚は驚きもせずに呆れていた。
「夕凪は、優しくて繊細で大人しくて僕と小説の話だってたくさんした。気も相性も完璧だった。お前が二重人格だったとしても、夕凪こそが本性だ。だから、だから夕凪。もう一度僕に笑顔を。見せて。頼む。」
女が目の前にいるのに懇願して泣くのは正直恥ずかしい。それでも、今の僕にとって夕凪こそが全てだ。支離滅裂なことを言って錯乱しているだけなのかもしれない。だから!頼む!
「残念だが、彼女はもう戻って来ない。また、別の男に一目惚れしない限り。ああ、そうだ。小説を読み込んでいるのも夕凪の策略に過ぎない。」
はあ!?「そんな筈はっ!」
「あるんだよ!!!優次、お前本当に阿保だなぁ。これだから純粋に優しい男は。いいか!確かに夕凪は小説を読んでいた。だが、その時彼女は目を輝かせて読んでいたか?今そこに多くある本を全て網羅したまま即答で言っていたか?証明したいなら意地でもアタシから夕凪を引き連れて!拷問して!吐かせろ!その時夕凪は必ず
『そんなつまらない物知らない』
なんて答える!そうやって、男達を騙し、知らぬ間に精神を突き落とし穴倉へ閉じ込ませる。いいか!これは愚図なお前への滅多にないアドバイスだ!それでも夕凪じゃないアタシと付き合うならぶっ殺す。実際、これまで7人は消えた夕凪を望んだが、ある者はアタシの手で殺したか、ある者は精神的に可笑しくなったかだ。」
なんてことだ。そんなのあり得ない。夕凪が人を騙していたなんて。僕にだって。
けど、何故コイツは僕を助言したのだ?やはり夕凪が満足したのが早かったからか?じゃあ、どうして今僕を殺そうとしない?こんなにも"彼女"は度を越えた毒を吐いて侮辱しているのに。
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