第1話 始まり
僕は津軽優次。これから、念願の大学生活が始まります。都会の少し中心から外れた場所にある大学で勉強するのだ。ここで4年間、されど4年間。社会へ放逐される直前の自由な時間だ。あぁ、楽しみだなぁ。期待を胸に自動車の後部座席に揺られながら窓の外を眺めていた。雨が降り出し山の頂上は霧に覆われる。トンネルに入りオレンジ色の光に包まれて視界は真っ暗になった。
《予》
……………あれ?ここは、知らない教室だ。広い教室で隣にいるのは誰だろう?若い女性?「優次、さよなら。」ま、待って!!まだ、僕は君を、た、
う、うぅーん。僅かに目を開く。自動車の揺れは収まっていた。前にいる運転した父が疲れを抜くように両腕を天井に伸ばしていた。身体を元に戻して僕に振り向いた。「お、丁度起きたか。着いたぞ。優次の新居に。」僕は眠ってしまったんだと今気付く。「あ、あー、本当だ。」初期化していた身体のプログラムを上に伸ばすように起こし右の窓を見る。灰色の小さなアパートがあった。両隣には2階建ての1軒家があり家賃は高そうだ。約4時間の車による移動を終えて僕は新居である灰色の小さなアパートに到着していたようだ。廊下へはオートロック制で仕切られ、1階の部屋は廊下中央の真っ直ぐ突き当りの奥にある。2月に新居の内見の時感じたが、周囲の住宅に囲まれているため日の光が入りづらく、少し暗めな1LDKの室内だ。車から荷物を降ろし鍵でオートロックを解除し冷えた廊下を歩く。突き当りのドアを鍵で開けて室内へ入る。外より少し冷えていて4月なのに冬に後戻りしたようだ。荷物を置いてベットを父と組み立てて適当に位置に設置していく。椅子、テーブル、テレビ等は内検の後に引っ越し業者に頼んで設置してもらった。ベットの設置が完了して約1時間掛かり思いの外疲労が蓄積された。
「よし!時間的に少し早いけど近くの定食屋で夕食とるか。優次の入学祝いに奢るよ。」「ほんと!?ありがとう!」
再び外に出て意気揚々と車を走らせる。
定食屋に着くなり父と他愛もない会話をしてカツの定食を食し、新居に戻って玄関にて父と別れる。
「それじゃあ!何かあったら遠慮なく電話やメールで良いから連絡くれよ。」「うん。なるべく無理はしないよ。」「またな。」「うん。また。」
父は笑顔のままドアを閉めて去っていった。父親にとって息子が徐々に親元から離れて1つの個として成長していくのは嬉しいのだろう。
途端に家は静寂に包まれた。
壁に掛けられた時計の針が機械的に動く音がする。
ここから1人暮らしかあぁ。ふと溜息をする。
不安と楽しみが混同され心の奥底には濁った泥水をゆっくりかき混ざれていく気がした。人生はちょっとしたことで大きく変わる。
好と救を行うとはこの時予想もしていなかった。
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