第8話 津軽優次・高校1年生 後半の過程
中学を卒業し、高校へ入学した。
優しさしか取り柄のない僕は心中空蝉になりかけていた。中学最後の大会で結果を残しても心の奥底では喜んだことはなかった。どこか優悦のない空疎な世界に感じた。
高校1年、地元以外に新たな同級生がクラスで3割程参入してきた。公立高校とはいえ多少新しい環境にシフトしたのだ。部活はこれまで通りに男子バレーボール部に所属していた。しかし、中学とは別物で余りにも緩すぎたのだ。何しろ中学時代共に戦った仲間達は推薦で私立の強豪校に入学したか、或いは、別のスポーツに転換する者、或いは、何もせず資格取得や勉強に専念する者、或いは、家庭的事情でバイトを始める者等と様々な事情で皆バラバラの道を辿る。僕と中学時代のバレー部で主将を務めた者だけが共に公立高校で継続することになった。高校までの学生は狭い社会にいるせいか部活動がいつしか全てと定められていた。
紙に端まで書かれた文章は裏返しで白紙に戻った。戻された。
燃え尽きたのか2ヶ月して部活にはたまにしか寄らなくなった。高校の部活にしては珍しいくらい自由度があり、別に寄らなくても誰も気にせずただ楽しんで活動するだけのお気楽さだ。
「優次、いつでも来な。楽しく運動しようぜ!」主将だった者はある日授業終わりに僕にそう言い出した。「あ、ああ。気軽に行ける時行くよ。他にやりたいこと見つけたいし…。」
彼は思いの外そのやり方が好きだったらしく僕の意見を聞いてもらえる者は居なくなった。親からも心配されたがたまに寄ってるしなるべく心配させたくなかった。成績も普通だし。
ある日の放課後、家と学校の往復は無情にも嫌気が指し図書室へ寄った。
入り口の扉を開いて入ると静かで小学生の頃より広い。
小学生。の時。
ハッ!!そうだ!あの時偶然歴史漫画を見つけてハマったんだ。入り口に佇んでいたが一目散に歴史コーナーへ足を運ぶ。
今ならきっとまたハマれる。
自分の生きがいを。
咄嗟に歴史コーナーの本棚から適当に取り出し、日本史の平家に関する漫画を読んだ。が、普通だった。感情に火がつく訳でもなく風が吹き抜けるだけだった。ならばと、時代、人物、生活、常識、道具、古典、文化等の他の分野の歴史を読んだが、何も起きなかった。世界史も試したが変わらず。
3時間経過していて外は暗い。白い長テーブルにただ一人座っていた。涙が出そうだった。
「僕は、一体、何があるんだ?好きだったことまで自分から手離すのか。これが大人になることなのか?」悲観して天井を見上げていると、誰かが僕に近づいて来た。集中してもう1人いたとは知らなかった。気配と足音が側まで近付き、清廉な声で僕に問いかける。
「あの、大丈夫ですか?その、気持ちが優れないなら、えっと、参考になるか分かりませんが、これ、読んでみて下さい。現実が馬鹿らしくなって笑っちゃいますよ。」
一体何を言っているのか、彼女は。目を横にずらし顔を見るとボブカットで背の高い丸い眼鏡をした細い女性だった。背の高さか屈強そうに一瞬感じたが、彼女の雰囲気と容姿から内気な人だと理解できた。彼女は心配そうな顔のまま続けて言う。
「小説です。3周して満足したので貸しますよ。あっ。冊子の最後にある貸し出し期間はちゃんと図書委員に受け付けて下さいね。貸して読むかはご自由ですが。では、失礼しました。」「はぁ、ありがとうございます。」
彼女はそそくさと図書室の出入り口を出た。渡された小説を見て考えた。小説かぁ…。まぁいつかは読んでみたかっし余裕もあるし、帰ったら読んでみよ。
ここから再び僕は色が塗り染められた。
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