第7話

「それで、どうするんですか?」


 夜間の薄暗い艦の廊下で、レドシー少佐とノーグ准将が話し合っていた。


「ちょっと舐めすぎたな。まさか、あそこまで怒るとは」


 ノーグは、反省するような声色で言う。


「貴方の私的な用事というのが、今回の失敗に大きく関与していそうですね」


「それは否定できないな」


 レドシー少佐の言葉に、ノーグは肩をすくめて応じた。


「やはり、彼女の監視は私が行います。ああいう堅物の心は、案外操作しやすいものですから。私が担当すれば、3日もしない内にエリナ少将殿を丸裸にすることが可能ですよ。比喩的にも物理的にも。後者については必要無い限りやりませんが」


「なるほど。そりゃすごいな」


 ノーグは、感嘆のため息を漏らしつつ言った。本当に人の心情を操作することができる人材は数少ない。そしてレドシー少佐は、それが可能な人材だ。


 その能力を見込まれ、今回の任務に投入された。


「ですので、」


「断る。彼女の監視任務は俺の仕事だ。そんな事言って、エリナがお前に惚れたら困る」


「その心配をするということは、つまり貴方はエリナ少将殿に好意を抱いているのですか?それなら貴方は諜報員に向いていません。今すぐ情報部を辞めることをお勧めします」


 レドシーは訝しげな視線をノーグに向ける。


「断じて違うね。俺は断じて、そんな綿毛のように軽い男じゃない」


「では、彼女の監視は私が担当してもよろしいですね?」


「いや。彼女の精神に余計なことをするな。大事な約束があるんだ」


 ノーグは少しため息をついて、私的な用事の一端を示した。


 レドシーが妥協してくれることを期待して。


「個人間の約束と国家のための任務。どちらが重要かは自明では?」


 だが、レドシーは一切引かなかった。


 実際、任務に私情を入れるノーグは間違っているし、レドシーもノーグが私情という不確定要素を抱えていることに不安を抱いている。


「彼女の監視は引き続き俺が行う。これは命令だ」


 ノーグはそう伝えた。


「‥‥了解」


 どれだけ納得がいかなくても、上官の命令に逆らう軍人など存在しない。レドシーは完璧な敬礼で返す。


「話は終わりだ。お前が情報部の人間であるということは、まだ露呈していない。つまり俺とお前が接触しているのが目撃されるのは都合が悪い。早く離れるぞ」


「そうですね」


 二人は短い挨拶を交わし、それぞれ別の方向に廊下を歩き去った。

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