第13話
フランシス領インドリア。
ムガル洋とサンシル海の中間に存在する群島に、それは存在している。
ゴムや砂糖などの天然資源が多く算出され、また物流の拠点としても機能するフランシス共和国最大の植民地だ。
第一西部艦隊は、港に潜んでいるであろうサンシル皇国やイグランド連合王国の諜報員からその身を隠すために沿岸から4kmほど離れた洋上に停泊して、フランシス海軍の補給艦から補給を受けていた。
水兵たちが忙しく石炭や食料品を艦内に詰め込む中、艦隊の司令部もまた忙しく会議を重ねている。
なにしろ、これから世界屈指の艦隊であるサンシル連合艦隊に対し圧倒的不利な状況下で挑むのだ。将校たちの心労は計り知れない。
海軍の制服を着た将校たちが、地図を広げた机を囲んで案を出し合っていた。
「やはりオトクル港に行くとなると、サンシル海を縦断する必要があります」
「いや。ここはあえて太平洋側を航行するのはどうだろう?連合艦隊はサンシル海側にいる。確実に出し抜ける」
「いえ。それだと石炭の積載量的に巡航速度以上の速度が出せません。万が一発見されたら、燃料に余裕のある連合艦隊に先回りされ、交戦する余裕すら無い我が艦隊は殲滅されるか、そうでなくても燃料を使い尽くして漂流することになります」
「ああ。サンシル皇国海軍は、イグランド連合王国の手を借りて近代化が進められている。沿岸の監視も怠っていないだろう。太平洋側を通るのはリスクが高すぎる」
「とすると、やはりサンシル海側を通るしかないか」
「ですが、それだと艦隊決戦は避けられません。規模的には五分五分ですが、向こうは補給状態も万全、対する我が艦隊は落伍こそ出していないものの、水兵たちの体力はすでに限界ですし艦艇自体も故障が目立ってきています」
「東部連合艦隊が壊滅した際に、少なくない艦艇が拿捕されている。それも加味すれば勝算などゼロに等しい」
「やはり、発見されることを回避する道を探す他あるまい」
話し合う将校たちとは対照的に、エリナは一切口を開かず目を閉じて腕を組み何やら考え込んでいる。
「少将殿、どういたしましょうか?」
副司令が質問して、将校たちの目線が一斉にエリナへと向いた。
エリナは自信を見る将校たちを一瞥すると、徐に口を開く。
「私が思うに、この会議はもはや時間の無駄だ。軒並み故障した戦艦、疲弊した水兵、燃料すら不足する我が艦隊が、最新鋭戦艦を取り揃え、世界最高の練度を誇る水兵たちを乗せ、潤沢な燃料を持つ連合艦隊に、どう足掻いても勝てるわけがない」
将兵たちは黙り込んだ。
反論できる者がいるはずもない。これが地獄への航海だという事など誰も口に出さないだけで、全員が認識している。
「つまるところ、もう戦うしかないというだけだ。それが、投降することも撤退することもできない我が艦隊に残された、唯一の道だから」
エリナは声を張り上げた。
「よって本艦隊は、敵艦隊に対して突撃を敢行する。策を弄しても戦闘は避けられんし、策を弄したところで戦闘の結果は変えられん」
そこで、エリナは狂気的なまでに邪悪な笑みを浮かべた。
「私が乗る旗艦を先頭にして、敵艦隊に突撃する。彼奴等の喉笛を切り裂いて鋼の骸を海底に叩きつけろ!分かったな!」
「了解!」
将校たちは、気押されたように勇ましく返事をして各々の仕事を開始する。
会議室の隅で全てを聞いていたノーグは、口元に浮かべていた笑みを深めた。
「相変わらず、理性的なふりをするのが得意だね。少し狂気が見えかかっているけど大丈夫かな?エリナさん」
その呟きが、誰かに聞こえることはない。
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