第16話
晴れた空と荒い波の下、2つの艦隊が激突した。
「最大戦速!全艦、撃ち方始め!」
前方に横一列で展開した連合艦隊に、第一西部艦隊は真っ直ぐ突っ込んでいく。
鋼の戦艦が波を切って駆ける音だけが、海に響く。
連合艦隊は十分に敵を引きつけてから砲の照準を微調整し、一斉に砲撃を開始した。
放たれた数多の砲弾は空高く舞い上がり、第一西部艦隊の軍艦達に雨霰と降り注ぐ。
『ロバート・エンド』の側面に並べられた12センチ速射砲が、飛翔してきた30センチ砲弾の直撃を受けて吹き飛ばされた。
ほとんどの砲弾は海面を殴って水柱を上げただけだったが、幾百と撃ちまくれば数十発は命中する。
そして連合艦隊の砲弾命中率は世界屈指だ。第一西部艦隊の被害は瞬く間に拡大していく。
艦橋甲板に直撃を受けて艦長以下艦の中枢を失った装甲巡洋艦が、炎を吹き上げながら落伍していった。
魚雷の直撃を受けた駆逐艦が白い水柱に包まれたかと思うと、一瞬にして海底に引きずり込まれる。
「全火力を敵旗艦に向けろ!左舷より水雷艇接近、近づけさせるな!」
エリナは水飛沫を被りながらも、無線機を片手に指示を下す。
接近する敵水雷艇へと砲列甲板の速射砲が弾幕を張り、敵水雷艇は数発の命中弾を受けて撃沈する。
だが、連射して敵艦の上部構造を薙ぎ払える速射砲は、艦艇側面に並べられているために、側面から接近してくる水雷艇は狙えても敵主力艦へは向けられない。
第一西部艦隊側の使える火力は15分に1発しか打てない30センチ砲と、小型艦艇に主砲として搭載されている貧弱な速射砲のみ。
それだけでは、敵主力艦を沈めるのに力不足だ。
側面の速射砲を使用するためには大きく旋回する必要があるが、まさに敵艦から砲撃を受けているという状況的に厳しい。
第一西部艦隊の全艦艇が同時に敵艦へと側面を向けようとすれば、指揮官達の混乱を招いて最悪友軍を誤射しかねない。
仮装巡洋艦で情報を得ていた連合艦隊は、有利な位置関係から戦闘を始めることができたのだ。
第一西部艦隊に残された最後の道は、30センチ砲による射撃をしつつ、時代遅れの衝角攻撃を敢行し、横一列になって射撃を続ける連合艦隊を中央突破するのみ。
第一西部艦隊は、本当に一切作戦を繰り出せない状況に追い込まれていた。
「駆逐艦『グレーリン』『ローレルリア』『リレーフ』轟沈!装甲巡洋艦『レンド』『ノット』大破!戦艦『ラズール』撃沈!その他多数の水雷艇が轟沈されています!」
電信室からの伝令が、エリナ少将に最悪な状況を伝えた。
海面を殴った砲弾に海水が巻き上げられ、『ロバート・エンド』の艦橋甲板へと降り注ぐ。
将校たちは、全身水浸しになりながらも指揮を続けた。
エリナは顔を滴る水を、水の染み込んだ袖で拭う。
「第5水雷戦隊は敵艦隊に肉薄し、敵主力艦に対して雷撃を敢行せよ」
エリナの命令を受けた4隻の水雷艇が高性能エンジンで加速しつつ連合艦隊へと肉薄したが、速射砲による猛射撃の洗礼を受けて魚雷を放つ間も無く壊滅した。
「第5水雷戦隊全滅」
「クソッ。次、第6水雷戦隊だ」
エリナは悪態をついて更なる攻撃を命じた。
それが死ねと命じることと同義であることは、エリナだって分かっている。だが、一縷の望みに賭けて水雷艇を特攻させることは止められない。
連合艦隊との距離は1770m。なんとかして敵主力艦を潰さなければ、このまま全滅だ。
次の瞬間、エリナの瞳に青空を駆ける焼けた砲弾が映った。
砲弾は透き通るような蒼穹を駆け抜けて、一直線にこちらへと向かってくる。
「まずい、総員衝撃にそな」
砲弾が、白いテントの張られた艦橋甲板へと直撃した。
海図の置かれた机と黒い軍服を着た将校達が、爆風に吹き飛ばされて空を舞う。
そして、それはエリナも例外ではなかった。
彼女の華奢な体は、金属片の混じった爆風にあっけなく弾かれて、艦橋甲板の手すりに叩きつけられる。
全身を凄まじい激痛に襲われたエリナの意識は、一瞬にして遠のいていく。
閃光で白く染まった視界に、ざっくりと切れた額から溢れた血が流れ込んでくる。
エリナは最後に小さく呻いて、その意識は暗闇に消えた。
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