第11話 食卓
「それでアレク。マチェットはどこにいったんだ?」
アーノルドが肉にかぶりつきながら話す。この叔父は食べ方も王族らしくなく豪快だ。
「マチェットがどうかしたんですか?」
「アレクのマチェット、折れたんだってよ」
「え?親方に貰ったマチェットが、ですか?」
アーサーは叔父から聞いてびっくりしている。ドワーフ族の親方が作った武器はちょっとやそっとじゃ折れるシロモノではない。
「大丈夫なのか?アレク」
「大丈夫とは?」
「親方がいつも言っていたぞ。アレクのマチェットは俺の最高傑作だ!と」
アレクにマチェットを渡すときもそう言っていた。
「はは。…そうでしたね。多分大丈夫じゃないかと」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって折れたマチェット、魔王のところにありますから」
その場にいたみんなは(アズール以外)その話を聞いて口をあんぐりと開けた。双子は目の前の食事に夢中だ。
「魔王は自分の腕を切ったマチェットを自分の部屋に飾っているらしいですよ」
「そ、そうなのかい?うーん、魔王という凄い人物のところにあるなら、親方も納得するかもしれないな」
アーサーは腕組みしながら考える。
「でも、それじゃあアレクちゃんの剣はどうするの?」
王妃のサーシャは心配する。
「そうですね、親方に頼み込むしかないでしょうね」
「あら?でも親方は今は工房にいないらしくてよ」
「え?そうなんですか?」
と、アレクは爺やのほうを見る。友達の爺やならなにか知っているはずだ。
「確か素材を探しに旅に出てるとか…」
「えー?じゃあ、演習場にある予備の剣を持つしかないか…」
「一応工房に行ってみては?弟子もおられますし」
「そうだね…」
アレクは親方がいないと聞いてがっかりした。そんなアレクをじっと見ていたアーノルドは
「なぁ、アレク。さっき言ってた魔王ってやつだが」
「はい、魔王がどうかしたんですか?」
「そいつって、人間に見えるがこう頭に長い角を持ってやしないか?」
と、アーノルドは自身の頭に手を添えて伸ばした。
「えぇ、確かに。…叔父上、なぜ知っているんです?」
「そうですよ、会ったことないでしょう?」
アレクもアーサーも驚いている。アーノルドはやっぱりか、と言い
「いや、昔仕事が深夜に及ぶ日が結構あってな。研究所から家に帰ろうと廊下を歩いてたんだ。で、その廊下から兄上の寝室がちょうど見えるんだ。兄上も仕事をしている時があるからな」
「そうですね、父上もよく寝室で仕事をなさってました」
「するとな、そこの寝室の窓から爺やとロープで巻かれた男が出てきたんだ」
アレクとアーサーはじいっと、爺やを見た。サーシャもあらあらと笑っている。
「泥棒でも入ったのかと思ったが、寝室の屋根のところで2人が話しているではないか。しかもロープで巻かれている男は頭に角があったし」
「叔父上は最後まで見ていたんですか?」
アーサーが問いかける。アーノルドはあごを触り
「そうだな。男はロープを解いて、空に飛んでいったから只者じゃないと思ったけど、爺やがそのまま戻ったからな。悪いやつじゃないのかと思ったんだが…」
「叔父上は平気だったんですか?」
「あぁ。そういえばあの時から数日は兄上の体調が悪かったが、俺はピンピンしてたぞ」
「魔王の圧におされて平気だとは」
前王が魔王に会ったという話は先程アーサーが話したが、叔父も目撃しているとは思わなかった。
「なぜ言ってくださらなかったんですか、叔父上」
「だって深夜だぞ。しかも寝不足だから頭がはっきりしてなかったし、幻でも見たのかくらいにしか思ってなかった。あ、でも次の日は思いきりよく眠れたぞ」
かかかっ、とアーノルドは豪快に笑う。
「大叔父さま、魔王に会ったのですか?」
「大叔父さま、すごい〜」
話半分に聞いている双子は、魔王を目撃したアーノルドに目をキラキラさせている。
「そんな凄いもんじゃないぞ」
「しかしですね、父上は寝込んで、叔父上は元気になったと。叔父上って実は凄いのでは?」
「だから全然凄くないぞ」
アーノルドは上機嫌でお酒が入ったグラスを持ち、ぐいっと飲む。爺やはアーノルドのそばに寄り
「私としたことが。あそこにアーノルド様がいらしたとは。気付きませんでした」
「まぁ、仕事で動物を観察するときに、気配を消す魔法を使うからな。たまたまだ」
爺やも魔王も気づかない魔法を使われて、たまたま上手くいったのは幸いかもしれない。しかしこの叔父なら何度も出来そうだ。
「兄上で思い出したが、アレクが俺に会いにくる前に、静養地にいる兄上と義姉上に俺の従魔で使いを出したんだった。お前が帰ってきたようだ、とな」
「叔父上、それはこちらでやりましたのに」
「お前の速達便より、俺の従魔のほうが緊急時は早いぞ、アーサー」
少し赤い顔をしてアーノルドは笑う。
「早くても明日には戻ってくるだろう」
「叔父上にそんな従魔がいたんですか」
「あぁ、猛禽類で鷹なんだが仕事させろとうるさくてな。ちょうど良かった」
「叔父上ならどんな動物でも話が出来そうですね」
「俺もその能力があれば良かったんだがな。天は1つしか能力をくれないらしい」
「そんな才能があったらもっと研究が進むんですが」
トーマスが口にローストビーフを頬張りながら話す。
「アズールがいたら交渉できたかもな」
『我が話すとなると、みんな逃げてしまうが?』
「そうですよ、アズールはそこらの魔獣より強いんですから。叔父上の能力以上の者がいたらいいですけどね」
「まぁ、いつかは現れるかもしれないな」
その話を聞いて双子が
「僕はなんの能力があるのかなぁ」
「僕も。早く知りたい」
ユルドとミルドは父親であるアーサーに問う。
「しっかりとした能力が分かるのは、成人の儀の時だが、叔父上みたいに早く分かる時もあれば、私やソフィア姉上みたいにその成人の儀の時に分かることもある。とりあえず2人は今自分が興味あることを全力で楽しむのが良いぞ」
アーサーは双子ににっこりと微笑んだ。
「アレクのときは…びっくりしたもんじゃなかったな」
「アレクちゃんは英雄ですから、そういう能力ではないのですか?」
「ん?そうだがまぁ、成人の儀で出会った人物が凄いというか」
「アレクは面白かったな。兄上も玉座から転げ落ちたし」
「私は羨ましいと思いましたよ」
アレクより後に能力が分かったトーマスはちょっと悔しかった。
「えー!伯父上、誰だったんですか?」
「僕も!僕も知りたいなぁ」
「んー。これは話が長くなるけど。姉上、2人の都合がいい時にお話できますかね?」
と、母親のサーシャに伺う。
「えぇ。勉強の一環としてお話してもらえると嬉しいわ。私も聞いてみたいし」
「やったー!」
「絶対ですよ、伯父上」
双子は笑顔でハイタッチをする。そんなこんなで久しぶりに家族で食事を楽しんだアレクとアズールだった。
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