第8話 魔王と四天王

 一方、城の上空では、魔王の帰りを四天王が待ち構えていた。


「魔王様、遅くね?」


 背中に黒い羽の生えた子どもが、城のあたりを見ている。


「迎えに行こうにも、城のあたりは結界が張っていて、近づけないのよ」


 女性の夢魔が少しイライラしていた。


「それになんだか、威圧を感じるんだよな。魔王様くらいの」


 筋肉隆々のマグマを纏った将軍がじっと見ている。


「そろそろ帰ってきますよ。魔王様が近づいてきます」


 執事の格好をした男が懐中時計を見ている。魔王は四天王を見つけると手を振る。


「いやー、すまんすまん。ちょっと縛られてた」

「縛られてたってなんですか」


 夢魔が興味を示す。


「そっちの方じゃないって。実は旧い知り合いに会ってな。我は危ないからロープに縛られてた」

「魔王様を縛ることのできる者がいるんですか!」


 将軍はワクワクしている。


「そうだな…怒らすと腕の一本しか残らんぞ」


 ヒヤリとした空気がそこらに流れる。


「そんな者がいるのか…見てみたいな」


 羽の生えた子どもは恐れを知らない。


「魔王様の旧い知り合いとなると…あまり思い当たりませんが」


 執事は頭を巡らす。


「お前たちは知らないかもな。ギリギリ執事の子どもの頃に存在は聞いたことがあるかもしれぬ」

「私ですか…」

「えっ?誰々?」

「そこまで旧いの」

「俄然興味が沸くなぁ」


 執事はうーんと唸り、一瞬なにか閃いたが…


「魔王様、今一番最悪な存在を思い出したんですが…」

「あー、多分それ」

「本当ですか。それは…行かなくて良かったです」


 執事は胸を撫で下ろした。行けば跡形もなく消される。


「えー?教えてよ」

「駄目です。ここでは言えません」

「魔界に帰ったら教えてくれるの?」

「うーん、まぁいいでしょう」


 執事は早く魔界に帰りたかった。魔界の古い書物にある一文が残されている。


『その怪物、一度敵とみなせばその瞬間、あたりは炎に包まれ一瞬にして灰塵と化す』


 そんなおとぎ話を自身の師父から聞かされたことがある。師父はその存在に会ったことがあるが、そばに魔王が居たため敵とはみなされなかった。その怪物がこの国にいるとは。


 執事は魔王が気にしなくても、この小国を注視しなくてはと心に刻んだ。



◇◇◇



と、裏で四天王と魔王の会話があったが、その様子はこの国の誰も知らない。


「父上、よく魔王と対峙できましたね」

「あぁ。私なら卒倒しているよ」

「俺は魔王を紐でぐるぐるにした爺やが平気なのが怖いです」

「な、私もそう思う」


 その爺やは、ハルバートと並んで立っている。


「さて、お前も無事帰ってきたことだし、今夜は豪華な夕食にしようじゃないか」

「今夜は…っていつもじゃないんですか?」

「王だからって毎日豪華な食事をしていたら、肥満になる。我々の小さい頃だって健康に気をつけて食事をしていただろう?下町のメニューも時々取り入れてるしな」


 アーサー王は昔からよく街へ出ていた。城の食事は味気ないとか言って、いろんな店や庶民の食事を楽しんでいた。今も変わらず食べることに興味があるらしい。


「爺や、料理長に言って今夜はアレクの好きなものを多めに作っておいてくれ」

「分かりました」


 爺やはお辞儀をしたあと、謁見の間から出ていった。


「それでは解散するか。私も仕事が残っている」

「そういえば俺が国に入ってくるときにワイバーンの群れに襲われたけど」

「あぁ、報告に上がっている」

「昔というか、この国には襲ってくる魔物なんていなかったはずですけど」


 アレクが疑問を口にする。アーサー王は腕を組み


「そうなんだよな。ここ10年くらいのことだ、魔物が来るようになったのは」

「何か近隣でおかしなことが起こっているとか…」

「そういうことは聞いていないな。あれば梟から報告がある」

「ふうん」


 アレクは首を傾げたが、これ以上聞くことはない。


「お前と食事をするために、私も早く仕事を終わらせる。お前は叔父上に会ってくると良い」

「アズールちゃんも一緒なのよね?」


 と、サーシャ王妃が訊ねる。


「俺の部屋で寝てますよ。連れてきましょう」

「アズールちゃんも久しぶりだわ。あの水色の毛並みが綺麗なのよね、じっと見てると水面のキラキラした感じに似てるの」

「そういえば双子も夢中でしたよ」


 ははは、と笑い、アレクはハルバートと一緒に謁見の間から出ていった。王と王妃は椅子から立ち上がり、王妃は横目で夫を見た。


「アレクちゃんにいつ抱きつくかとヒヤヒヤしていましたわ」

「一応臣下がいたのだ。そんな子どもみたいなことはしない」

「あら?帰ってきたときに迎えに行くと言ったのはどなたでしたっけ?」

「あれは…衝動的に、だ」


 アーサー王は照れ隠ししながら、サーシャ王妃と共に執務室へ向かった。

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