第48話 忍び寄る深淵の闇
金田(カネダ)を追って、金田(カネダ)の事務所にのりこんだ仁(ジン)とアスカ。
閑散とした事務所にいた金田(カネダ)は、敵意をみせずに二人を招き入れた。
いかにも任侠映画に登場しそうな部屋には、ゆったりと座れるソファーが向い合せで設置されている。
堅苦しく身構えソファーに座る仁(ジン)とアスカ。
受付嬢が机にお茶を配っていく。
『ズズズズズ〜』
「何やこのヌルい茶は。」
「はっ、ハイ。すみません。玉露です。」
「だから何やねん。ったく、しょ〜もないなわ〜。遠慮せんと飲め。毒なんか入ってないわ。」
金田(カネダ)は音を立てながらお茶をすすると、悪態をつきいつもの調子で話し始めた。
「坊主のオッサン、今回はえらい大人しいやないか。オイ、アスカ、何かしこまっとるんや?ココは、初めてとちゃうやろ。それとも何か、また何かされるんちゃうんかとでも思っとるんか?」
「もちろんだとも。大人しくなったのは、あなたの方だがね。今度は、何を企んでいる?」
仁(ジン)の皮肉が効いた返しに、金田(カネダ)は膝を叩いて笑った。
「ガァッ、ハッハッハッ。えらい信用されとらんな〜。まぁ〜、当然か〜。ワシはな〜、好きこのんで手荒いことをしとるんとちゃうで。………ワシの好みは……、コレや………。」
『ボンッ』
金田(カネダ)は、どこからともなく札束を机の上に投げ置いた。
意図が分からない仁(ジン)とアスカは、困惑した顔で金田(カネダ)を見つめる。
金田(カネダ)は、また下品な音を立てながらお茶をすすった。
『ズズズズズ〜』
「“深淵の目”………。アレは、最初…人々のE'sを模倣する、チッポケなAIやった。始めはアイツに些細なシノギをさせとったんや。せやけど…しまいには人ごと喰らうようになり、その力は強力になってきた。ある日、アイツが言うたんや……“全部食わせろ。そしたら、もっとイイ世界を創る”……っと。その頃には、立場が逆転しとっつた…。 ヒギッ……。」
話の節目に、金田(カネダ)の顔が一瞬引きつった様に見えたが、仁(ジン)とアスカは特に気にせず話の続きを聞いた。
「篤(アツシ)とか言うヤツは、重力を操るらしいな。ソイツを“深淵の目”が食べれば、この世界の全てを飲み込むやろう…。そんな事にならんでも、明日の祭りで集まった沢山の人を食べれば、きっと壮絶な力を手に入れる。今頃、神社の前から山車やら神輿やらが、夜通し街中を練り歩き、明日の朝には街の中心の“城跡公園”に到着する。祭りのピークには、壮絶な光景が繰り広げられるで……。 ヒギィッ!」
(!?)
突然、金田(カネダ)の顔が激しく歪み、その異様な姿に驚きアスカは思わず立ち上がった。
「アスカさん。やはり我々は、はめられたようだ。」
金田(カネダ)の顔はみるみる歪んでいき、服の下がモゾモゾ激しく動き出してきた。
「ヒギャーーーっ。」
白目をむき口をパックリ開けて天井を向く金田(カネダ)は、意識を失ったようだ。
「アスカさん。コイツは、もう金田(カネダ)ではない。“深淵の目”か、その一部だ! 来るぞ、身構えたまえ!」
金田(カネダ)の口から、ワラワラと触手が出てきた。
「キャーーーーーッ!」
『ドサッ』
受付嬢も、金田の姿を見て悲鳴を上げ、白目をむいて倒れてしまった。
さらに、服を突き破って触手が飛び出してくると、仁(ジン)とアスカをめがけて襲いかかってくる。
仁(ジン)はとっさにE'sを使い、E'sの磁力で机を持ち上げ盾とした。
『バキバキバキ』
金田(カネダ)の体から飛び出してきた触手は、あっという間に机を破壊してしまった。
無防備になった仁(ジン)とアスカに、触手が狙いを定める。
『ビュルルルルーーー、ズブズブズブ』
金田(カネダ)の体から伸びた無数の触手は、無残にも仁(ジン)とアスカを突き刺してしまった。
……触手につらぬかれた仁(ジン)とアスカは、無表情のまま徐々にその姿がボヤケていく。
『グガァ〜〜〜』
手応えのなさに仕留めそこねた苛立ちから、金田(カネダ)の体から溢れ出す触手が、どこからともなく唸り声をあげて暴れ出した。
それを押さえつけるように、部屋にあった金属製のありとあらゆる物が、金田(カネダ)の体めがけてぶつかり動きを封じていく。
「なめてもらっては困る。私達も、ある程度のE'sは心得ておるのでね。アスカさん、ありがとう。攻撃のチャンスが出来た。」
触手がつらぬいた残像とは違う所に、磁気を操るエレファントのオーラをまとったE'bの仁(ジン)が宙に浮いている。
その隣には、先程の残像を作り上げたアスカが虹色の蝶の羽をもつ女神E'b“アイリス”の姿になっていた。
「いえいえ。私だってE'bをあつかうスキルレベルです。ヤツは、まだ動きが封じられただけです。仁(ジン)さん、お願いします。」
「承知した。」
仁(ジン)が操るE'sの磁力で、部屋の中にある金属製の物がフワフワと漂い始める。
触手が、金田(カネダ)の身体を取り囲み身構えると、大きな机が飛び込んでいく。
『ビュン、ビュン』
机をなぎ払おうとした触手は、何にも当たらず、ただ空中を振り回すだけだった。
もちろん机に実体は無く、アスカのE'sで作り上げた幻影だったのだ。
『ズカガガガガッ』
幻影の机に惑わされガードが緩んだ金田(カネダ)の身体に、仁(ジン)のE'sに操られた金属製のありとあらゆる小物が突き刺さる。
『グガァーーー』
『ガツガツガツ、 バリンッ』
触手はたまらず叫び声を上げ、事務所の窓を突き破ると外へ飛び降りていった。
「アスカさん。“深淵の目”の一部なら、我々だけでも倒せれるかもしれない! このまま押し切るのだ。」
「はい! 分かりました。」
触手がぶち破った窓から、仁(ジン)とアスカが舞い降りていく。
空から化け物が落ちてきたので、触手が飛び降りた先の道路では大混乱が起きていた。
人々は、車を止めて逃げ出し、周りには野次馬が集まりだしている。
『グガァーーー』
『キャー!』
触手が集まってきた野次馬に襲いかかり、叫び声が上がる。
「いけない! アスカさん、食い止めてくれ。」
「ハイ」
アスカはE'sを使い、触手の周りに自らの幻影を作り取り囲った。
たじろぐ触手。
そこへ仁(ジン)がE'sを使い、無人の車を勢いよくぶつける。
『ドカーン』
車は爆発し、触手もろとも大きな炎を上げて燃え上がる。
「倒せれたのでしょうか。」
「ああ…、おそらく。だが、コイツは“深淵の目”の一部だと思うがね…。雷斗(ライト)君達が気になる。連絡を取って合流しよう。」
「ハイ。私もお力になれれば…、ご一緒させて下さい。」
「ありがとう、心強い。」
『ウゥ〜ン』
遠くの方から緊急車両のサイレンが鳴り響いてくると、仁(ジン)とアスカは野次馬の中へ姿をくらませていった。
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