第5話 イージーミッション

 『ブビィ〜』


 立体駐車場の屋上に響く不器用なトロンボーンの音。


 『(~_~;)ウヌ~:晃(アキラ)〜。あの子、ここを起点登録したみたいよ〜。』


 「ん〜。」


 晃(アキラ)は、寝転がり雲をながめていると音波(オトハ)の顔が視界をふさいだ。


 「E'bって、なんですか!? “深淵の目”って、どんな人ですか!? 私も、称号が欲しい!」


 「レム〜。」


 晃(アキラ)から面倒臭そうにふられ、レムはふてぶてしい態度で答え始めた。


 『(-_-メ)イラ:E'bは、自分の姿や空間まで変える力よ。あなたはまず、E'sを使いこなせるようにならないといけないゎ。“深淵の目”なんて、縁遠い人よ…。』


 「じゃあ〜晃(アキラ)さんは、どんなE'sを使うんですか!? 閃光のふとん…でしたっけ?」


 『(;´∀`)アチャ~:フォトンよ。光子! 光子! さすがの晃(アキラ)も、光る布団と間違えられたら怒るわよ…。』


 とうの晃(アキラ)は、気にもしていないようだ。

 その時、キラキラ目を輝かせながら質問をする音波(オトハ)の頭に、一羽の青い鳩がとまった。


 「習うより慣れろ。依頼が来た。」


 『チリ〜ン』


 ベルが鳴ると、青い鳩の前に文字が浮かび上がった。


 《ミッションが追加されました。》


 あごに手を添えながら、青い鳩の前に浮かび上がった文字をフリックする晃(アキラ)。


 「ん〜。このへんなら、危なくないかな〜。」


 《カエルの子は、カエル?》


 「何ですか? カエルの化け物を、倒すのですか?」


 文字を指でタップすると、ファイルが開いてきた。


 「倒すだけじゃないよ。ん〜、泥棒を捕まえるのかな〜。日が暮れたら出発だ。」


 『チリ〜ン』


 晃(アキラ)が、文字をダブルタップするとベルが鳴り響いた。


 《カエルの子は、カエル?:エントリーされました。》



−夜の商店街−


 『ガラガラガラ』


 店のシャッターが閉められ閑散としていく商店街、トボトボ歩く音波(オトハ)はレムを押しながら歩く晃(アキラ)に質問をした。


 「凶暴なヤツですか?」


 「欲望は、暴力だけじゃないよ。この辺に泥棒が出るらしいんだ。今回は、そいつを捕まえればいいんだよ。」


 『(*´∀`*)ウンウン:ミッションは、ポイントが少ないんだけどね。E'sを使いこなせれない音波(オトハ)は、ポイントを貯めながら地道に成長すればいいのよ。相手のE'sも開示されてるから、レベルも低いのよ。イラスティック…、弾性…? どんなヤツかしらね。』


 「へぇ〜。ポイントを貯めれば、成長出来るんですね。ありがとうございます。しかも、誰もいない商店街、ワクワクする〜。うゎ〜声も響いて、コンサートホールみたい。」


 人気の無くなった商店街に、音波(オトハ)の大きな声がこだました。


 「遊びじゃないよ。それに、何でトロンボーンを持ってきたんだい?」


 「すみません。私のE'sの武器になるかと思いまして。」


 あきれて苦笑いの晃(アキラ)に、音波(オトハ)が頭を下げると、後ろの景色に黒い影がサッと動いた。


 「いた!」


 晃(アキラ)の声に反応し、その影は軽快に飛び跳ねていった。


 「待てー!」


 晃(アキラ)と音波(オトハ)は、レムを置いて影を追いかけていった。


 『(TдT)ウエーン:ちょっと〜、置いてかないでよ〜。』



 路地裏に飛び跳ねていく影。晃(アキラ)と音波(オトハ)が追いかけていくと、そこは行き止まりで誰もいなかった。


 「そんなバカな!? 確かに、こっちに来たはずなのに。」


 『カタン』


 物音の方を見上げると、店舗の二階の壁に影がへばりついていた。


 「ゲゲっ。何だお前ら!?」


 その影は、光沢のある肌にギョロギョロとした大きな目、そしてとても大きな口をした巨大なカエルの姿をしていた。


 「この辺で泥棒をしているのは、お前か?」


 「ゲゲっ、だったら何なんだよ?」


 晃(アキラ)の問いかけに、ガラガラ声で答えるカエル男。


 「泥棒さんを、退治しに来ました!」


 「ちっ、違うよ。捕まえに来たんだよ。」


 突拍子も無い音波(オトハ)の言葉を、慌てて訂正する晃(アキラ)。その隙をついてカエル男の長い舌が、音波(オトハ)に絡みついた。


 「キャーー」


 「ゲゲっ、お前らNi-V(ニルバーナ)だな。俺は、S'bじゃないぞ。」


 「おいたがすぎたんだよ。」


 「ゲゲっ、俺の邪魔をするな。でないと、コイツがどうなってもいいのか?」


 「やれるものなら、やってみろ。勝負は一瞬できまるものだぜ。(誰かが言ってたような…)」


 晃(アキラ)の手が輝き出した。

 危険を察知したカエル男は、音波(オトハ)を捕まえたまま、晃(アキラ)の頭上を飛び越え逃げていった。


 『キキーッ、ドンッ』


 「ゲゲーーっ!」


 「キャーー」


 『(;´д`)イタイ:痛〜い! 何なのよ〜。』


 道に飛び出したカエル男は、レムにひかれて転げてしまった。その際、力が緩み音波(オトハ)が解放された。


 「レム、でかしたぞ! 音波(オトハ)大丈夫か?」


 「ハイ…。フエ〜ン。」


 駆け寄る晃(アキラ)に、ベソをかきながらこたえる音波(オトハ)。晃(アキラ)は安心し、カエル男に視線を向けると姿が消えていた。


 「逃げられたか…。」


 ボソリとつぶやく晃(アキラ)だったが、突然両手に何かが絡まり宙につり上げられた。


 「ゲゲっ、油断したな。」


 「ケケっ、父ちゃんコイツどうする?」


 「ゲゲっ、ただのE's使いが、E'bの俺達にかなうと思ったか。このまま引き千切ってやる。」


 宙につり上げられた晃(アキラ)を助けることが出来ず、歯がゆそうに見つめる音波(オトハ)とレム。

 両手を舌で引っ張られ、晃(アキラ)の顔は苦痛で歪んでいった。

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