第4話 疾走するマタドール

 車をかわしながら猛スピードで走るレム。音波(オトハ)は、振り落とされないよう晃(アキラ)にしがみついていた。


 『ドゴーン』


 走行していた車が宙を舞い歩道に叩きつけられた。

 牛角男が、障害になる物を弾き飛ばしながら追いかける。


 「何だよ。暴力教師じゃねーか。」


 『(;・∀・)イヤ…:あんなの、暴走教師よ! どうするの? 生徒に被害が及ばないように学校から出たけど、もっと被害が広がるんじゃない!?』


 「どうせ、モブだろ。」


 「こんな時にすみません…。S'bとは何ですか? 何であの人は、情景に関わらずあの姿のままなのですか?」


 『(p_-)コホン:S'bはね…、欲望に支配されたものの成れの果て…。ああなってしまったら、自分じゃあどうしようもできないの…。』


 「じゃあ…、私達もああなってしまうのですか? せっかく何でもかなう仮想空間なのに…。」


 『(p_-)エッヘン:あれは、あれで、幸せなんじゃないの…。でっ、どうする晃(アキラ)!?』


 「この情景では、誰もE'sが使えず太刀打ち出来ない…。ん〜……。上手くいくか分からないけど、試してみるか…。」


 晃(アキラ)は高速道路へ入っていき、料金所の静止バーを突き破って突き進んでいった。


 『(;O;)ワォ:頼んだわよ、マタドール!!』


 時速80Kmは出ているであろうか、牛角男も物凄い速さで追いかけてきている。


 『(・.・;)マジ:冗談じゃないわよ…。本物の闘牛に追いかけ回されている気分だゎ…。いえ…、牛より早いんじゃない…。』


 「晃(アキラ)さん、どうするんですか? 私のE'sは、この情景では発動しないと思いますが…。」


 「とびきりのマタドールがいるのさ!」


 『ポォーン』


 甲高い排気音とともに1台のバイクが牛角男を追い抜き、晃(アキラ)達が乗るレムの横に追いついてきた。

 黄色いバイクHONDA CBRに、稲妻のラインがはいったライダースジャケット、以前も高速道路で煽ってきた男だ。

 その男は、左手で親指と小指だけ立てて合図をし晃(アキラ)達に通信をしてきた。


 「探したゼ。おもしれーヤツと、鬼ごっこしてるじゃねーか。オレも混ぜて欲しーゼ。」


 『(´゚д゚`)ウワ~:よりによって…。この緊急時に、何なのコイツ。何なの、あの合図は。マジ、ウザいんですけど〜。』


 「助かる。俺が引き付ける。隙を見て、君のE'sで倒してくれ。E'sポイントは、全部くれてやる。」


 招かざる客に、レムは嫌悪感をあらわにしているが、晃(アキラ)は心良く承諾した。


 「ヘッ、当然だゼ!」


 通信が切れ2台がサッと離れた途端、乗用車が吹っ飛んできた。


 『ドカーン』


 「キャーーー」


 「まったく、あの牛頭、やることメチャクチャだ。音波(オトハ)、しっかり掴まれ。」


 「はっ、ハイ。」


 「さあ、ミッションスタートだ!」


 『(`・ω・´)ゝラジャ:はいな〜』


 2台のバイクは減速し、牛角男を挑発するように蛇行運転を始めた。

 頭に血が上った牛角男は、先ほど吹き飛ばした乗用車に手を押し当てE'sを発動させると、晃(アキラ)達めがけもう一度吹き飛ばしてきた。

 ドアやバンパーを撒き散らしながら転がる乗用車を、軽快に避ける晃(アキラ)。

 黄色いバイクの男は、転がる乗用車の死角に隠れ、牛角男の後ろに付いた。

 加速していく晃(アキラ)を、血眼で追いかける牛角男。その後ろに追従する黄色いバイクの男の体が帯電を始め輝き出した。

 手が届く距離まで追いついた牛角男が、大きく手を振り上げたとき、


 『バチッン』


 閃光と共に牛角男の動きが一瞬とまった。追いかけていた勢いがおさまらず、牛角男は力無く転げて高速道路の欄干にぶつかっていった。

 体から湯気が立ちのぼり、ピクリともしない牛角男。

 晃(アキラ)達は、バイクを停め、恐る恐る様子をうかがいに近寄った。


 「倒したのですか?」


 「見ててごらん。」


 牛角男の角が消えていき、元の体育教師の姿に戻っていった。その顔は、とても穏やかに目をつぶっている。やがてログアウトが始まり、体育教師の体は光の粒になり消えていった。


 『ウゥ〜、ウゥ〜』


 サイレンの音が聴こえてきた。

 晃(アキラ)達は、急いでバイクに乗り、その場から立ち去っていった。



−サービスエリア−


 テラス席で、チョコリと座る音波(オトハ)。カップコーヒーを手渡す晃(アキラ)に、ドシリと座る黄色いバイクの男が話しかけた。


 「閃光のフォトン…。お会いできて光栄だゼ。」


 状況をのみこめていない音波(オトハ)が、皆の顔色をうかがいながら質問した。


 「晃(アキラ)さんは、有名人なのですか。」


 「知らね〜のか嬢ちゃん。その世界では、超有名人なんだゼ。」


 湯気のたつコーヒーをすすりながら、冷めた口調でこたえる晃(アキラ)。


 「この仮想空間ではね、E'sを使って活躍するとポイントと称号が付与されるんだよ。あの牛頭を倒してくれて、ありがとう。君のE'sはエレキ(電気)だね。」


 『チリ〜ン』


 ベルが鳴り、黄色いバイクの男の前に文字が浮かび上がった。


 《電光石火のマタドール》


 「ヘヘッ。こちらこそ、俺の名前は雷斗(ライト)だゼ。」


 『(ー_ー)フ~ン:エレキ使いのあなたが、我らのフォトン様にいかようでございますか?』


 「そんなの決まってるだろ。ポイントを貯めて、E'b(エレメンタルバースト)になるためだゼ!」


 「一歩間違えれば、S'bだぞ。リスクがデカ過ぎる。」


 雷斗(ライト)が、体を乗り出して答えた。


 「ぶっ倒して〜ヤツがいるんだ! それに比べりゃ〜、リスク何てどうでもいいゼ!」


 「どうでもいいけど、どんなヤツなんだ?」


 『(~O~;)ゲゲ:ちょっと、晃(アキラ)〜。お人好しは、やめてよね〜。』


 雷斗(ライト)が、鋭い目つきになりボソリとつぶやいた。


 「“深淵の目”…。」


 「キャー! 何だか皆、カッコいいー!」


 淀みかけていた空気を打ち破るように、音波(オトハ)が声をあげた。


 「はぁ〜。“深淵の目”にかかわると、ろくな事にならない。帰るぞ。」


 晃(アキラ)が、ため息をつき立ち上がった。


 『Σ(´∀`;)ウワ~:はいな〜。』


 「えっ、盛り上がって来たところなのに…。あっ、ハイ。」


 サイドミラーに映る雷斗(ライト)は、人差し指と中指を立て別れの合図をしている。

 晃(アキラ)達は、サービスエリアをあとにした…。

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