第3話 ハイ・プレッシャー

 「うるせ〜んだよ〜!」


 音楽室の外には、おそらく自分たちに向けられた恫喝する男の声。

 何故かログアウト出来ず、音波(オトハ)は体を強張らせていた。


 「くそ…。ロックされたのか…。」


 晃(アキラ)は、音楽室の扉に鍵をかけ窓際に音波(オトハ)を連れ寄せた。


 「2階か…。」


 「ロックされたって、ど、どういうことですか?」


 「アイツは多分、S'bだ。欲望を具現化する力が強く、俺達は縛り付けられているんだ。」


 「S'b、どうゆうこと!?」


 『ガツガツガツ』


 「こらー! あけろー!」


 力任せに扉を開けようとする高圧的な男に、音波(オトハ)は恐怖でしゃがみこんでしまった。


 『バコーーン』


 扉が吹き飛んできた。


 「キャーー!」


 廊下に立っていたのは、まるで闘牛の様な角のはえた異様な顔、体は異常に筋肉が膨らみジャージがパツパツになった巨体。


 「オイ、コラー! 学校は、お祭りをするところじゃね〜ぞ! 誰だ、ラッパを吹いたヤツは!?」


 「オッサン。見たところ生活指導の体育教師か?」


 牛角男に動じず晃(アキラ)は場馴れしているのか、冷めた口調で話しかけた。


 「何だきさま! 生徒以外が何をしている。出ていけ!」


 晃(アキラ)は、怯まず教室にあったパイプ椅子を手に取り、牛角男にジリジリ詰め寄った。


 「この、不良が! 生活指導をしてやる。」


 その時、グラウンドピアノの上に置いていた音波(オトハ)の携帯から、かすかに誰かにコールする音が聴こえてきた。


 『プルルルル〜…。ピッ。(^o^)ヤッホ‐:ハイハイ〜、レムで〜す。どちら様〜?』


 音波(オトハ)が携帯を慌てて手に取り操作するも、ゆうことをきかないようだ。

 晃(アキラ)は、携帯が声をひろえるように大声で叫んだ。


 「レム、緊急事態だ! 音楽室まで来てくれ!」


 『( ゚д゚)ハッ!:あゎ? 晃(アキラ)!? ハッ、ハイな〜!!』


 「学校では、携帯の電源を切れー!」


 『ボッフン』


 牛角男は、手を振り下ろしグラウンドピアノに触れると、大きなグラウンドピアノはペシャンコになった。


 「何だ!? 触れただけで、ピアノが…!?」


 『ポ〜ン』


 泣きそうな顔で携帯を操作する音波(オトハ)に、かまいもせず勝手に動作を続ける携帯から機械音声が聴こえてきた。


 『ケンサク シマシタ オトコノ スキルハ “オーバープレス” フレタモノニ キョウリョクナアツリョクヲ カケマス』


 「音波(オトハ)。君の“媒体”は、“携帯”だ! さあ、何か印象が強い思い出を考えるんだ!」


 晃(アキラ)は、音波(オトハ)に向かい叫ぶと、パイプ椅子を牛角男に投げつけた。

 牛角男は、まるで蚊を叩く様にパイプ椅子を払い除けたが、弾き返されたパイプ椅子は音波(オトハ)めがけて物凄い速さで飛んでいく。


 「しまった、音波(オトハ)!!」


 一瞬のことだった…、

 晃(アキラ)がパイプ椅子の軌道を目で追いかけていくと、見えない空気の壁にぶつかり、牛角男に向かって弾き戻された。更にその空気の壁は、晃(アキラ)と牛角男の体を吹き飛ばしていく。そしてすぐ後から、物凄いボリュームの音波(オトハ)の声が音楽室いっぱいにあふれかえった。


 《キャーーー!!》『ッドーーン』


 晃(アキラ)も、牛角男も、自分達の身に何が起きたのかも分からず目を回している。


 (キーン)「い…、いでで…。あ…、あー。」


 頭をおさえ、フラつきながら立ち上がる晃(アキラ)に、音波(オトハ)が必死で話しかける。


 「………すか。…げましょう。」


 『ババババ、バルーン』


 レムの排気音が近づいてきた。

 音波(オトハ)は、目を回している晃(アキラ)の手を引き廊下に駆け出した。


 『キーー  Σ(゚Д゚)ワッ:ちょっ、とっ、とっ、どうしちゃったの〜!?』


 目の前に突然現れた音波(オトハ)に、慌てて急ブレーキをかけるレム。すんでのところで止まり、晃(アキラ)と音波(オトハ)は、レムにしがみついた。


 「この、クソガキ共がーー!」


 『ッドーーン』


 牛角男が、ガレキを吹き飛ばしながら立ち上がると、血走った目で睨みつけてきた。


 「レム、逃げてくれ!」


 『щ(゚д゚щ)カモーン:しっかりつかまって、マタドール!  バルルルーーン』


 「レムさん。自動運転できるのね! 素敵!」


 レムは廊下を猛スピードで駆けぬけていく。牛角男は、頭の角を突き出し地面を揺らしながら追いかけてくる。

 レムは、器用に階段を駆け下り校庭へ飛び出していった。


 『バリーン ドッスーン』


 2階から、牛角男が窓を突き破り飛び降りてきた。その顔は真っ赤に変わり、怒りで我を忘れているようだ。


 『キャーー』


 叫び声が響く校庭。牛角男は気にもとめず、地響きを立てながら晃(アキラ)達を追いかけてくる。


 「音波(オトハ)。もう一度、あの叫び声を出せないのか!?」


 あおり立てる晃(アキラ)に、困惑する音波(オトハ)。


 「えっ、分からない。無理。」


 「くそっ! “媒体”は分かったのに、情景がハッキリしない。ここじゃあ学生に被害が出る。とにかく逃げよう!」


 学校から出て逃げる晃(アキラ)達を、人外な速さで地響きを立てながら追いかけてくる牛角男。


 『(;・∀・)マイッタ:ちょっと…、晃(アキラ)…、どうするの…?』




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