第20話 雪の泣く声
真っ青な空に定規でなぞった様に真っ直ぐのびる飛行機雲、今までの騒がしさが嘘のように穏やかなお日様の下、晃(アキラ)は久々の日光浴をしていた。
そんな晃(アキラ)の顔を覗き込む音波(オトハ)。
眠っているのを確かめる様に音波(オトハ)の影が、晃(アキラ)の顔の上を行ったり来たりしている。
「あ…、あの…。何か最近色々ゴメンなさい…。前回のミッション、私足を引っ張ってばかりで…。霞(カスミ)が…、お友達が出来て、舞い上がっちゃてたのかな〜。それに…、晃(アキラ)さんがワンダーで元の世界に帰れないのを茶化したりして御免なさい。」
『(¦3[▓▓]………、』
晃(アキラ)の顔にかかる音波(オトハ)の影が消えた。
『(:3[▓▓]チカッ:行ったよ〜。』
「ん〜。」
『(*˘︶˘*)フ~ン:憎めない子だね〜。起きてるんでしょ〜。』
「ん〜〜。」
ふて寝する晃(アキラ)の頬に、小さく綺麗な雪の結晶がポツリと落ち、瞬く間にジンワリ消えていった。
(ブルブルッ)
気温が急激に下がり、晃(アキラ)がリクライニングチェアの上で身をちぢめた。
空が、みるみる暗くなっていく。
「ハックシュン」
耐えかねずムクリと起き上がる晃(アキラ)は、いつものライダースジャケットを羽織るが、体の震えは収まらずテントの中に何かを探しに入った。
『(,,゚Д゚)ワォ:うゎ〜。見て〜、雪よ〜。私、本物見たの初めて〜!』
「雪…? 本物なんて…、ここは仮想空間だぞ…。あ……!?」
フードにファーの付いた厚手のジャケットに袖を通しながら晃(アキラ)がテントの中から出てくると、レムが言ったようにフワフワの雪が降り始めていた。
晃(アキラ)は、口をパックリ開けてその景色を眺めている。
無理もないのだ、仮想空間では季節が曖昧だ。
特別な地域でないかぎり、多くの人が願いイベントがなければ、雪なんてまず降らないからだ。
降り続いた雪は、みるみる街の景色を白く染めた。
こうなってしまっては、晃(アキラ)達は屋上でテントを張ってはいられない。
そそくさと片付けながら、新しい野宿先を探さなくてはいけない。
『(´-﹏-`;)プルプル:うぅ〜。オイルが凍る〜。ひもじいよ〜。エゴ姉さんの所に泊めてもらおうよ〜。』
「あの雷男の所に泊まるのか…。絶対落ち着かないと思うけどな…。あと、気になるのが音波(オトハ)だろう。きっと学校の音楽室辺りで、トロンボーンの練習でもしているのだろうけど。この寒さだからな…。」
『(´∀`)ヘェ~:な〜んだ、やっぱり起きてたんだ〜。』
「ん〜」
荷物をレムに縛り付け、晃(アキラ)は雪の中をトボトボ歩き出した。
『ピロ〜ン』
《学校に一時避難!! うぇ〜ん(涙)、寒いよ〜怖いよ〜寂しいよ〜(涙)》
『(;´∀`)ホッ:音波(オトハ)から連絡が来たよ〜。一応無事みたい。』
「案の定、学校に立ち往生か…。」
普段バイクなら数分の距離だが、雪で埋もれた道をレムを押しながら歩くのは一筋縄ではいかない様だ。
『(;´д`)フニャ~:ね〜。私重い? 太ったかな〜。置いて行ってもいいんだよ〜。』
「ん〜。」
(ズルッ) おまけに晃(アキラ)のエンジニアブーツは、雪道と相性が最悪の様で、何度も滑りながらレムのグリップにしがみつきながら、おそるおそる歩いていた。
「そうだな…。すぐそこに学校があるから。一旦、ここに駐めて音波(オトハ)を迎えに行こうか…。」
『(TдT)ウェ~ン:やっぱりヤダー! こんな所で、一人にしないで〜。』
「はいはい…。」
『………うぇ…ん……。』
「ん!? 誰か泣いてる…?」
『(TOT)シクシク:あたしだょ〜。可哀想なレムちゃんが泣いてるんだょ〜。』
「はいはい。」
−高校の音楽室−
「うぅ…。こんな時に限って、ログアウト出来ないなんて…。私、ここで凍死しちゃうんだゎ〜。」
音波(オトハ)が、薄暗い音楽室の片隅に、ちょこんと座りブルブルふるえている。
音楽室の壁には、モーツァルト、バッハ、ベートーヴェン、有名な音楽家の自画像が音波(オトハ)を見つめるように並んでいる。
『……うぇ〜…ん……。』
「ヒィッ!? 何!? 何なの!? もぅ…、やめてよね…。」
幻聴だろうか、誰かの鳴き声に取り乱す音波(オトハ)。
その時、音楽室の扉の窓に人影が写った。
『ガチャガチャ…。』
「ヒィッ!?」
口を抑え怯える音波(オトハ)。
ゆっくり扉が開く。
『ガチャ…、ギィ〜〜〜。』
「キャーッ!!」
音波(オトハ)は、部屋に入って来た人影に、側に置いてあったイスを投げつけた。
『ガチャ〜ン』
「いって〜。何すんだよ〜。」
泣きそうな音波(オトハ)の視線の先に、尻餅をつきながら怒っている晃(アキラ)がいた。
「わぁ〜〜〜ん」
音波(オトハ)は安堵のあまり、込み上げてきた感情で泣きわめいてしまった。
「いつも…、迷惑かけて…、ゴメンなさい…。うぅ…。」
雪道を苦労して迎えに来たあげくイスを投げつけられた晃(アキラ)は随分ご立腹だったが、あまりにも大きな声で泣きわめく音波(オトハ)に気持ちが静まり、晃(アキラ)は音波(オトハ)の頭をポンポンと軽くたたいた。
「もう、いいよ。」
「うぅ…。私が泣いてた事、誰にも言わないで下さい。」
「誰に言うんだよ…。」
「くすっ」
気持ちが落ち着いてきた音波(オトハ)は、晃(アキラ)と見つめ合いニンマリと笑みを浮かべた。
『……シク…シク……。』
(ビクッ!?)
「き…、気のせいだよ…。」
またしても、何処からともなく聴こえてくる誰かの泣き声に、二人は青ざめた顔で見つめ合うと、そそくさと音楽室から出ていった。
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