第37話 祭りのお告げ

 赤信号の交差点には、車両が列をなして停車している。

 退院した雷斗(ライト)もエゴにまたがり、信号機が青色に変わるのを静かに待っていた。


 『チリ〜ン』


 雷斗(ライト)がかぶるヘルメットのディスプレイに、青い鳩の通知アイコンが表示された。


 《お友達より、ミッションの依頼が来ました。》


 frome:大石 仁(オオイシ ジン)。


 仮想空間の運営局より、緊急のミッションが来た。

 かねてより動向を探っていた、スナックで出会った男達の詳細が分かり、何かしらの動きがあるようだ。

 傷が癒えていないなか恐縮だが、是非とも君に協力してもらいたい。

 詳細は、添付ファイルの場所で話す。


 「エゴ。ミッションだゼ!」


 『(~o~)∶あいよ!』


 『ポォーーーン』


 信号機が青色に変わると、雷斗(ライト)の乗ったエゴは他の車両よりもいち早く発進し、物凄いスピードで他の車両を追い抜いていった。


 イド・フロンティアで一番栄えている街の中心には、大きく立派な石垣のあるお城跡公園がある。

 そこから幹線道路が、高層ビル群や繁華街をとおり郊外へとぬけた先、杉の森に覆われた小高い丘の上に建てられた神社までのびている。


 近々お祭りがあるのだろうか、あちらこちらにお祭りのポスターが貼られ普段より賑わい交通量の多い幹線道路を、雷斗(ライト)は縫うように走り神社のふもとまで来た。

 神社のふもとの道には、綺羅びやかな装飾に飾られた山車が沢山並べられていた。

 雷斗(ライト)は、山車の裏にエゴを停め参道へと向かう。


 「何かあったら連絡するから、直ぐに駆け付けて欲しいゼ。」


 『( ゚Д゚)y─~∶珍しく弱気やないの? アンタの背中は、うちが守るで気を付けてな。』


 雷斗(ライト)が杉の木の木漏れ日がゆれる綺麗な石畳の上を歩いていくと、大きく立派な朱色の鳥居の下に仁(ジン)が一人車椅子に座り待ち構えていた。


 「街は、もうすぐ始まる神事祭で賑わい始めている。どこも大渋滞だっただろう。そんな中、さすが二輪車だ。思いのほか早かったな。」


 雷斗(ライト)は、挨拶もせずに本題を尋ねた。


 「エゴは、タイヤが2つ着いた機械じゃねえ。バディーだゼ! どうしてまた、こんな陰気臭い所に呼んだんだ?」


 「それは申し訳なかった。では、本題だが…。この先に行きたいのだがね。私の車椅子のモーターでは、この石畳の坂道は、ちと厳しくてね。押して行ってはくれまいか。」


 雷斗(ライト)は、呆れた様子で仁(ジン)が座る車椅子を押し鳥居をくぐっていった。


 「まさか、お参りをする為に呼ばれたなら、とんだ無駄足だゼ。」


 石畳に揺らされながら、仁(ジン)はゆっくり丁寧に話し始めた。


 「フフフ。君がいなければ私はこの坂道の先に行けないので、まんざら冗談ではないのだがね。スナックで出くわした男達の中に、見覚えのある男がいてね。その男の名前は、金田 権蔵(カネダ ゴンゾウ)。男達に指示を出していた、太った男だよ。表向きは不動産屋だが、裏の顔の方が有名だ。一言で言うなれば、ヤクザっと言ったところかな。そして熱心な神道者だ。まぁっ…、表向きだろうがね。当然の如く、祭り事の一切を仕切っている。そして今日、祭りの準備の為に、この神社に来ている。」


 「でもよ〜。どんなに気に食わね〜奴でも、祭りの邪魔をするなんて、男のする事じゃね〜ゼ。」


 さすがの雷斗(ライト)でも、手段を選ばずに油断している相手と関係の無い祭りに関わる人達を巻き込むことには、抵抗があるようだ。

 それでも仁(ジン)は、何か決定的な事を知っているのか、まるで答えを焦らす様な含んだ口調で答えた。


 「君は、この神社の事を何か知っているのかね。現実の世界であれば、歴史があり街のシンボルとして誰もが一度は来たことがある場所なのだがね…。私は何も知らない。」


 雷斗(ライト)は、まるで早朝に叩き起こされたかのような顔で返事をした。


 「本当だゼ! 昔から有るようで、俺も何も知らね〜ゼ。」


 「誰の記憶にも無い…。しかし確かに昔からあったのだ…。そして祭りの事も、皆不確かにしか知らない。それでもあの男 金田 権蔵(カネダ ゴンゾウ)は、時折ここへ来ていたのは分かっている。何の為に…?」


 日中だというのに石畳の参道から、木漏れ日が消え薄暗くなってきた。


 「あいつらに…。きっとアスカさんの能力で誘拐された人達や音波(オトハ)と晃(アキラ)も、この先に囚われているにちげ〜ね〜ゼ! 雰囲気も、怪しくなってきたゼ。」


 「ああ…、気をつけるんだ。この先に待ち構えているのは、威勢のいい男達だけではない。この世界の形や人々の記憶やを操る、得体の知れない存在だ。」


 生唾を飲み込み、重い口調で答える雷斗(ライト)。


 「“深淵の目”…か? アンタは強いかもしれね〜が、今の俺じゃあ輝(テル)にもかなわね〜ゼ。」


 「フフっ…。」


 仁(ジン)は、何か策があるのか、余裕の表情で笑みを浮かべ答えた。


 「何も戦うとは言ってはいないよ。現場をおさえたら、仮想空間の運営局へ通報するのさ。突入部隊の手はずも出来ている。もちろん、報酬もな。」


 「はたして、そんなにうまくいくか心配だゼ。」


 さらに暗くなってきた石畳の参道に、ゆらゆらと灯籠の明かりが灯り始め、よりいっそう異様さを増していく。


 「引き返して。」


 誰かに呼び止められ、足を止める雷斗(ライト)。

 灯籠の影から狐のお面をかぶった女の子が、二人の前にひょっこり現れた。

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