第43話 再会
熾烈に闘い多数の被害者を出したにもかかわらず、“深淵の目”や金田(カネダ)達は呆気なく皆立ち去ってしまい一気に静まりかえった神社の境内。
雷斗(ライト)と仁(ジン)は、晃(アキラ)と音波(オトハ)の帰りに喜び、自分達が無事であることに安堵していた。
「さすがは晃(アキラ)だゼ。どいつもこいつも、尻尾を巻いて逃げていったゼ。」
「安心するのは、まだ早いよ。“深淵の目”は、俺達の大切な誰かを奪う気だ! いったい何を考えているんだろう。」
気持ちが舞い上がる雷斗(ライト)を、さとす晃(アキラ)。
そこに、いつも冷静な仁(ジン)が加わる。
「その通りだ。イド・フロンティアの運営局も、金田(カネダ)のワイロであてにはならない。そのうえ、あれだけ自分達の仲間を食べられているのに、何故“深淵の目”に従い祭りを執り行おうとしているのか。“約束の地”とは、いったいどの様な企てなのか…。」
難しい話が苦手な音波(オトハ)が辺りを見回すと、少し離れた所に肩身が狭そうなアスカがたたずんでいることに気づいた。
「アスカさん、もうあいつらの仲間じゃないんでしょ。私達、何も気にしてませんよ。」
「一緒に働いてきたボーイの人が、あんな事になったんだゼ。無神経だゼ。」
「ありがとうございます。ボーイの彼とは一緒にお店を経営してきたので、とても残念です。でも仮想空間での事なので、きっと何処かで元気にすごしていると信じてます。」
そしてアスカは、恐る恐る晃(アキラ)の顔をのぞき込んで挨拶をした。
「あの…。あなたが、あの光り輝くS'bだった晃(アキラ)さんなんですね。」
「あっ…S'b…!? はい、僕の事をご存知なんですね! あっ! 何か、酷いことをしました!?」
ティア・フローズンの一件いらい事の次第を知らない晃(アキラ)に、アスカは自己紹介を兼ねて説明をした。
「いえ…、そんな事は…。S'bになったあなたを助けようと、皆さんが私のお店にたずねてこられたのです。その際ここにいる皆さんが、私のお店の有る地域を取り仕切っていた金田(カネダ)に、立ち向かっていただいたのです。それまで私は、言いなりになっていたので助かりました。」
とりあえず大事に至ることをしていなさそうで、ホッとする晃(アキラ)。
更に、自分のために皆がなんとかしようとしてくれた事に嬉しくなった晃(アキラ)は、少しはにかんで皆に頭を下げた。
「そうだ…、お力になれるか分かりませんが、金田(カネダ)達の会話で気になることが…。」
アスカは、金田(カネダ)達と行動を共にしていた時の内情を、釣っけて話した。
「前々から目星を付けていた人がいたようです。その人の能力を手に入れれば、全ての力を取り込めるようで…。その人が、どういったE'sを持っているかまでは分かりませんが、お祭りも、“閃光のフォトン”晃(アキラ)さんも、その人が駄目になった時の保険のようなものだ…と話していたのを耳にしました。」
「そういえば…、前々から誰かにず〜っと見られていた気がしてたんだ。篤(アツシ)という男の子がいて、俺は、てっきり彼が俺の事を探っていたのかと思っていたけど、彼と知り合ってからも違和感が続いていたんだよ。もしかしたら、“深淵の目”が様子をうかがっていたのかもしれないね。ところで、篤(アツシ)はどうしたんだい?」
晃(アキラ)は、自分の記憶とアスカの話を重ね合わせながら話をし、ふと篤(アツシ)の姿が見当たらないことに気づき、雷斗(ライト)にたずねた。
「篤(アツシ)は…。もう、アレだゼ…。昏睡状態っていうんだろうな。時間の流れが違うイド・フロンティアでもうアレなら、現実世界では長くないんだろうゼ。」
篤(アツシ)の病状を知らない晃(アキラ)に、少し気を使いながら話す雷斗(ライト)。
雷斗(ライト)の話しぶりから、短い間だったとはいえ篤(アツシ)の事を思うと晃(アキラ)の表情が少しくもった。
「そうだったのか…。もともと病気だとは言ってはいたけど、そんなに深刻だったんだな…。意識がなくても、お見舞いに行ってあげなきゃ…。でも…“深淵の目”は、僕達の大切な人を食べると言っていたし、うかうかしていられないな〜。………………まさかっ!?」
晃(アキラ)が何かに気づき、表情が青ざめた。
「晃(アキラ)さん、どうしたんですか?」
音波(オトハ)が話しかけても依然として焦点が合わず考え込む晃(アキラ)に、仁(ジン)が返事を促した。
「“深淵の目”が狙っている相手が、篤(アツシ)君なのだね。彼は、どういったE'sをもっているのかね?」
晃(アキラ)は、皆をゆっくり見渡すと、仁(ジン)に焦点を向け話し始めた。
「篤(アツシ)のE'sは、空間を歪めます。おそらく、重力の様なものでしょう。初めて対峙した時に少し戦ったのですが、とても強力で…。彼が本調子であれば、俺は敵わないかもしれません…。」
「マジかよ、アイツそんなにつえーの! 晃(アキラ)のE'sでも敵わない力を手に入れられたら、おしまいだゼ!」
「重力で空間を歪ませるE'sを手に入れて、“深淵の目”が何を企んでいるかは分からないが、急いだ方がよさそうだな。私は車椅子で足が遅い、君達は先に行ってくれないか。アスカさんは、これ以上ヤツ等が付きまとうことはないだろう。安全な所に身を隠したまえ。ただ、私の車椅子を押して行ってはくれないか。石畳の参道は、ちと不便でね。」
『ハイ!』
車椅子の仁(ジン)とアスカと別れ、晃(アキラ)達は急いで病院へ向かう。
神社のふもとの道、山車の裏に停められていたエゴの隣には、なんとレムも停まっていた。
『。・゚・(ノД`)・゚・。フェ~ン∶あっ、あっ、晃(アキラ)〜!! 元に戻れたの〜。もう、会えないかと思ってた〜。』
レムは、晃(アキラ)の姿を見るや、こみあげる感情をさらけ出して喜んだ。
その様子に、ほがらかにこたえる晃(アキラ)。
「ふふっ。ありがとう、レム。心配かけたね。」
『(-。-)y~∶ほんまやで。あれからずーっと辛気臭く駐車場に引きこもっとったで、話し相手に顔出せって言うて呼んでおいたんや。まさか雷斗(ライト)が、救けて連れてきてくれるとは思わんだわ〜。』
「ヘヘッ。アスカがもとに戻したから、俺は何もしてないゼ。」
「きっと彼女は、S'bになって暴れていた俺を、鏡の世界に閉じ込めてくれたんだね。そこで音波(オトハ)に救けられて、自分を取り戻すことができたよ。皆、ありがとう。」
「いえいえ。私は、何も…。」
晃(アキラ)達は、久々におとずれた束の間のだんらんをかわすことができた。
「さあ! “深淵の目”を止めに行こう!」
晃(アキラ)の掛け声を胸にしまうように、音波(オトハ)と雷斗(ライト)は黙って頷き、レムとエゴにまたがった…。
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