第33話 灼熱のファイヤーバーニー 二

 廃墟になった遊園地の小さなお城を模した建物。

 音波(オトハ)達は引き寄せられるように中へ入っていくと、割れて穴が空いたステンドグラスの天窓から差し込む光が集まり輝く光芒の姿の晃(アキラ)がいた。

 そして、天窓から力無く落下し湯気をたたえて倒れている雷斗(ライト)。

 何事かと心配し駆け寄ろうとすると、屋根の上には見下すように覗き込む輝(テル)がいた。


 「ほぉ〜。E'bに成るまで成長していたのは驚きだが、まだまだ未熟だったようだな。…んっ!? ほぉ〜。」


 音波(オトハ)とアスカを見つけると、まるで演劇の主人公の様に手を広げて語り始める。


 「あらゆる欲望を叶えるために造られた仮想空間、イド・フロンティア。だがそれは、プログラムに支配された陳腐な世界だった。そうとも知らずに、多くの欲望が集まり、渦巻き、膨れ上がっていった。よく振った缶ビールの様な飽和状態の世界に、一つの変化が現れたのだ。“深淵の目”…、この世界の全てを満たす力…。それは、人なのか、E'sなのか、全く想像もつかない未知の存在…。」


 輝(テル)は、音波(オトハ)の前に飛び降りた。


 『シュタッ』


 「よくも、雷斗(ライト)さんを…。」

 

 手をつきうつむいたまま、音波(オトハ)に話し始めた。


 「ほぉ〜。雷斗(ライト)の友達か…。しかもこの光…、“閃光のフォトン”…。噂には聞いていたが、まさか実在したとは。しかもS'bに成り果て、おぼろげになった心と体…。仲間を救けたいのだろ?」


 ゆっくり立ち上がり、右手をアスカの方にかかげた。

 輝(テル)のE'bヌラヌラ揺らめく炎の明かりで、部屋の雰囲気が赤みをおびていく。

 そして右手の人差し指が、真っ直ぐアスカを指差した。


 「アスカ。テメェなら、救けてやれるんじゃねぇ〜か。散乱する光を集める事ぐらい出来るだろう。ましてや…、捕まえて、閉じ込めることぐらいな!」


 意味深なセリフをアスカに言い放った。

 数時間の間に色々な事が起きて困惑する音波(オトハ)は、キョロキョロと輝(テル)や晃(アキラ)や雷斗(ライト)そしてアスカを見渡した。

 しかしどういうことか、アスカの表情は対象的に何も感情がないかの様な無表情で輝(テル)を見つめている。

 音波(オトハ)の視線に気づいたアスカは、慌てて苦笑いをした。


 「この人…変な事言って、何なのかしらね…。」


 「ほぉ〜。とぼけるのか。なら俺が変わりに話してやろう。イド・フロンティアからログアウトしなくなった、“ワンダー”と呼ばれる人々。いや…鏡の世界に囚われて、ログアウト出来なくなったと言った方が正しいか。数多くのE's能力者を捕らえる為に暗躍してきたお前の二つ名は、“鏡の魔女”。」


 「アスカさんが…、そんなはずは無いですよね。だって私達は今まで、霧に包まれた事件や氷に閉ざされた村の能力者を倒してきました。」


 輝(テル)は、呆れたように両手を広げて音波(オトハ)に話しかける。


 「ほぉ〜。なかなかの戦歴だな。だがティア・フローズンは関係ねぇ、ただのガキだ。霞(カスミ)は、アスカの代わり。もともとは“鏡の魔女”ことアスカが、“深淵の目”に捧げる生け贄になりそうな能力者を捕まえてきていたのだ。」

 

 音波(オトハ)は、怯え始めていた。

 さっき迄、友情すら生まれかけていた女性が、得体のしれない“魔女”と呼ばれていることに。

 音波(オトハ)は、アスカに事の真相を尋ねる声が震えだしていた。


 「あ…アスカさん、本当なの? どうして、そんな事をするの? さらわれた人は、どうなったの?」


 アスカは、またしても無表情となり、何を考えているか分からないその表情がよりいっそう音波(オトハ)の心境を不安にさせた。

 何も喋らないアスカにたまりかねて、輝(テル)がまた話し始めた。


 「ほぉ〜。“深淵の目”の事を何も知らねぇ〜んだな。まぁっ…、俺達も姿すら知らねぇ〜がな。優秀なら仲間に引き入れる、それ以外は“約束の地”へ連れて行ってもらうための生け贄として捧げられる。この世界は、欲望こそが価値。その価値が“深淵の目”の大好物なのさ。」


 「好物って、…食べちゃうって事!? “約束の地”っていったい何なの?」


 音波(オトハ)の顔は、困惑から得体の知れない恐怖へと引きつっていく。


 「音波(オトハ)ちゃん、違うの…。私には事情があって、それにもう足を洗ったのよ。」


 「ほぉ〜。自分の都合でやった事から言い訳をして逃げるのか。俺は、そういうヤツが大っ嫌いなんだ。それに、雷斗(ライト)達が何故アスカに接触しに来たか探ってみたら、こんな抜け殻の電球みて〜なヤツの為だったとは。お喋りは、ここまでだ!」


 そう言うと、輝(テル)は音波(オトハ)の首を鷲掴みにした。

 ジワジワと締め上げられていき、音波(オトハ)の顔は苦痛に歪んでいく。


 「やめて! やるなら私にして。その子は、あなたに関係ないでしょ。」


 アスカの静止も聞かずに、輝(テル)は締め上げる手で音波(オトハ)を持ち上げる。

 音波(オトハ)の足は、地面から離れてジタバタしだした。

 か細い手で必死に解こうと抵抗するも、音波(オトハ)の小さな体では、まったく力が及ばないようだ。

 つま先が伸び、音波(オトハ)の瞳が空を向き始めた。

 全身の力がぬけ、意識が遠のいていこうとした時だった、物凄い強い光につつまれ辺りが真っ白になっていく。


 『ピカッ』


 『ドッン! ズササササッ』


 始めは首を絞められて意識が無くなっていったからかと思っていた音波(オトハ)だったが、次の瞬間激しい衝撃に音波(オトハ)もろとも吹き飛ばされていた。

 その場に居た全員が、何が起きたか分からずうなだれている中、また強い光が辺りをつつみ輝(テル)へ収束していく。


 『ズバーーーッン!』


 「ぐあぁぁぁーーー!!」


 輝(テル)の叫び声がこだまする中、猛烈な光線が輝(テル)の全身を覆っているE'bの装甲を焼き払っていく。

 それはまるで、神の雷を放たれ裁きを受けたかのような光景だった。


 音波(オトハ)達が恐れおののく先に、まるで最後の審判を下す為に舞い降りてきた天使のように虹色の光を放ちよどめく光芒の姿の晃(アキラ)が宙に浮いていたのだ。


 

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