第7話 車椅子の依頼主

 ポカポカ陽気の空の下、晃(アキラ)はいつものようにリクライニングチェアに寝転がり昼寝をしていた。

 音波(オトハ)が、顔をのぞきこみ様子をうかがっている。


 「わっ!!」


 「あゎゎゎ〜!? なっ、何だよ!?」


 音波(オトハ)におどかされ、晃(アキラ)が飛び起きた。


 「仮想空間なのに、何でいつも寝てるんですか? ってか、仮想空間で夢とか見るんですか?」


 「それを聞くために、起こしたの?」


 悪びれもせず、真っ直ぐ見つめてくる音波(オトハ)に仕方なく思ったのか、晃(アキラ)は気だるそうに話し始めた。


 「まったく…。俺のE'sは、すごく体力を消耗するし、光を浴びて力を貯めないといけないんだよ。夢みたいな回想や空想はするけど、寝ているわけじゃないよ。」


 「へ〜。晃(アキラ)さんのE'b凄かった〜! 凄い速さでビュ〜ンって行っちゃうし。一瞬しか見えなかったけど、まるで鳥みたいな鋭い顔つきで、凄くカッコよかった〜。」


 「で…。今日は、どうしたの?」


 音波(オトハ)は、ホッペタを膨らませ、何かを切り出そうか悩んでいるようだった。


 「そんなに膨らんだら、風船みたいに風に飛ばされてしまうぞ。」


 「今日は、あの青い鳩は来ないんですか?」


 『(´ε` )フ~ン:さしずめ、ミッションをこなしてE'sのレベルを上げたいのね。』


 今度は、足をモジモジしながら話しだした。


 「私のところには、鳩さんがいっこうに来ないんですよ…。」


 『(๑•̀ㅁ•́๑)✧:焦っちゃだめよ! E'sを使いこなせるようになったら、自然とやってくるゎ!』


 レムは、励ましたつもりだったようだが、音波(オトハ)はしょんぼり肩を落としている。

 晃(アキラ)は、いたたまれなくなったのか太ももを『パンッ』とたたき音波(オトハ)に話しかけた。


 「じゃあ、長期ミッションでポイントを貯めよう。探しておくから、また連絡するよ。」


 「本当ですか!? ありがとうございます〜。」


 『(ー_ー)ホ~:晃(アキラ)は音波(オトハ)に、甘やかししすぎなんじゃないかしら〜。』


 「何、怒ってるんだよ?」


 『(ー_ー)フン:怒ってません〜。』



《おばけを探して…。》


−地下鉄の4番ホーム−


 日中だというのに薄暗く、心細い蛍光灯がチカチカしている。


 「ミッションって、いつも寂しい所なんですね。」


 背筋をピンとのばしてベンチに腰掛ける音波(オトハ)が、隣で足を組んで座る晃(アキラ)に話しかけた。


 「まだ、始まってないよ。依頼人に、会いに来たんだ。」


 「ああ〜、人間からも依頼があるんですね。じゃあ、私も誰かに依頼できるんですか?」


 「青い鳩が、飛んできたらね。」


 「へ〜〜、でも欲望をかなえる仮想空間なのに、青い鳩が飛んでこないと余計フラストレーションがたまりませんか?」


 「………。俺に言われても…。」


 「そうですよね〜。そういえば、晃(アキラ)さんは、ず〜っと仮想空間にいますけど、現実世界で何しているんですか?」


 「音波(オトハ)って、レムより喋るんだね。」


 あからさまに話をそらされた音波(オトハ)は、ホッペを膨らまして黙りこんだ。


 (……………。)


 「レムさんがいないと、静かですね…。」


 「…ん〜。そうだね…。」


 静けさに耐えきれず音波(オトハ)のつぶやきに、晃(アキラ)は気まずそうに答えた。


 「依頼人って、まだ来ないんですか?」


 「私の事かな?」


 「うわっ!? わっ!?」


 二人以外、誰もいないはずの駅のホーム。突然、隣から声をかけられた音波(オトハ)は、驚きのあまり跳ねるように立ち上がった。

 声の主は、電動車椅子に座ったスキンヘッドのスーツを着た男だった。


 「申し訳無い、脅かすつもりはなかったのだよ。私の名前は、仁(ジン)だ。君が閃光のフォトンだね。」


 足を組みベンチに座っていた晃(アキラ)が、サッと立ち上がり一礼をした。


 「よくご存知で…。晃(アキラ)です。宜しくお願いします。」


 スキンヘッドの男は、ゆっくり礼儀正しく答礼した。その所作やスーツの仕立てから、それ相当の立場の人物であることがうかがい知れる。そして、ゆっくり丁寧に語り出す彼の空気にのまれ、二人は直立したまま聞き入った。


 「要件は、ただ一つ。ある人物を見つけ出して欲しい。手掛かりは、“霧”だけだ。期限は無いが、早いもの勝ちだ。報酬は、スキルポイントを1000pを分け与える。働き次第では、追加の依頼も検討したい。もちろん、報酬は今回より多く考えているが、その分レベルが高くなる。引き受けて頂けるかな。」


 (…………)


 晃(アキラ)は、黙ったまま考え込んでいる。音波(オトハ)が心配そうに顔をのぞき込むと、晃(アキラ)が、重い口を開いた。


 「ずいぶん太っ腹な報酬ですね。」


 「もちろん、それ相当のリスクが有る事は理解して欲しい。断わって頂いてもかまわないが。」


 (…………)


 音波(オトハ)は、二人の顔色をキョロキョロうかがいだした。


 「分かりました、お引き受けします。」


 スキンヘッドの男の顔が和らぎ、軽く一礼をした。


 「吉報を、待っている。」


 『4番ホームに、電車が通過します。白線からお下がりになって下さい。』


 放送が流れ、電車が勢いよく通過していった。


 『ゴォーー、ガタンゴトン〜』


 音波(オトハ)は、通過した時の激しい風で髪が拭き乱され目をつぶるった。

 それに気を取られた晃(アキラ)が視線を戻した時には、スキンヘッドの男はいなくなっていた。

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