第13話 スピリットアウェイ

 霧が深くたちこめる薄暗い河川敷…。


 「音波(オトハ)…。」


 「霞(カスミ)〜。どこ〜。」


 どこからともなく自分を呼ぶ声に答える音波(オトハ)の声も、霧に紛れ散らされこだまするばかり…。

 霞(カスミ)の姿はどこにもなく、ただ霧が漂い音波(オトハ)の姿もおぼろげになっていく。


 『リ〜ン♪ リ〜ン♪』


 突然、携帯の着信音が鳴り響いた。音波(オトハ)が携帯を手に取ると、霧の中で淡く輝く画面に晃(アキラ)からの着信の表示が映し出されていた。


 「もしもし…。もしも〜し…。あれ…。」


 霧に包まれ不安にさいなまれていた中、携帯の淡い光に少し安心したが携帯から声はなく、また淋しげに通話を切る音波(オトハ)。


 「音波(オトハ)…。こっちよ…。」


 また、霞(カスミ)の呼ぶ声が聞こえる。

 今度は、おおよその方向がわかったので、恐る恐る音波(オトハ)は歩き出した。


 「霞(カスミ)〜。ねぇ〜、どこなの〜。」


 「こっちよ…。」


 川原の石に足を取られながら、霞(カスミ)の声がする方へ歩いていくが、いっこうに霞(カスミ)の姿は見えない。


 「キャッ!?」


 音波(オトハ)の足に何かが巻き付き、転んでしまった。

 泣きべそまじりの顔で立ち上がろうとする音波(オトハ)の背後から、白く霧の様にぼやけた手が伸びてきた。


 「やめろ!」(ピカッ)


 突然の閃光が辺りを照らし、E'bになった晃(アキラ)が飛び込んできた。

 しかし音波(オトハ)は、その白く霧の様にぼやけた手に包まれ消えてしまった。


 「くそ…。」


 晃(アキラ)が掻き散らした霧も直ぐに広がり、晃(アキラ)の輝きも霧の中にぼやけていってしまった。


 「あら…。いつかのキモいお兄さん。フフッ。」


 濃い霧のどこかしらから霞(カスミ)の声が聞こえてきた。


 「お前、音波(オトハ)の友達の霞(カスミ)か!? 音波(オトハ)をどうする気だ? 高校生を誘拐しているのも、お前か?」


 「フフッ。男の嫉妬、キモいよ。あの子は、私のモノ。誰にも渡さないゎ。他の子なんて、どうでもいいゎ。頼まれただけよ。」


 「どうゆう事だ? 誰に頼まれた?」


 霧に包まれ、キョロキョロ辺りを見回す晃(アキラ)の背後から、また白く霧の様にぼやけた手が、する〜っと伸びてきた。


 (!?)(ピカッ)


 晃(アキラ)は、とっさにE'bの能力で閃光を放ち白く霧の様にぼやけた手から離れた。


 「オヮッ! とっとっ…、ん…!?」


 数歩ほど離れた所で、よろめく晃(アキラ)。

 それは、意図した所まで離れられなかったのか、あからさまに動揺する晃(アキラ)に、深い霧の何処かから霞(カスミ)の声がこだまする。


 「フフッ…。お兄さんのスキルは、私のスキルと相性最悪ね…。霧の中では、光は進まないのよ…。」


 晃(アキラ)は、動揺しキョロキョロ周囲に警戒している。

 自分の能力に不利な状況、何処にいるか分からない相手。何の対策も取らずに飛び込んできた事に、晃(アキラ)は後悔しているのだろう。


 晃(アキラ)の足首に、何かが巻き付き引っ張り上げた。

 その姿はまるで、格上の猫にもてあそばれ尻尾をつかまれたネズミの様だ。


 「派手なスーツ。マジで、お兄さんキモいね。」


 逆さまに吊り上げられた晃(アキラ)の前に、霞(カスミ)のさげすむ顔が現れた。

 ずいぶん高く吊り上げられはずだが、眼の前にいる霞(カスミ)に違和感を感じた晃(アキラ)は、霞(カスミ)の体を見て言い換えした。


 「お前のほうが、キモいじゃないか。」


 E'bになった霞(カスミ)の下半身は、禍々しくうねる大蛇だったのだ。


 「うるさい。黙れ!」


 晃(アキラ)の一言がかんに障ったのか、霞(カスミ)が長い尻尾を振り回し、晃(アキラ)を地面に叩きつけた。


 『ドンッ』


 「グハッ!」


 そして、晃(アキラ)の体を長い尻尾が巻き付いていき、ゆっくり締め上げていく。


 「ぐあぁぁぁ〜。」


 「フフッ。弱いくせに…、調子に乗らないでよ…。」


 E'bになった晃(アキラ)の体は、きっと硬いだろう、それでも霞(カスミ)の尻尾はミシミシと締め付け続ける。


 「うぐぐぐ…。」


 悶え苦しむ晃(アキラ)の耳元で、霞(カスミ)がそっとささやく。


 「このまま…、ゆっく〜り…、全身の骨を、ボロボロにしてあげる…。」


 『ブロロォ〜ン。ポォーン』


 静かだった河川敷に、突然バイクの音がこだましてきた。

 霧が濃くハッキリとは分からないが、ヘッドライトの明かりと排気音から1台ではない様だ。

 1台の排気音は、馴染みのあるKAWASAKI Ninja、レム。


 『٩(๑òωó๑)۶フンッ:助太刀〜!』


 もう1台の甲高い排気音が消えた…。

 急に騒がしくなり、あきらかに動揺している霞(カスミ)。

 彼女の能力の強みは、霧に隠れる事につきるからだ。

 そして今、目印の様に輝くE'bの晃(アキラ)を捕まえている霞(カスミ)は、気配の消えた2台目のバイクの持ち主から的のように見えていることだろう。


 『バチッ、バチッ、バチッ』


 晃(アキラ)をめがけ、電光石火の勢いで火花が近づいてくる。

 霞(カスミ)が気づいた頃には、目の前に拳を突き放つE'bの姿が写った。


 『バシンッ』


 「キャー!」


 霞(カスミ)は、殴られた拍子に晃(アキラ)を開放し、霧の中に姿をくらました。

 倒れている晃(アキラ)に、霞(カスミ)を殴ったE'bが近づいてきた。

 その姿は、トゲトゲしい体に、派手な黄色の配色がギラギラ輝いている。


 「お陰様で俺も、E'bになる事が出来たゼ!」


 「その口調…。雷斗(ライト)…!?」


 『( ̄ー ̄)bグッ!:レムちゃんも忘れないでね〜。この人、チョ〜目立つから直ぐ見つかったゎ〜!』


 霧の中から、霞(カスミ)の声が聞こえてきた。


 「いったいわね〜! 揃いも揃って派手な奴ばかり…。私の霧は、あんた達の能力と相性最悪なのよ!」


 「ヘッ」


 雷斗(ライト)が空を指差し、大きな声で叫んだ。


 「電光石火のマタドールとは、俺の事だゼ!!」

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