エピローグ-③
私は必要な食材を書き込んで、最後に(お願いします)と送る。そして、駅がありそうな方角に向かって歩き出した。後ろは振り返らない。確証はないけれど、その瞬間に博物館は蜃気楼のように消えて無くなってしまう気がしたから。
さっきまでのふうわりとした時間が逃げないよう、マフラーをきつく巻き直した。すると、ポケットの中でスマホが短く鳴る。
(いやいや、そこは「尾根ギアします」でしょ)
タカシの中に「尾根ギアします」が息づいていることに、少々驚いた。私だけしか愛していないと思っていた七文字にも、穴あけパンチの夢の残骸にも、消えゆく運命のノリツケホーセーにも、瓶の中で眠り続ける小豆にも、もしかしたら存在する意義はあるのかもしれない。
路地を左に曲がると、光の渦が飛び込んできた。クリスマスを控え浮かれた街は、夜が更けてもまだ騒がしい。遠くにはいつも利用する駅舎がなんとか見て取れる。
タカシのはにかんだ笑顔を思い浮かべながら、私は少しだけ歩調を速めた。
尾根ギアします 赤ぺこ @akapeco
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