本編

第2話 遭逢

 放課後の職員室。

 訳あって、透華は担任教師から呼び出しをくらっていた。


「柊……、何度言えば分かる。ヘッドフォンを学校に持ってくるんじゃない」

「軽音楽部の生徒は持参していたと思いますが」

「お前は部活に入ってないだろう」

「……帰宅部です」


 ため息を漏らす担任教師から目を逸らし、透華は何気なくデスクを見る。

 中途半端に閉ざされたパソコンと、堆く積もった書類の山。

 華々しい学校の空気とは逆しまに、鬱屈とした空気が漂っていた。


「はぁ……、今回までだからな」

「……はい。ありがとうございます」


 話し始めて、かれこれ三十分。

 とうとう諦めた担任は、ヘッドフォンを透華に差し戻す。


 形として恭しく受け取ると、手早く鞄へ仕舞った。


(やっと帰れる……)


 担任には軽く一礼だけ済ませ、透華は身を反転させる。


 気だるさのある重たい足取りで職員室の出入り口へ向かった。

 か細く端整な指を船底取手にかけ、扉をスライドさせる。


 だが。

 職員室から退室しようとした瞬間――、


「わわわっ! その髪、超キレーですね‼ どこで染めたんです⁈ あっ! 神音のも見てください!」


 ――突如として、背後から声をかけられた。


 職員室奥の、パーティションで仕切られた区画。

 進路相談、あるいは生徒指導の際に用いられる空間から。


 透華は即時、理解した。

 「じゃーん」とシルバーのボブヘアを見せびらかすこの生徒は、今まさに生徒指導真っ最中の子なのだと。


「神音は神音と言います! 先輩の名前はなんですか!」

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