第6話 抵抗

「透華先輩っ♡ 音楽会に出ないと、勝手に作ったスペアキーで許可なく屋上へ入ったこと、学校に報告しちゃうぞっ♡」 

「…………」


 拳を作りたい気持ちを抑え、透華は真剣に頭を働かせる。

 とにかく話題を変えなければ。

 その一心で、当初から感じていた疑問を口に出した。


「……そもそも、なんで音楽会」

「はにゃ?」

「音楽会って、今度学校で開かれる地域協同のやつだよね」

「そうですそうです!」

「だったら、あなた一人で出ればいい。あんなままごと――」

「――やめてください」


 瞬間、空気が変わった。

 あんなにもニコやかだった神音が、私を睨んでいる。

 透華は息を呑み、続く言葉が何一つ出てこなかった。


「その言い方、やめてください。神音はままごとだなんて思ってません」

「それは、ごめん」

「勘違いしないで欲しいんです。はっきりいいますけど、透華先輩は二番手なんですよ」

「……何が?」

「そりゃもちろん歌の上手さですよ。透華先輩は神音の次に歌が上手い人」

「…………」

「神音の夢は人気歌い手になって日本中を私のファンカラーに染め上げることです」

「…………」

「だからこそ、神音の相棒は先輩でなきゃダメなんです! 先輩なら、神音と一緒に歌えるんです! 先輩しかいないんです!」


 大手を広げた力説が終わると、神音の息は上がっていた。

 対して透華は、話を咀嚼するように目を閉じ、深く呼吸する。

 脅されているのは分かっている。神音に熱い気持ちがあるのも分かってる。

 でも。それでも私は――


「残念だけど、私はあなたと歌いたいなんて思わない」

「思ったところで、絶対歌えない」

「悪いけど、他を当たって」


 冷たく言い切り、反論の余地を与えない。

 「そんなー」と頭を抱える神音を尻目に、あっさりこの場を去った。


 追って来る気配がなかったため、教室へと安穏に足を進める。


 神音の夢、人気な歌い手になること。

 ほんっと嫌になる。

 あいつはまるで、昔の私。

 歌い手の世界に希望と夢を持っていたころの私だ。


 歌うこと。それも人前でなんて……。

 もう、出来るはずがない。


 人知れず、透華は奥歯を噛みしめた。

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