第11話 週末

「これがオーディオインターフェイスで、こっちが、コンデンサーマイク。これがリフレクションフィルターで……、って聞いてるの?」

「え? あ、はい! なんでしたっけ……?」

「はぁ……」


 店内の機材に目を奪われる神音に、透華はあからさまな嘆息をしてみせる。

 

 週末、神音は透華に連れられて機材ショップに足を運んでいた。

 公道から階段を下った、地下にある穴場的ショップで、透華のお気に入りの店。

 故に溌剌と感嘆の声を上げる神音と、店内の洗練されたシックな雰囲気とでは相性が最悪だった。

 透華自身もよく利用するため、店長や他の客の視線が透華をナーバスにさせる。

 こんなことなら誘わなければよかった……。


「神音こんなとこ初めてです‼ やっぱり透華先輩も一緒に歌いましょうよ‼」

「それは前に説明したでしょ。あなたの夢は応援するし、手伝ってもいいけど、私は歌わないって。……あと静かにして。じゃないと帰る」

「うぅ、了解です」


 音楽会が終わった日。神音を今日この場に誘った日。

 今まで神音を見くびっていたこと、加えて、少しくらいなら神音の夢に協力してもいいことを、透華は神音に伝えていた。

 しかし須らく、透華が一緒に歌わないという条件付きで。

 ユニットではなくソロ活動になってしまうことに、当初神音はブー垂れたが、透華が一歩も譲らないため、仕方なく了承し、今日に至る。


 悄然と肩を落とす神音を尻目に、透華は店内を散策する。

 ヘッドフォンコーナーで足を止め、新調しようかと品定めしていると――、


「あら、偶然。盗作家さんでも、機材は大切なのねぇ」


 ――透華の全身が粟立ち、目は大きく見開かれた。



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