第11話 週末
「これがオーディオインターフェイスで、こっちが、コンデンサーマイク。これがリフレクションフィルターで……、って聞いてるの?」
「え? あ、はい! ……なんでしたっけ?」
「はぁ……」
店内のガラスケースに展示された機材に目を奪われる神音を見て、透華は隠すことなく嘆息する。
週末、透華は神音を連れ、機材ショップに足を運んでいた。
歩道に面する階段を下った先――、地下にある穴場的ショップ。
透華のお気に入りの店だ。
店内の壁や天井は黒一色で統一され、壁面には刷られたばかりのチラシから、色褪せて部分的に破れてしまっているチラシまで所狭しと貼られている。
フロアは赤一色になるようセレブなカーペットが敷かれ、白熱電球を備えたシャンデリアは仄かに商品を照らしていた。
だがしかし、活気よく感嘆の声を上げる神音と、店内の洗練されたシックな雰囲気とでは、相性が最悪だった。
店内中の気配が二人を注目し、透華をナーバスにさせる。
こんなことなら、普通のショップにしとくんだった……。
「神音、こんな素敵なお店初めてです! 流石は透華大先輩! やっぱり神音と一緒に歌いましょうよ‼」
「どうしてそうなるの……。前に説明したでしょ。あなたの夢は応援するし、手伝ってもいいけど、私は歌わないって。……あと静かにして。じゃないと帰る」
「うぅ、了解です……」
透華から鋭い眼を向けれた神音は
悄然と気を落とす神音を尻目に、透華は店内を散策する。
ヘッドフォンコーナーで足を止め、首にかけていたヘッドフォンと展示してある品を見比べた。
(そろそろ、新調するのもありか……)
品定めをしていると、客の一人がこちらへ向かってくる気配を感じた。
通路の奥へ行くのだろうと、透華は商品棚に寄ることで道を作る。
だが、その気配は透華の背後を通り過ぎる直前、透華の真後ろで足を止めたのだ。
(ちょうど後ろの棚に、目当てのものがあったのかな……)
振り向くことなく透華はそう結論付け、邪魔にならぬよう真横に動こうとし――、
「あら、偶然。盗作家さんでも、機材は大切なのねぇ」
――だが、透華の足は、背後から発せられた彼女の声によって縛り付けられた。
全身が瞬く間に粟立ち、目は大きく見開かれる。
いるのだ、背後には。
透華が自らの夢を諦めることになった、最たる原因が――。
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