第8話 爆発

「もう、いいかげんにして」

「神音は諦めません」

「それがウザいって言ってんのっ!」

 

 ストレスの限界が来た透華は、到頭、机を蹴り飛ばした。

 透華の爆発に、クラスの空気は一気に凍える。


 神音だけが怯えず、透華と正面切って対峙していた。


 通い始めて三週間。音楽会当日まで一週間を切っている。

 曲も決まってない。練習もしていない。

 そんな中で音楽会に出ても、神音が満足する結果になるわけがない。

 

 未だに通い続けるのは、音楽会に参加しない私への嫌がらせだ。

 ――我慢の限界だった。


「いい加減にしてよ。私をあなたの夢に巻き込まないで」

「いいんですか、そんなこと言って」

「先生に言うなり好きにしていい。私はもう、覚悟を決めたから」

「そう、ですか……」


 肩を落とした神音に鼻を鳴らす。

 鞄を肩にかけ、帰宅するために透華は教室を去ろうとした。


「待ってください」

「なに」


 背後の声に呼び止められ、透華は顔だけを気だるく振り向かせる。

 神妙な面持ちの神音と目が合った。

 そんな二人を、クラスメイト達は静謐に伺う。


「透華先輩。神音は待ってます。当日も、ずっとずーっと!」

「……私が行かなかったら?」

「それは……、神音一人で歌うことになってしまいますが……、それでも神音は歌うと思います。神音の夢のために!」

「…………夢は、叶えるものじゃない。見るだけにした方が、誰も傷つかない」

「へ?」


 神音の疑問には答えず、透華は教室を後にする。

 今日は朝から一日中使えると思うと、気が楽だ。


 透華はその日以降、病欠で学校を休み続けた。

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