第4話 露見
「おはようございまーす! 今週から、生徒会の挨拶週間でーす! みなさん、おはようございまーす!」
多くの生徒が、校門前でたたずむ生徒会役員に軽く会釈する中、「また朝から無駄なことしてる……」と透華は小声で毒づいていた。
朝は静かな方がいい。
ヘッドホンのノイズキャンセリングは、その理想を実現たらしめてくれる。
されど。昨日の今日である上に、生徒会まで揃っていては透華も堂々とヘッドホンをつけたまま校門を突破することは不可能だった。
校門をまたぐ直前、着けていたヘッドフォンを渋々、鞄へ仕舞う。
靴を履き替え、すまし顔で教室へ向かった。
道々、廊下ですれ違う教師から鞄の中身を悟られることはない。
だが。
教室に入って間もなく――、
「あ、おはよ。柊さん」
女子生徒に明るく話しかけられ、透華は内心、ビクリと震えた。
誰……? クラスメイト……?
まぁ、教室で見かけたこともあるような……?
しかし透華は驚きを隠すように、怪訝な顔一つせず、淡々と言葉を返す。
「おはよ。どうしたの」
「柊さんを探してる子が来ててさ」
「……私を?」
「そうそう。朝からずっと全部の教室を回って探してるみたいでさ」
「…………ほんとに私?」
「うーん、多分? でも、この学校でブロンドの人って言ったら、柊さんくらいしか知らないし……あ、ほら。あの銀髪の子」
女子生徒が指した先には、昨日、職員室で遭遇した生徒がいた。
明らかに地毛ではないだろう銀髪に、ボブヘア。
ドア口から顔だけを突っ込み、機敏に頭部を振っている。
校則で禁止された髪色と相まって、二年生のフロアでは見慣れない彼女に、教室中の注目が集めていた。
「それじゃあね、柊さん」
「え……ちょっと」
話しかけてきた女子生徒は透華に微笑むなり、これまた突然、手を振って去っていってしまった。
そして直後――。
「あっ! やっと見つけた!」
目が合った数舜後、神音は嬉々として教室に足を踏み入れた。
満面の笑みを浮かべ、小走りに教室後方まで走ってくる。
その走りを助走として、透華の腹部に頭からダイブした。
「探しましたよ! 先輩!」
「ぐふぇッ――」
一瞬、白目をむいた透華は、腹を抑え、直ちに床へと頽れる。
こんな声、生まれて一度も出したことがない……。
されども当の神音は、探し求めていた人物が膝をついている惨状に気づくまで、幾ばくかの時間を要した。
「――ってあれ⁈ えええ‼ 大丈夫ですか⁈」
「……そう、見える?」
「見えまーせんっ」
「てへぺろりんっ!」と拳で頭を小突く姿を見せられ、透華のストレスゲージが急速に溜まっていく。
大きく息を吐き出し、眉を寄せ、鋭い眼光で神音を見上げた。
「……昨日の子だよね。私に何の用」
「昨日の子じゃないです。神音です!」
「……神音さんが、私に何の用」
「おお! よくぞ聞いてくれました!」
「えっへんっ」と。
平々坦々とした胸を張る姿も、透華のイライラを促進させる。
だが次の瞬間、神音が口にした一言で、透華は色を失った。
「今度の音楽会、一緒に出て下さい! 『屋上の歌姫』さん‼」
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