第4話 露見

 校門をくぐる前に、ヘッドフォンを鞄へ仕舞う。

 昨日の今日ではあったが、透華は懲りずに持ってきていた。


 靴を履き替え、すまし顔で教室へ向かう。

 すれ違う教師から話しかけられることはない。

 しかし、教室に入った途端だった。


「あ、おはよ。柊さん」


 明るく話しかけてきたこの女子を透華は知らない。

 誰だろう。クラスメイト……?

 怪訝な顔一つせず、透華は淡々と返した。


「おはよ。どうしたの」

「柊さんを探してる子が来ててさ」

「私を?」

「そう。朝からずっと全部の教室を回って探してるみたいなんだよ」

「……ほんとに私を?」

「うーん、多分? でも、この学校でブロンドの人って言ったら、柊さんくらいしか知らないし……あ、ほら。あの銀髪の子」


 女子の差した先には、昨日の生徒がいた。

 明らかに地毛ではないだろう銀髪に、ボブヘア。

 ドア口から顔だけを突っ込み、機敏に頭を振っている。

 その見慣れない顔は、校則で禁止された髪色と相まって、非常に目立っていた。

 

 女子が「それじゃあね」と透華に告げて去っていく。

 直後――。


「あっ! やっと見つけた!」


 目が合い、神音は嬉々として教室に足を踏み入れた。

 満面の笑みを浮かべて、透華の腹部に頭からダイブする。


「探しましたよ先輩!」

「ぐふぇッ」


 一瞬、白目をむいた透華は、直ちに床へと頽れる。

 みぞおちにクリーンヒットだ。

 こんな声、生まれて初めて出した気がする。

 当の神音は、探し求めていた人物が膝をついていると気付くまで時間を要した。


「ってあれ⁈ えええ! 大丈夫ですか⁈」

「……そう、見える?」

「見えまー、せんっ」


 「てへぺろりんっ!」と頭を拳で小突く姿を見せられて、透華のストレスゲージが急速に溜まっていく。

 ゲージの上昇を阻止するため、大きく息を吐いた。 


「昨日の子だよね。私に何の用」

「昨日の子じゃないです。神音です!」

「……神音さんが、私に何の用」

「よくぞ聞いてくれました!」


 「えっへんっ」と平らな胸元を張る姿も透華をイライラさせる。

 だが次の瞬間、神音が口にした一言は透華の色を失わせた。


「今度の音楽会、一緒に出て下さい! 屋上の歌姫さん!」

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