第28話 ニアノーと町歩き

 

翌朝。

良い朝だ。太陽がサンサンと輝いている。

シロとクロにまた出かけることを話していると、ニアノーが言った。


「シロとクロは置いて行くの?」


確かに。

瘴気の世界では瘴気が危ないのもあって2匹は連れて行くことはできなかった。

俺たちがいないと2匹はまたこのだだっ広い箱庭の中で2匹きり。


「2匹共……一緒に来るか?こことは違って危険な世界だ、無理をすることはないけど……」


『良いの!?行きたい!』


『ご主人様にお許し頂けるなら、是非ともお供させて下さい』


「よし、分かった。じゃあ色々と決めることもあるな」


これからは俺とニアノー以外と接する機会もあるだろう。

2匹は賢いから言い聞かせれば分かってくれる。

他の人間や生物にこちらから先に襲いかからないこと、明らかな敵対生物や俺やニアノーが攻撃されている場合はその限りではない。

基本的に物は壊さないこと、壊して良い場合は都度念話で教える。

その他人間の決まり頃や常識を説明した。

2匹はとても丈夫に作ったので、ちょっとやそっとでは怪我すらしないはずだ。


準備を終わらせた俺たちは[世界移動]を行使しようとしたのだが、移動先が1つ増えていることに気付いた。

そこにはこう書かれていた、『地球』、と。


どくん、と心臓が大きく跳ねる。

俺が死んだのは事故であり、当然未練やあれそれもある。

地球に戻れる?いや、違う。

女神が用意した、俺たちが行ける世界はオリジナルの世界をコピーした世界。

当然、ここに書かれている『地球』もコピーされた世界だ。

恐らく他の世界に1度行ったことで項目が増えたのだろう。


「リオ?……大丈夫?」


ウインドウを見て固まった俺を心配してくれるニアノー。

確かに、地球には未練がある。

しかし以前の俺はもう死んだのだ、そして今はニアノーが側にいてくれる。

気持ちを切り替えろよ、リオ。ニアノーに心配させられないだろう。


「大丈夫だ。行くぞ」


ニアノーの手を取り、[世界移動]を行使する。

視界が一瞬ブレて、俺たちは1度見たことのある場所にいた。

ここは……ここはアリスが箱庭に戻った地点だ。町の近くの林の中。


「もう、ここは別の世界?」


「そう、瘴気の存在しない世界だ」


念のため防護マスクをつけていたニアノーは恐る恐るマスクを外した。

2匹は興味深そうにスンスンと周囲の匂いを嗅いでいる。


「瘴気は無いが、魔物はいる。警戒は怠るなよ」


「分かった」


俺たちは林から出て、近くの町へ向かった。


「待って、俺耳も尻尾も隠してない」


ニアノーが慌てて言うので、そういえばと思った。

瘴気の世界では獣人は数が少なく、リーフ拠点近くにある王都では獣人の立ち入りは固く禁止されている。

何度か頭から足先まですっぽりローブで隠して裏口から入ったことはあるとは聞いていたが、ここも同じだと思ったんだろう。


「大丈夫だ。俺も以前この町に来たが、獣人たちは他の人間たちと変わらず普通に生活していた」


「……本当?」


「ああ。それに何か難癖つけられたらすぐに箱庭に戻れば危害は加えられない」


「……ん、わかった」


そうは言われても不安なのだろう、ニアノーは俺の服の裾をそっと握って少し俯き気味で歩いた。

門につくと、アリスの時と同じように止められる。

この世界では冒険者ギルドや商人ギルドなどのギルド証があればギルドが身分を保証しているとされ通行税は無料になるらしいが、俺たちはギルド証は持っていない。

なのでお金を支払う必要があるのだが、最初に俺たちが選んだ5つの世界では同じ共通通貨が使用されている。

なので俺は毎日スマホのフリマ機能で小銭を稼ぎ、それを使用するようにしている。


もちろん、[万能創造]でお金を創ろうとも考えた。

しかし無尽蔵に現金を生み出し放出してしまうと、お金の価値が下がりデフレだかインフレだか知らんが、最終的に国家が滅ぶらしいという曖昧な知識はある。

女神からしてみれば俺にこんな能力を付与した時点でそうなることも織り込み済みだろうけど、いくらコピーされた並行世界とはいえこの世界に住んでいる人たちが偽物だとかは思えない。

だからよほどのことが無い限りは、国を滅ぼすとか世界を滅ぼすだとかはしないつもりだ。

よほどのことが無い限りは。


俺とニアノーは何事も無かったが、シロとクロに関しては少し聞かれた。

犬系統の魔物もこの世界にいるようで、魔物ではないのか、従魔ではないのかなどと聞かれてちゃんと言う事を聞くかどうか見せろと言われたので簡単な芸をして見せた。

それから2匹が何か悪さや人に危害を加えると2匹は処分され俺も罪に問われると説明を受けた。

まあ、この大きさの犬が2匹がかりで襲いかかったら普通の人間なんてひとたまりもないだろうからな。


こうしてまあ、無事に町に入ることができた俺たちはまずニアノーに町を見せて回った。

俺もアリスの時にちょろっと辺りを散策しただけなのでそう案内できる場所も無いのだが、ニアノーは瘴気の世界の王都との違いに驚き興味津々で辺りを見回していた。

シロとクロも初めて見る町並み、初めて見る身内以外の人々に興奮している様子だったが、俺たちから離れずしっかりついて来ていた。

シロはあっちこっちに興味が移ってそわそわしていて、クロは俺たちに危害を加える存在がいないか辺りを警戒している様子だったな。


昼飯にはまだまだ早いが、広場で1本だけ串焼きを買って腰を落ち着ける。


「すごいね。獣人たちがいっぱいいるし、みんな何に怯えることもなく元気に暮らしてる。それに、あっちを見てもこっちを見ても食べ物が売られてる。こっちは、食べ物が豊富なんだね」


ニアノーの話では、王都はもっと静かなんだとか。

こちらでは大通りでは屋台や店がずらっと並んでいて常に呼び込みや声掛けが絶えず聞こえている。

しかし、瘴気の世界の王都では基本的に呼び込みなんかはしないんだとか。

みんな俯きながらさっさと歩き、人にぶつからないように大袈裟に距離を空けて歩くらしい。


というのも、あっちでは教会関係者や王族貴族が好き勝手している。

そういった権力者には法律なんて全く関係無く横暴が許されている。

『呼び込みの声が煩いから鞭打ち100回』、『肩をぶつけられたから両腕を切り落とす』、『醜い顔で不快にさせたから財産全て没収』、等は当然のこととして行われているそうだ。

だから人々は権力者様の目に触れないよう、ご不快な思いをさせないよう、縮こまって俯き顔を隠しこそこそと足早に目的地まで歩くものなんだとか。

王都に行ってみたいと思ってはいたけれど、今となっては行かなくて良かったと思った。


さて、一息ついたところで今後についての相談だ。

ここに拠点を築くとしても、現金は創造しないと決めた以上まずはお金を稼がないと話にならない。

町を見て回ったところ、この町には色々なギルドがあった。

それらに所属して仕事を斡旋してもらえるらしい。


俺たちが今できる金稼ぎと言えば、

・冒険者ギルドに所属して依頼をこなす。

・創造した物を売る。

ぐらいだろうか。


自由に行動したいなら定職には就きたくないし、そもそも出身地すら言えない身分の怪しい奴らは雇ってもらえないだろう。

手っ取り早く稼ぐなら『創造した物を売る』だが、ニアノーには俺の手持ちの品々は転生時に店の商品を持って来たと話している。つまり、有限だと思われているということだ。

何でもかんでも創造しまくって荒稼ぎというわけにはいかない。

この世界で高額な物をリサーチして1つでドカンと稼ぐ手はあるが、そう何度も実行できる手ではない。


もちろん、【特殊技能】をフルに使えばいくらでも金稼ぎの方法はある。

しかし、俺はまだニアノーに俺の能力の全ては話していない。

彼が俺について知っているのは『箱庭に転移できる』、『転生前に持っていた店の商品を持っている』、『詳しくは知らないが魔法を使える』、『神聖力を使える』、ぐらいではないだろうか。

正確にはニアノーの前で使った回復魔法は神聖力ではなく魔力を用いたものなのだが、あの世界では回復魔法と言えば神聖力らしいので神聖力が使えると思われているだけではある。


俺はまだニアノーに俺の能力の全てを晒す気は無い。

今後どうなるかは分からないが、まだニアノーと出会ってから日が浅い。

今日で転生してから15日ぐらいか?

まあ、こんなとんでもないチート持ちなんだったら例え家族だろうと話せないけどな。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る