第3話 飲み水問題と廃村への侵入
俺は少し考えて、スキルを自分に付与した。
そのタイミングで『最後は君の番だよ』と、最後尾にいた俺へ話が回って来た。
俺は考えていた。
あまりに役に立たなさすぎると蔑まれたり虐げられる可能性がある。
かといって敵を楽に倒せるようなスキルだと前線へ駆り出される。
俺の3人ほど前に、【風属性魔法】という風属性の魔法を扱えるようになるスキルを持っている人がいた。
それに則ってみることにした。
「俺は【水属性魔法】というスキルだった」
「えっ、それって水が出せるってこと?」
俺の前を歩いていた女性が振り向いた。
やはり風と違って水は食いついてきたな。
「まだ試してないけど、多分そうだと思う」
「それって飲んでも大丈夫な水なの?だとしたら飲み水問題解決なんだけど……」
「試してみるか」
スキル【水属性魔法】。
水属性の魔法が扱えるようになるスキル。
なのだが、俺は元々【特殊技能】の中の[創造魔法]の技能を持っているから【水属性魔法】スキルがあったとしても何も変わらない。
本当に名前だけのスキルだ。
[創造魔法]を行使して水の玉を宙に浮かべる。
そこに手を突っ込んで掬い、ひとくち飲んでみた。
うん……冷たくて美味しいお水だ。
感覚的には、これの温度や性質も変えられるみたいだけどこれで充分だろう。
「今飲んでみたけど、普通に美味しい水だ」
「ほんとに?やった!飲み水問題解決!」
「シャワーとかも浴びれるよね?」
「トイレも水洗にできるねー。あっ、お洗濯も!」
と、転生者の女性陣は喜んでいるが……まさか10数人分の生活用水プラス飲み水を俺1人だけに負担させるつもりか?
俺は[無限魔力]があるから別に魔力的なものを失うわけではないが、普通なら自分の魔力を消費するんだろう?
その辺何も考えてなさそうだな、自分たちが快適に過ごすことだけを考えてる。
だが確かに、飲み水は直近の1番の問題だった。
全員水袋は初期で持っているものの、中身は飲んでしまえばそれっきり。
革袋が魔道具になっていて飲んだ分だけ補充されるなんてことは無く、消費すれば消費したままになる。
森の中を歩き回っている現在、水の補給場所は無い。
俺たちは不老不死らしいが、喉の渇きは普通に感じる。
つまり脱水症状まではいく可能性があった。
だから水の発見も目的だったが、俺が水を出せるということで彼女たちは安心したようだった。
これで俺の魔力が少なくて少ししか出せないとか言ったら文句言われるんだろうな、自分の力でもないのに……。
それからしばらく森の中を歩いた。
ゴブリンと何度か出会ったが、戦闘系スキル持ちとそれじゃなくてもみんな剣を持っているので交代で対峙してなんとか追い払っていく。
そう、俺たちは1度もゴブリンを倒すことはできていない。
あくまで『追い払う』だけだった。
というのも、奴らは不利を悟ると一目散に逃げだすんだ。
それに俺たちの方にも致命傷を与えられるだけの戦闘力が無いというのも大きい。
剣があるからゴブリンを殺すぐらいはできそうなのだが、みんなとどめを刺すことを躊躇しているように見えた。
これが人型の魔物じゃなかったらまた違ったんだろうけど。
まあ、俺も『最初に人型の魔物を殺した人間』として見世物扱いで転生者たちに見られるのが嫌だからとどめは刺していない。
この辺がめんどくさいところだよな。
そうして休憩を挟みながら歩き続けて陽が傾いてきた頃。
俺たちは村と思わしき場所に辿り着いた。
村を囲むように背の高い木の柵が張り巡らされている。
柵は細かくびっしりと何重にも打ち付けられており、隙間から中を窺ってみたところ中に人影は無かった。
それどころか建物は壊れ地面は抉れ、畑と思われる場所は草が生え荒れ果てている。
「これは村っていうより廃村だね……」
金髪イケメンが中の様子を伺いながら呟く。
ぐるっと柵沿いに歩いてみたが、どこも厳重に板が張られていて中に入れる場所は無さそうだ。
「もう壊して中に入っちゃいません?陽も暮れて来ましたし、森の中で野宿するよりは廃村でもこの中でキャンプした方がマシでしょ」
そう言いだしたのはピンクの髪の女の子だ。
俺たちは転生するにあたり容姿が変わっていて、彼女のように目立った髪色の人も多い。
「しかし柵があるということは中で籠城している人たちがいるのでは?」
「こんなボロボロの村に?もう誰もいませんよ。こっちだって非常事態なんだし、誰かいたとしても許してくれますって」
反対意見も出たものの、最終的には『野宿するよりよほど良い。誰かに怒られたら後でちゃんと謝ろう』ということで……柵を壊して中に入る案が採用された。
マジかよ、と思いはしたものの、俺も止めずに静観したので同罪だろう。
こんな厳重な柵があるということは、柵を設けなければならないほどの脅威がこの村の外にあるということだ。
もし村に生存者がいて、その脅威を村に引き込む手助けを俺たちがしたとすれば……不味いよな、やっぱり。
衝撃波を手の平から出すスキルを持っている人が中心となって、柵に集中攻撃。
その結果、大きな穴が空いて俺たちはぞろぞろと中に入って行った。
せめて穴が外から見えないように木の枝や葉っぱでカモフラージュしようとも思ったが、穴が思っていたよりも大きくて俺一人でさっとやるには無理そうだ。
誰も手伝う素振りも無く中に入って行ったし誰も振り向きすらしない。
まあ、その方が都合が良いか。
俺は[創造魔法]を行使して土を操作する魔法を創り、周囲から土をかき集めて穴を塞ぐように固めた。
うん、誰にも見られてないな。
それから俺たちは手分けして村の中を探索した。
建物は壊れているように見えていたが、よく見れば木の板で雑に補修されていたりかまどで煮炊きした形跡があった。
人の影は無いものの、つい最近人が生活していたような形跡がある。
ご挨拶しようにも柵を壊したことを謝罪しようにも誰もいないので、俺たちはこの村に滞在することになった。
広場で焚き火を囲んで話し合いが行われる。
と言っても実際に話をするのは積極的に言葉を発する人だけであり、半数は口を閉ざして話を聞いているだけだ。
そして俺はと言えば全員分の水袋への水の補給を頼まれていた。
申し訳無さそうな顔をしたりありがとうと感謝をしてくれる人は良いが、中には当然という顔をして一言だって礼を述べない奴もいた。
金髪イケメンが言うには『適材適所。できる人がやるのは当然』という話らしいが。
各々干し肉をかじって腹を満たす。
日本の食事に慣れた舌は臭くて硬くて塩辛くて不味い干し肉で満足できるわけがなく、みんな不満たらたらで水で腹を膨らませていた。
陽が落ちてからはやることもなく、早々に寝ようと近くの家へ向かう人たち。
金髪イケメンが慌てて、『見張りを立てよう』と提案したものの、既に何人かはそれを無視して家の中に入ってしまった。
残っている人たちで順番に見張りをしようという話もあったが、ピンク髪が『こんな立派な柵で囲まれてるのに見張りなんていります?』と言ったため全員別々に他人の家を勝手に拝借して寝ることになった。
俺はと言えば知らない人の家で眠る気分になれず、焚き火を絶やさないよう木の枝をくべながら広場で1人で考え込んでいた。
同じ世界、同じ場所に転生したから転生仲間ということもあって集団で行動していたものの、俺は別に彼らと一緒でなくてはならない理由は無い。
むしろ俺のスキルの特異性を考えれば1人でいる方が楽だよな。
その方が色々チートを駆使できるし。
今日一緒に行動していたのは知らない世界で1人だと不安だとどこかで思っていたからかもしれない。
でも、今日一緒に行動してみて彼らの人となりは多少分かった。
目立ってるのは数人、後は自分の意見も出さず周りに合わせてついて行くだけ。
まあ俺も何も言わないからその中の1人だろうけど。
その目立っている数人で意見を交わし、決定を全員に伝えて引っ張って行く。
リーダーシップがあると言えば聞こえは言いが、自分の意見を押し付けるという意味では下にはつきたくないタイプだ。
このまま一緒に行動しても水源扱いされるだけだろう、下手したら戦闘では役に立たないのだからと言って肉壁として使われ出すかもしれない。
うん、彼らから離れるか。
しかし大事な飲み水の供給源が失われるのを許容するはずが無い。
だから話し合わずに、ひっそりと抜ける。
そうと決まれば決行……の前に、今はまだみんな寝ていないかもしれないのでもう少し夜が更けてからにしよう。
見つかると厄介だからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます