第4話 接敵、尋問

 

転生者スマホで時間は確認できるので、脱け出すのは深夜にすることにした。

ぼーっと焚き火を見つめていると、だんだんお腹が空いてくる。

干し肉をかじっただけだからな……何か食べるか。

匂いの強い物はバレるかもしれないから……手軽にサッと食べられて美味しい物……何にしよう?


[万能創造]を行使して地球に存在する物のリストを確認できる『カタログ』を眺める。

特定のコンビニ限定商品や牛丼チェーン店のメニューにファミレスのメニュー……本当に何でもあるな。

ここは無難に携帯食料とかにしておくか。

有名なバランス栄養食と言えばこれだ、カロリーフレンド。

基本は5種類の味があって、俺はこれのメープル味が好きだ。

創造すると、[亜空間収納]の中にしまわれるのでそれを出して食べる。


うん、美味い。

仄かな甘みを堪能していると、微かに後ろから音がした。

咄嗟に振り替える、と。

目の前に剣の切っ先が突き付けられた。

……しまったな、不用心だった。


「動くな」


少し高めの男の声。

暗闇の中、焚き火の明かりに照らされたそいつは全身を革の防具で覆っていた。

顔は防護マスクのような物で覆われており、顔は分からない。

身長は少し低めだ、大人じゃないのかもしれない。

同じ転生者……じゃ、ないよな。どう見ても。

一応村中を探して人がいないと結論付けたものの、人が生活しているような跡があったことは気になっていた。

どこかに潜んでいたのだろうか。


「乱暴はよしてくれ、抵抗する意思は無い」


動くなとは言われたものの、喋るなとは言われていない。

【共通語理解】のおかげで相手の言葉が理解できたのは幸いだった。


「勝手に侵入して好き勝手してるくせによく言う」


ダメだな、完全に敵対されてる。

そりゃあそうだよな、ここがこいつの拠点だとしたら悪いのは俺たちの方だ。

しかし言葉はちゃんと通じているようだ、それが分かっただけでも良しとしよう。

ここから逃げ出すのは簡単だ、[転移]を使えば良い。

が、いつでも逃げ出せるからこそ余裕はある。

せっかくこの世界の住民に初めて会ったんだから、できるだけ交流したい。


「悪かったよ、誰もいないと思ってたんだ」


「ここが僕らの縄張りということはこの辺では有名なはず。何故知らない?」


「遠い場所から来たんだ。ここのことは全く知らなかった」


「…………」


剣は眼前に突きつけられたままだ。

あと少し動かされたら刺さってしまう。

不老不死で死なないとはいえ、痛いのは嫌だな。

もう逃げてしまうか?


「それ、食べ物?」


いざ[転移]で逃げようと思ったところ、彼は俺の持っていたカロリーフレンドを指差した。


「え?ああ。食べるか?」


1本しか食べてないからまだ3本残ってる。

そーっと差し出すと、剣を持ってない方の手で受け取った。

ブロックタイプのそれをじっと見て、防護マスクの口元をパカッと開けて口に運ぶ。

もぐもぐと咀嚼して……一瞬動きが止まった。


「おいしい」


ぱくぱくと残り全て食べ終えた頃には、剣は下げられていた。


「美味しい物くれたから、乱暴はしない。でも形だけ拘束する必要があるから、動かないでね」


「分かった」


腰に下げていた縄で体を縛られるも、そんなに強く縛られなかった。

ちょっと暴れれば抜け出せそうだ。

そうこうしている間に、彼と同じ格好をしている人たちが転生者たちをぐるぐる巻きに拘束して連れて来た。

抵抗して制圧されたのか、中には顔に殴られた跡がある人もいる。


相手は革の防具で全身を包み、防護マスクで頭を覆っている。

同じ格好をした人たちが10人はいた。

全員武器を構え、集められた俺たちを囲うように立っている。


「さて、君たちのリーダーは誰だ?」


相手の中でも立場が強いであろう男が問い正してくる。

みんなの視線が金髪イケメンに向いた。


「そこの黒髪の彼だよ」


しかし、金髪イケメンは自分だとは言わなかった。

黒髪っていうと……辺りを見回す。

容姿が異世界寄りになっているため、みんな髪色はカラフルだ。

その中に黒髪はいない。……ところで、視界に映る俺の髪は黒だ。


「おい、いつそんな話になったんだ?リーダーはお前だと思ってたんだが」


「勝手なこと言わないでほしいね、自分が責任を負いたくないからって土壇場でそんな虚言を吐くなんて」


やれやれ、と肩をすくめる金髪イケメン。

こいつ……俺に責任をなすりつけやがった。


「仲間割れは後にしてもらおう。君たちの仲間はこれで全員か?」


俺は集まって転がされている面々を見渡す。

1人足りないな。


「ピンク髪の女がいないな」


「ちょっと待って、そんな子いなかったわよ」


「そうだよね、妄言にも程がある」


「こんな状況で嘘つけるなんてどんな神経してるの?」


俺は正直に言ったのだが、女性陣が慌ててピンク髪を擁護しだした。

一言も言葉を交わしていない俺よりも仲良くしていたピンク髪を庇う気持ちは分かるが、ここで嘘と吐いて後で立場が悪くなるのは自分の方だとは思わないのだろうか?


男がさっと手を上げると、後ろから縛られたピンク髪の子が突き飛ばされてこちらへ倒れ込んだ。

猿ぐつわを噛まされていて声も出せないようだ。


「どうやら黒髪の彼は信用できるみたいだ、聞き取りは彼に行う。他は全員牢屋へ」


「分かった」


なるほど、俺が本当のことを言うかどうか試したのか。

俺以外は乱暴に連れて行かれ、俺は5人ほどに囲まれて色々と質問をされた。

以下は質問の内容とその返答。


「他に隠れている仲間はいないか?」


「いない。少なくとも一緒に行動していたのはこれで全員だ」


「どこの所属だ?」


「所属とかは無い。俺たちはどこにも所属せず行動していた」


「どこから来た?」


「あっちの方角から」


「何が目的でここに来た?」


「森の中を彷徨っていて偶然ここに辿り着いた。少なくとも俺はお前たちに危害を加えるつもりは無い。他の奴らがどう思ってるかは知らない」


「あいつらは仲間ではないのか?」


「今日の朝初めて会って成り行きで一緒に行動していただけの赤の他人。実際にみんなをまとめていたのは金髪の奴で、俺は責任をなすりつけるために差し出された」


「お前たちのスキルや使える魔法、その他特筆すべきことがあれば詳細に述べよ」


「ほとんどの奴らは明かしていないから分からない。知っている範囲で脅威だと思うのは【風属性魔法】が使える茶髪の女と【衝撃波】が使える筋肉がでかい男」


「お前のスキルは?」


「【水属性魔法】」


「敵になるつもりはあるか?」


「無い。俺個人としてはできれば友好的な関係になりたいと思ってるが、他の奴らがどう考えているか分からないから油断しない方が良い」


その他細々とした質疑応答を繰り返し、ある程度信用してもらえたのか俺の縄は解かれて見張りつきではあるがその場で眠ることを許された。

その際小型結界魔道具は取り上げられて焦ったが、彼らが使っている防護マスクを貸してもらえた。

これで瘴気を遮断できるらしい。


しかし広場の硬い地面の上に薄い毛布を敷いただけ、しかも近くには武器を持った奴がじっとこちらを監視しているとなればぐっすり眠れるはずも無く。

朝陽が昇ると同刻ぐらいに、起こされて目隠しをされた上で連行された。


何も見えない中どこか建物の中に連れて行かれ、階段を降りていく。

少し歩いた後、目隠しを取ってもらえた。

そこはとても広い空間だった。

薄暗い室内、乾いた土の地面と壁や天井。

あちこちに光の玉が浮いていて、あれが光源になっているようだ。


革の防具に身を包んだ人たちがたくさんいて、そこではみんな防護マスクをしていなかった。

いつの間にか俺を連行した人もマスクをつけていなかったから、ここでは瘴気は平気なんだろうか。


その広い空間を突っ切って奥へ進む。

細い通路に入り、いくつか扉を無視して更に奥へ進んで1つの扉の前で足を止めた。


「例の男を連れて来た」


「そうか、入れ」


中から女の声がした。

扉を開いて中へ連れて行かれる。

そこには予想通り、女が立っていた。


 



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