第29話 冒険者ギルドへの登録

 

ともかく、今は無難な金稼ぎの方法について模索する段階だ。

俺たちはひとまず冒険者ギルドへ向かった。


ギルドの場所はすぐに分かった。

剣と盾の形の看板が主張するでっかい建物だ。

開け放たれた扉から中に入ると、体育会系の部活の部室を彷彿とさせる臭いがした。

俺は学生時代は帰宅部だったが、友達が剣道部だったのでたまに部室にお邪魔していた記憶がある。


中には武器を持った人たちがいた。

併設されている酒場で何か飲みながら話し合っている人たちもいれば、掲示板に貼られている依頼を吟味している人たちもいる。

全てが冒険者っぽいわけではなく依頼人であろう人の姿も見えた。

なのでここでは初顔の俺たちに注目する人はおらず、誰に絡まれることもなく受付に直行できた。


「こんにちはー、こちら冒険者ギルド受付カウンターです。ご用件は?」


受付にいたのは暗い茶色の髪の女性だ。

髪の色が暗めなのであまり目立たないように見えるが、顔は可愛らしく愛嬌がある。

よく見れば受付に座っているのは皆女性で、それぞれの魅力があった。


「登録しようと思ってるんですけど、お話伺っても?」


「分かりました。それではこちらを見ながら説明しますね」


カウンターの下から取り出されたのは数枚の紙を束ねた冊子だ。

紙は真っ白な俺がよく知っているような物ではなく、ごわごわで茶色くて端っこが破れていたりする。

瘴気の世界もそうだったが、紙を作る技術はあまり発達していなさそうだな。


冒険者とは、持ち寄られた依頼をこなしてお金を稼ぐ所謂何でも屋のようなものである。

依頼は町中の依頼であれば草むしりや荷物運びから始まり、町の外に出る依頼ならば素材収集や魔物討伐、護衛依頼なんかが主となる。

依頼中に起こった死傷や損害等は全て自己責任であり、ギルドは一切責任を負わない。


冒険者のランクはSS、S、A、B、C、D、E、F、Gランクがあり、最初はGランクスタート。

上のランクに上がるほど冒険者としての立場が上がり、Sランクともなれば下級貴族と同等程度の権力も持つことになる。

だからこそランクを上げるのは大変で、戦闘能力の高さだけではなく素行の良さや各方面からの信頼度なんかも必要となってくる。


冒険者はその立場を利用して一般人相手に武器を抜いてはならない。

あちらから仕掛けられた場合は例外であるが、こちらから武器を抜いたと認められた場合は罰則を受ける。

また、冒険者同士で諍いが起こった場合はギルドは一切介入しない。

どうしても勝敗をつけたい場合、ギルドの地下にある訓練場を用いて決闘することができる。

決闘したい場合は受付まで届け出ること。


受けられる依頼は自分のランクと1つ上のランクまで。

パーティを組んでいる場合は、パーティリーダーのランクまでは受けられる。


パーティ制度やクラン制度、依頼の受け方、その他細々とした説明を受けた。

用紙に自分の情報を記入するのだが、ここで1つ問題が起こった。


「リオ、俺ここの文字わからない」


「あっ、そうか」


俺は【共通語理解】を持っているから人間が普通に使用している文字は分かるが、リオは別の世界の住人だ、当然使用されている文字だって違うだろう。

なので代わりに俺が代筆することとなった。

と言っても書くことなどあまり無い。

出身地は書けないし、名前と使用武器とポジションぐらいだ。

俺は魔法でドンだし、ニアノーは前線タイプらしい。

せっかくなので2人でパーティを組むことにした。

パーティ名は少し悩んだ結果、ニアノーが狼の獣人なので『狼の爪』となった。


せっかくなので何か依頼を受けてみようと思い、掲示板に移動して依頼を見てみる。

しかしGランクが受けられる依頼で張られているのは町中の依頼ばかりだ。

Fランクになれば町の外に出る依頼もあるが、常設依頼のゴブリンの討伐依頼かビッグラット、ウルフとやらの納品依頼だけだな。


「こっちでもゴブリンの強さが一緒かわからないし、肩慣らしにゴブリン討伐やる?」


「それもそうだな」


ゴブリンの依頼は受注は必要無く、討伐証明を持ってくるだけで自動的に受注、達成されるらしい。

ゴブリンは繁殖力が強くうようよいるので積極的に狩ることを推奨されている。


外に出て辺りを見回す。

パッと見た感じ草原にはゴブリンの姿は見当たらない……ように見えたが、よく見れば木が密集している場所や岩の影にチラホラゴブリンの姿が見えた。

大きなウサギやスライムらしき魔物はその辺でちょろちょろしているので、少し狩ってみるのも良いかもしれない。


『ご主人!僕らも狩りして良い!?』


「ん?良いけど……怪我すんなよ?」


2匹は普通の犬より丈夫で強くしているが、魔物ではなく犬なので魔物に通用するかどうか。

俺が許可を出すと2匹はパッと散って行った。


「リオってもしかして、シロとクロと話せるの?」


「ああ、そうだな。話せるっていうか、念話だけど」


「そっか、いいなぁ」


そういえば特殊技能の能力で俺と2匹は念話で意思疎通できるけど、ニアノーは2匹の言葉は分からないんだったな。

気を取り直して、まずはニアノーの戦闘能力を見せてもらうことにした。


ニアノーは普段は少しぽわぽわしているイメージがあるが、戦闘となると印象がガラリと変わった。

ぐっと踏み込んだかと思えば、瞬時にその場から消える。

気が付けば魔物の背後を捉え、剣の一撃で首を刎ねていた。

獣人は人間よりも身体能力が高く、特にニアノーは瞬発力と気配を消すのが得意なんだとか。

見せてもらって驚いたのだが、鋭い爪をニョキっと伸ばすこともできてそれで攻撃もできるんだと。

ただリーチが短いので基本的には剣を用いるようだが。


俺の戦闘スタイルは瘴気の世界で見せた通りだ。

[創造魔法]と[無限魔力]頼りで視界内の魔物へ追尾魔法ミサイルをドン。

魔法と言えばでかい火の玉をぶつけたり氷の槍を飛ばすのがカッコいいとは思うのだが、効率を考えれば追尾ミサイル一択だ。

ただ、最初は威力の調整が分からなくて丸ごと吹き飛ばしてしまったりして討伐証明が取れなかったりもした。


隠れているゴブリンをサクサク倒していき、ある程度お互いの実力も分かった。

基本的にはニアノーに前線に出てもらい、俺が魔法で援護する形になる。

なんなら別に俺が全部魔法で殲滅できるのだが、ニアノーと協力する以上は彼の活躍の場を奪ってはいけないだろう。


「しかし、隠れてるゴブリンが多いな」


「こいつら結託すると厄介。数は減らしておいて損はない」


向こうでも襲撃を受けたしな。

チラッと目撃したのだが、他の新人冒険者らしき人がゴブリンの奇襲を受けていた。

ベテランっぽい冒険者はそもそも魔物が隠れていそうな場所は通らない。


シロとクロはと言えば、真正面から素早い足で追いかけ回し、的確に相手の首や急所を狙って噛みつき攻撃。

ゴブリンだってシロとクロと同じような身長なので、飛びかかって噛みついて振り回したりしていた。

意外にも血気盛んで驚いたな。


ともかく、こっちの世界でもニアノーの戦闘能力は通用することが分かった。

随分と余裕もあるようだったので、もっと強い魔物も相手にできるだろう。

向こうではゴブリン以外にもウルフ系やトレント系も相手にしてたみたいだしな。


しかし、バカスカ魔法を撃っていたら他の冒険者たちから視線を感じた。

それで思い出したのだが、確かこの世界では純粋な魔法使いというのは数が少ないらしい。

魔法で戦う者はある程度の数はいるが、みんな魔法を放つ機能を持った魔道具を用いているそうだ。

だから杖を持たず素手で魔法を乱射していた俺は純粋な魔法使いだと思われていたわけだな。


何故そんなことを思い出したかと言えば、町に戻る際に呼び止められて勧誘を受けたからだ。

俺とニアノーが組んでいることは分かっているはずなのに、俺の魔法のことを褒めまくって引き抜こうとしてきた。

断ってもしつこかったのでシロとクロに頼んで威嚇してもらえばたじろいで引いて行ったので良かったが、今後もこうだと少し対策しないといけないな。


 








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