第24話 誕生、俺戦隊!
No.1、アリス。王道の剣と魔法の世界へ向かう。
雪のような綺麗な白銀の長い髪に深い青の瞳。
胸は控え目だがスタイルは良く、その顔の造形は控え目に言って美少女。
ジト目なのは趣味だ。
水色のシンプルなワンピースに、金色のラインで装飾された黒いロングコートを羽織らせ、でかい宝石を先端につけた自分の背丈ほどあるロングスタッフを握らせた。
これは俺なのだが、本体の俺と差をつけるために女になったし性癖も盛り込まれた。
後悔はしていない。
イメージしたジョブは魔法使い、設定では16歳。
No.2、シア。空と奈落の世界へ向かう。
空のように澄み渡った水色の髪をサイドツインテールにして、ぱっちりしたエメラルドグリーンの瞳の清楚な美少女。
こちらは胸は大き目、スタイル抜群。
白の控え目なワンピースドレスに手持ちサイズのステッキを持たせた。
イメージしたジョブは精霊使い、設定では15歳。
No.3、ユヅキ。海とダンジョンの世界に向かう。
黒い髪を高い位置でポニーテールにした美少女……ではなく、美青年。
黒い軍服とコートを組み合わせたようなスタイリッシュな服装。
そこにゴツゴツした武骨で機械的なでっかいハンドガンを持たせた。
イメージしたジョブは魔銃ガンナー、設定では18歳。
No.4、ノア。ダンジョンに呑まれて世界中がダンジョン化した世界に向かう。
黒髪黒目のちょっとくたびれた感じの目付きの悪いおじさん。唯一美がつかない。
高身長、シンプルなシャツの上にだぼっっとした黒の前開きローブを引っかけ、2メートル以上はあるでかい木のワンドを持たせる。真っ黒なオニキスを埋め込んである。
イメージしたジョブは召喚士、設定では38歳。
漏れなく全員性癖に従ってキャラクリエイトしたものだ。
どうせ動かすなら自分の好みの方が良いだろう?
名付けて、『俺戦隊』!完璧である。
分身たちは俺と同じ能力があるので、チート能力も健在だ。
並列思考で全員同時に活動できるが、ここは時間もあることだし勿体ぶって1人ずつ活動してみよう。
まずはアリスから。
向かうのは王道の剣と魔法の世界。
[世界移動]を使うと、アリスの視点が切り替わった。
降り立ったのは草原だった。
まず周辺を確認する。
ふむ、何もいないな。
瘴気の世界では歩けばゴブリンとぶつかったが、ここではパッと見た感じ魔物は見当たらない。
それに瘴気が無いから遠くまで見渡せる。
爽やかな風と草が擦れる音、空気も美味しい気がする。
見た感じ平和だな。
そういえば1番難易度が低い世界なんだっけ。
せっかくだから近くの人里まで行ってみるか。
ここで創造するのは『探し物コンパス』。
これは探し物を指定すると方角を指し示してくれる物だ。
もちろん普通のコンパスとしても使える。
「1番近い人間」
と指定すると、ぐるっと針が回ってから北を指した。
そこまで歩く?とんでもない。
この子は魔法使い、つまり杖に乗って空を飛べる。
そういう風にこの杖を創った!
杖を横にして魔力を流すと、ふわりと浮かび上がる。
そこへまたがって……いや、女の子なんだからこの乗り方は無いな。
横座りか?こうか。よし、出発!
数分ほど遊覧飛行を楽しんでいると、街道の方に立ち往生している馬車を見つけた。
それを数人の人が囲んで、何やら困ったように立ち尽くしている。
すいーっと飛んで行くと、防具をつけた男性がハッとして剣を構えてこちらを向いた。
それに釣られて他の人たちも各々武器を構える。
「えっ、女の子?」
魔物だと思っていたのか、拍子抜けしたように呟かれた。
結界スキルもあるので堂々とそのまま飛んで目の前まで向かう。
「こんにちは、何か困り事?」
よく見れば武器を持っているのは4人。
各々防具を身につけ武器を持っている。
あと2人は馬車の側でこちらの様子を窺っていた。
この4人は冒険者的な人たちかな?
彼らは顔を見合わせたが、リーダーらしき茶髪の男性が話してくれた。
「馬車の車軸が折れちゃったんだよ。替えは持ってたんだけど、その替えが劣化してて使えそうにないんだ」
「町は近いし、誰かが走って町まで買いに行こうかって話してたとこ」
茶髪男性に続いて金髪女性が言う。
ちょっとしたトラブルってとこか。
「それじゃあ、私が運んであげようか?」
恩を売っておくのも悪くないだろう。
しかし彼らは冗談だと思ったのか、苦笑いするだけだった。
実行可能なことを証明するために、杖を一振り。
すると、キラキラなもやが馬車を包み、馬ごとふわりと宙に浮かんだ。
この杖には[創造魔法]と同じ機能が組み込んであって、杖を振るうことがトリガーとなってイメージした魔法が発動するようになっている。
あっ、馬がびっくりしてる。【スリープ】の魔法で眠らせておこう。
「ええっ!?」
「何だこりゃ!?」
宙に浮かんだ馬車を見てみんな口を開けていた。
昨日の一件以来、俺は吹っ切れていた。
騒ぎになったから何だと言うんだ、面倒になったら姿を変えて逃げれば良い。
それに今の俺はアリス、魔法使いのアリスだ。
「さあ、乗って!町までひとっ飛びだよ!」
急かすと、彼らは慌てて馬車に乗り込んだ。
馬車は馬に荷台が繋がってある物で、乗るスペースは狭そうだ。
落ちたら痛そうだし、風圧とか凄そうだし結界で覆っておこう。
町の方角を聞き、町まで飛んで行った。
最初はおっかなびっくりだった彼らも、快適なことに気付いたのか俺とおしゃべりを始めた。
「へぇ、アリスちゃんって魔法使いなんだ。他の魔法使いもみんなアリスちゃんみたいに可愛くて素直で可愛かったら良いのになぁ」
「魔法使いたちってみんな高飛車で見下してくるよな、自分たちは選ばれた特別な存在だーってよく言ってる」
「ちょっと、アリスちゃんが気にしちゃうでしょ!」
「あ、ごめん」
彼らはやはり冒険者で、商人の護衛をしていたそうだ。
彼らから聞いた話によると、この世界では魔法使いというのは数が少ないらしい。
その数少ない魔法使いが魔道具技師と協力して様々な魔道具が出回っているが、平民には中々手が出ない値段なんだとか。
『世界粛清』で滅ぶ前の文明の遺跡から時々魔導文明時代の魔道具が発掘されるが、それは物によるがとんでもない値段で取引されるんだと。
町中で魔法を使っても大丈夫かと聞けば、魔法使いはいないわけではないから大丈夫とのこと。
ただし何かを壊したり人を傷付ければ当然犯罪になる。
彼らはやたらと好意的で色々と教えてくれると思っていたが、どうにも実年齢より若く見られているらしい。
俺はこの体は16歳のつもりで作ったのだが、背が低く胸が小さいせいか、ロングコートがオーバーサイズなせいかもっと年下に見られているみたいだ。
で、1人で旅をしている若くて可愛い女の子が無知っぽいから色々教えてあげる、と……初っ端から良い人たちと出会えたみたいだな。
そんなこんなで町に着き、無事通行税を支払い中に入る。
ちなみに通行税は全部銅貨で支払った。
フリマで荒稼ぎしたやつだ。
町並みは……一般的に想像し得る異世界ファンタジーな町並み……と言えば良いだろうか。
王道な世界なだけはある。
冒険者のみんなと別れ、商人の人の店で紅茶を頂いてから町に繰り出した。
あちこちに露店が建てられ、活気がある呼び込みが聞こえる。
瑞々しい果物や野菜、肉の香りを漂わせる串焼き、スープの量り売り?など。
瘴気の世界と比べれば食料事情は随分と良いみたいだ。
誰も飢えていない……ように見えていたのは表通りだけだった。
1本道を逸れると、陰鬱とした空気と悪臭が漂った。
路地で項垂れている薄汚れた人々、獲物を見定めるようにギラギラとした瞳で睨みつけてくる人々、明日への希望が見つからない絶望した表情でうずくまる子供たち。
思わず踵を返して大通りへと戻った。
どうやらここは裏表の激しい世界らしい。
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