第31話 アリス:第1世界:情報収集
どうも、俺戦隊のアリスです。
白銀の長い髪に深い青の瞳のジト目美少女です。
本日は王道世界で金稼ぎのための情報収集を行います。
大通りの店や庶民向けの店のリサーチは昨日のうちに行っている。
それで気付いたのだが、胡椒は少量だけ物凄い高額で売られていたのだが砂糖が一切見当たらなかった。
この世界に存在しないということはないと思うので、恐らく更に高級品……下手をしたら貴族専用か?いや、普通に庶民向けの店に置いていないだけなのかも。
しかし庶民向けの小さな店を巡っているだけでは市場調査にも限界がある。
今回は高額な物をドンと売り付けて一気に金を回収する作戦なので、できれば高額商品の価格調査を行いたいものだ。
一応……何の店かは分からないがいかにも高級っぽい店があったので覗いてみたかったのだが、入り口で身分証の提示を求められ持っていない旨を伝えると虫でも払うように手でシッシッとされて追い払われた。
どうやら客を選ぶタイプの店らしい。
1人で考えているのも限界があるし誰かに相談できないかと考える。
でもこっちの世界に知り合いがいるわけが……あ、いたわ。
アリスで初めてこっちの世界に来た時に会った人たち……あの時は4人の冒険者が商人と見習いを護衛していた。
商人の人にはお茶をご馳走してもらったし、また来て下さいねと社交辞令も頂いている。
それを本気にするとは思われていないだろうし会いに行っても会ってもらえない可能性もあるが、まあ手土産でも用意すれば顔合わせぐらいはさせてもらえるだろう。
手土産は何が良いだろうかと吟味しつつ、記憶を頼りにその店へ向かった。
ディンダ商会。
主にポーション類を取り扱っているらしい。
辺境に偏屈な錬金術師がいて、あの日はその人からポーションを仕入れてきた帰りだと話していた記憶がある。
入り口に見張りらしき人たちがいたが、じっくり見られたぐらいで特に止められなかったのでそのまま中に入った。
店は想像していたずらりと商品が並んでいるようなものではなく、サンプルと書かれた陶器の瓶とその下にそれの説明が書かれている物が並んでいるだけ。
怪我を治すポーション、毒を癒すポーション、一時的に視力を上げるポーション、魔力を回復するポーション……色々あるな。
そして等級によって値段がガラッと変わる。
1番安いのは500スタグしかしないのにここで並んでいる中で1番高価なのは何億スタグもした。
しかも在庫が無く入荷待ちと書かれている。
ふーむ、ポーション業も儲かりそうだな?
何億もするポーションを切羽詰まってそうな金持ちに売りつければサクッと金が稼げそうだ。視野に入れておこう。
っと、そうそう、ディンダさんに会いに来たんだったな。
「すみませーん」
「はい?」
カウンターで書類整理をしていた女性に声をかける。
「ディンダさんにお会いしたいんですけど」
と尋ねると、あからさまに怪訝な顔をして俺のことをじろじろと見る。
どうだ、うちのアリスは可愛いだろう。
「面会のお約束は?」
「してないです」
「面会のお約束を取り付けてから再度お越し下さい」
ああ、まあそうか。
ちょっと顔合わせただけの相手にアポ無し突撃は無礼だよな。
しかも相手は商会長だし、無理も無い。
「じゃあその面会のお約束をしたいです」
「必ず会えるとは限りませんが、お伝えしておきます。お名前とご用件を伺っても?」
「アリスです。ちょっと相談事があって」
俺の名前をメモしようとしていた女性の手がピタリと止まる。
何だ?アリスなんて、珍しい名前でも無いだろうに。
「もしや魔法使いのアリスさんでは?馬車を浮かせて運んで頂いた」
「あ、はい。その魔法使いのアリスです」
「なるほど、商会長のお知り合いの方でしたか」
あれ、ディンダさんはその話を他の人に話してるのか。
別に馬車を浮かせて運んだぐらい……いや、確か魔法使いは希少だったか。
それなら一応縁を繋いでおこうと思う気持ちも分かる。
「それでしたら奥の部屋でお待ち下さい。お茶をお持ちします」
あれ、アポ無しで良いのか?
まあ、良いと言うのなら良いのだろう。
案内された部屋で紅茶を飲みながら寛ぐ。
渋みもあって味も薄いが、香りは中々悪くない。
ただ砂糖が無いのだけが惜しいな。
紅茶1杯を飲み終わる時間も経たずに扉が開く。
しかし、入ってきたのはディンダさんだと思っていたのだが違う人物だった。
「アリスちゃん!」
部屋に入ってきたのはあの日会った護衛の冒険者。
名前は確か……そう、ユリアだったか?
金髪美女でアリスを気に入ったのか色々と話しかけて可愛い可愛いと愛でてくれた人だ。
続いてその時一緒だった他の3人の冒険者もぞろぞろと入ってきて、最後に苦笑いしたディンダさんが入ってきた。
「すみませんアリスさん。偶然この4人と会っていたのですが、アリスさんが来ていると聞いて会いたいと言い出しまして……」
「そうなの。お話しの邪魔をしてしまったみたいでごめんなさい」
「いえいえ、もう帰るところだったので大丈夫ですよ」
最初に会った時に聞いた話では、彼らは依頼人と雇われというだけの関係ではなく元々知り合いだったらしい。
プライベートで会いに来ることもあるだろう。
「アリスちゃん、元気だった?この町にいればまた会えるかなーって思ってたんだけど、中々見つからなかったから無茶してないかなって心配だったの」
ユリアに頭を抱えるように撫でられる。
お姉さんのなでなで……なかなかどうして悪くない。
うむ、くるしゅうない。
おっと、本題に入る前にっと。
「お口に合うか分からないけど、これ手土産です」
収納から手土産を用意して渡す。
フィナンシェとマドレーヌが10個ずつ入ったやつだ。
俺の中で手土産と言えばマドレーヌという方程式がある。
「おお、これはこれは。お気遣いありがとうございます」
ディンダさんはにこにこで受け取ってくれる。
その箱をリーダーの茶髪の男性が覗き込んでいた。
名前は確か……アルトだったかな?
馬車を運んだ時はユリアのイメージが強すぎて他の人たちの記憶があまり無い。
「お口に合うかってことは食べ物だろうし、せっかくだから頂かない?」
「お前も食べたいだけだろうに」
ちょうど従業員の方が紅茶を人数分持ってきてくれたので、その場で包装を剥いて食べることになった。
「ほう、これは焼き菓子ですかな?」
個包装のフィナンシェとマドレーヌが綺麗に箱の中に並んでいる。
あ、しまったな。茶色一色じゃ見栄えが悪かったか?
もっとデコレーションとかこだわったほうが良かったか。
「美味しそう!頂くわね」
ユリアが手を伸ばしたのと同時に他の人たちも箱に手を伸ばす。
俺も1つ頂こう。
「へえ、透明な紙で包んでるんだな。何の素材だ……?」
アルトはマドレーヌを包んでいる包装が気になるようだ。
「あっ、ちょっと待って。こうやって開けるんだよ」
包装をナイフで切ろうとしていたのを止めて、ギザギザのところから破るのを見せた。
そしてそのままぱくり。
うん、専門店の限定品だけあって美味しい。
見た目はシンプルだけど、焦がしバターの深いコクがなんとも言えない。
「なっ、なにこれ!美味しい!」
ユリアは目をキラキラさせて頬に手をやる。
美人が美味しそうに食べてる姿は絵になるな。
「滑らかな舌触りもそうだがこのくどすぎない甘さがクセになるな……こんなの食べたことない」
アルトは何やら思案顔だ。
だけど食べる手は止まっていない。
「甘い物は得意ではないと思っていたがこれなら美味しく食べられる」
あれ、この人の声何気に初めて聞いたな。
馬車の時は警戒されてたのか一言も発してなかった。
青い髪の仏頂面の背の高い男性だ。
「とーっても美味しい。紅茶とよく合いますねぇ」
にこにことリスのように頬を膨らませているのは小柄の女の子だ。
耳が尖っているからエルフなのだろう。
「本当に美味しいですね……失礼ですがこれはどちらのシェフが作られた物で……?」
ディンダさんから探るような目線を向けられる。
「私の故郷の焼き菓子専門店のやつ」
「そういえば、アリスさんは遠い島国の出身だとか」
馬車の時に話したことだな。
どこから来たの?と聞かれたので遠い島国と答えておいた。
嘘じゃないしな。
雑談もそこそこに、本題に入ることにした。
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