第38話 ノア:第5世界:イブレアギルド


おっ、あれがポペン族がいるっていう町か。

上空から見た感じだと、前の一時避難所に比べればしっかりと町って感じで大きな町だ。

中心に大きな建物と塀に囲まれた敷地があり、それを囲むように道や建物が発展していっているように見える。


町の手前で降り、透明化解除。

のんびり歩いて町に向かった。


町の外側はまだ発展途中なのか建てている途中の建物ばかりだった。

辺りにはなんだか治安の悪そうな人たちがたむろしており、子供や老人なんかの姿は見かけない。

塀に近寄ると、しっかり武装した門番がいた。


「止まれ。探索者か?」


最初の説明を思い出す。


ここはダンジョンに呑まれて世界中がダンジョン化した世界。

セーフティーエリア以外の全ての場所で魔物が発生し、あらゆる場所でトラップが発動する。

怪我をする確率が高いが、宝箱も定期的に発生するためトレジャーハンターが人気の職業。

地球のあらゆる常識が通用しない。

追加配布アイテムは宝箱感知レーダー。


あちこち探索する者のことを探索者と呼ぶと前の避難所で聞いた。

トレジャーハンターと探索者の違いは何なんだろうか?


「探索者志望だな。ギルドには所属していない」


「今時フリーとは珍しいな……まあ良い。検査をするから動くなよ」


そう言って門番は短い杖のような物を取り出す。

それを俺の体の隅々までかざした。


「それは?」


「寄生型スライム専用の探知機だ。……連れ込んではいないようだな、通って良いぞ」


寄生型スライム……あのピンクのふわふわか。

スライムと言えばぷるんとしている丸いやつを思い浮かべるが、この世界の寄生型スライムは綿のような菌糸のようなピンクのふわふわしたものだった。

肌にひとかけらでも触れるとたちまち体内に侵食してくるんだったか。


この町に来たのは情報収集が第一だが、その寄生型スライムを駆除できるというポペン族の捜索もついでにやるつもりだ。

イブレアギルドが囲い込んでいるらしいが……どういった状況で要請を何度も無視するようなことになってるのか。

ちょうど良い、今の俺はフリーの探索者希望。

イブレアギルドに興味があるということにして話を聞きに行こう。


塀に入ると、整然とした感じではなく雑多なイメージを受けた。

石材を中心に建物が建てられており、計画性が無くあちこちに建物が建てられている。

背の高い建物の上の方で橋渡しがされて別の建物が建っていたりしているが、あれって崩れたりしないのだろうか。


近くを通った人にイブレアギルドがどこにあるのか聞いてみると、中央の大き目の敷地が全てイブレアギルドのものなんだとか。

そこは元々この町をまとめている町長の家だったが、横暴がすぎて追い出されそれに貢献したイブレアギルドが占拠したそうだ。


案内の通りに町の中央に向かって歩く。

しばらく歩いていると、真っ白な石の塀が見えてきた。

他の建物は様々なくすんだ色の石材なのに、ここだけまるで特別扱いだ。

ぼけーっと見ていると、人がすっ飛んで来た。


「おいお前!ここはイブレアギルド本部だぞ、何用だ!」


15、6ぐらいだろうか、まだ若い男の子がでっかい武器を構えて意気込んでいる。

しかし建物を見ていただけで抜き身の武器を向けられるのか。

常時結界を張っている俺だから焦らなかったけど、普通はびっくりするぞ。


「イブレアギルドの噂を聞いてな。話を聞きに来たんだ」


と伝えてみると、笑顔になってころっと態度が変わった。


「なんだ、客か!よし、ついて来い!」


少年について行くと、正面入り口についた。

そのまま連れられるままに中に入ると、豪華な庭園のお出迎え。

敷地内には色々な建物があり、俺は1番入り口に近い詰め所のような建物に連れて行かれた。


「ここで話を聞いてもらえるぞ!じゃあな!」


そう言って少年は元気に去って行った。

持ち場に戻るのだろう。


「いらっしゃい、イブレアギルドだよ。何の用かな?」


受付の人は綺麗なドレスを着た髪を盛った人だった。

受付嬢っていうより、俺が生きていた世界の夜職の人みたいな感じだ。


「ポペン族について話を聞きに来た。ここにいるって聞いたんだが……」


と言うと、受付の人の表情が曇った。


「あー、あー……ポペン族ですね。まあ、確かにここにいますね。でも今は動けないんですよぉ」


「ゴンの町からの依頼を二度もすっぽかしてるんだろう?しかも依頼料はもらった上で。何か派遣できない理由があるのか?」


そう問うと、受付の人はチラッと俺の後ろに視線を送った。

すると、バチッと何かが結界で阻まれる音。

後ろを振り返ると、男が驚いた顔でそこにいた。

結界がこいつの俺への接触を害だと判断して自動で阻んだらしい。


「何だ?今話をしてるんだが」


今度は受付嬢の方から小さく舌打ちが聞こえる。

振り向くと、もう表情を取り繕っていた。


「ポペン族については今はお答えできません。お引き取りくださいな」


すると、また背後でバチッと結界が阻む音。

恐らく俺を無理やり引っ掴んで追い出そうとしてるんだろう。

これ以上ここに居座っても情報は引き出せないだろうな。


「ポペン族については分かった、これ以上詮索しない。それはそうと、俺は探索者志望なんだ。探索者にはどうやったらなれるんだ?」


「そういうことでしたら……こほん。探索者というのは別名トレジャーハンターとも呼ばれ、この世界を探索しながらお宝を探す人たちのことを指します。お宝を手に入れれば貴方もトレジャーハンター!我がイブレアギルドはこの辺りで1番大きな探索者ギルドで、現在新人教育中!」


ああ、探索者とトレジャーハンターはこの世界では同じ意味なのか。

この世界は世界全体がダンジョン化していて、宝箱も生成されるんだったな。

そういえばずっと拓けた空の移動しかしていないから宝箱を見かけてないな……。


受付の人から探索者について色々話を聞けた。

探索者たちは各地で宝を手に入れ、それをどうするのかと言えば中央と呼ばれる場所へ持って行く。

そこでは宝を査定して金銭に換金してくれる大規模な機械があるそうだ。

そして中央では便利な魔道具や強力な武器防具、食料なんかをそのお金で購入することができる。


「どうします?我がイブレアギルドに加入しますか?」


「うーん……ちょっと考えてみるよ」


この辺りで幅を利かせている大手のギルド。

加入してみるのも悪くはないが、ポペンの件で不審感がある。

もう少し探ってみないとな。


ひとまずはギルドの敷地から離れ、人目の無い場所へ移動する。

[変幻自在]で透明化して改めてギルドへ不法侵入しようとした時、ギルドの壁を乗り越えてこそこそと離れて行くものを見かけた。

人……と言わなかったのは、それが人かどうか疑わしかったからだ。

今俺は透明になっていて気付かれないのでそれの後を追ってみる。


2頭身の宇宙服のようなものを着た謎の生き物。……生き物だよな?

ぽてっぽてっと走っていて、マスコットのような可愛さがある。

よく見れば宇宙服の頭の上にはぽこっぽこっと2つこぶのようなものがあった。


それはとある崩れた廃屋まで向かうと、きょろきょろと辺りを見回して誰もいないことを確認してから床の一部を剥がした。

そこはその2頭身マスコットがギリギリ通れるぐらいの幅の通路になっていて、俺は[変幻自在]を使ってその通路を通れるサイズの猫になって後を追った。


暗い通路を通って行くと、どうやら町の外に出たようだ。


「ふう、ふう……ここまで来たら見つからないポペね。急がないと……」


そいつはぽてっぽてっと再び走り出した。

そっちは……ゴンの町及びその避難所がある方向だ。


「どこに向かうんだ?」


と声をかけると、そいつはピョーン!と飛び上がって驚いた。

きょろきょろと見回しているけど、俺の姿が見えていないようだった。

しまった、今は透明になっている上に猫になってるんだった。

元のノアの姿に戻ってから透明化を解除した。


「み、見逃してほしいポペ!ポペの助けを待ってる人たちがいるんだポペ!」


ふむ……。

ポペという語尾と一人称、イブレアギルドから脱け出してきた様子、助けを待っている人がいるという発言……。


「お前、ポペン族か?」


「そうだポペ!」


ふんっ!と胸を張っているが、俺のひざ下ぐらいまでしか身長が無い小さな宇宙服のマスコットにしか見えない。

その宇宙服は自前の皮膚か?それとも装備なのか?気になるな。


「もしかしてゴンの町に行くのか?」


「えっ!何で分かったポペ!?そうだポペン!あそこには今、寄生型スライムが大繁殖してるんだポペン!ポペが行かないといけないんだポペン!」


なんていうグッドタイミング。好都合だ。

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