第37話 ノア:第5世界:ピンクの脅威
俺戦隊、ノア。
だぼっとした前開きローブを引っかけてでかい木のワンドを持ったおじさん。
ノアの前回までのあらすじだが、特に何もしていない。
移動中に妙な感覚に襲われて長居しなかったんだよな。
さて、こっちに来た途端にまたピンクのふわふわからスライム状の何かが飛び付いてきて再び結界にべちゃべちゃと張り付いては落ちていく。
もうこれは仕方のないものとして諦め、コンパスを頼りに町のある方向へと飛んだ。
随分と時間をかけて飛んでいくと、だんだんピンクのふわふわが少なくなっていき地面が露出するようになってきた。
そういえばこのピンク、何なんだろう?そう思い【万能鑑定】を使ってみた。
『〈寄生型スライム・ピンク〉。
辺りにある物に浸食して内部から溶かしてしまう粘液型の寄生生物。
一度でも素肌に触れてしまうとあっという間に内部へ入り込んでしまうため、助かるには患部を切り落とすしかない。
特に動く物に強く反応して引き寄せられる性質を持つ。』
げっ、ヤバイやつじゃないか。
こんなの連れて町に行ったらとんでもないことになるぞ。
慌てて結界に張り付いているピンクをひとかけらも残さず収納して急いでピンクのいない場所へ向かった。
寄生型スライムがいなくなってからもしばらく飛んでいると、防壁に囲まれた町を見つけた。
上から眺めてみて違和感を覚える。人が1人も見当たらない。
そのまま町に降りて辺りを散策する。
建物もそうだが、家具や他の物も全て大きい。
まるで自分が小さくなったかのような錯覚に陥る。
建物は鍵すらかかっておらず、内部はガランとしていて人が住んでいる形跡が無い。
どこもかしこもそんな感じで、人もいなければ物も無かった。
大きな家具なんかはそのままだが、貴重品や小さな物はまとめて持ち出されているようだった。
どうしてだろうと思ったが、すぐに要因に思い至った。
もしかしてあの寄生型スライムから逃げるために町を捨てたんじゃないだろうか。
あんなのが地面を侵食しながら迫ってきたらそりゃあ逃げるよな。
多分、最初はもっと遠くにスライムたちはいたんだろう。
それが徐々に近付いてきた、と。
しかし、侵食してきたから逃げます、だけじゃいずれ人間が住む場所が無くなってしまわないだろうか?
もしかしてこの世界にもう人がいない……というわけでもないか、この町は捨てられてからそんなに時間が経ってなさそうだし。
ということは近くに元この町の住民がいるってことだよな。
俺は再度空に飛び、コンパスに1番近くの知的生命体が集まっている場所と覚えさせて針が示す方向へ飛んだ。
体感的に100キロほど飛んだだろうか。
簡易的な小屋が雑多に建ち並んでいる場所を見つけた。
小屋というよりは雑に布を張ったタープテントのような物が辺りに設営されている。
とりあえず気軽に接触してみるか……。
少し離れた位置に降り、徒歩で集落に近付いた。
すると、見回りをしているであろう武装した人物が近付いて来た。
「止まれ!!」
でっっか。
3メートルはあるぞこの人。巨人か?
全身がっしり武装していて、顔も兜で覆われていて人間かどうかすら分からない。
「ギルドの斥候か?お前1人なのか?ポペン派遣の件はどうなっている?町は無事なのか?」
巨人はどこか焦ったようにぐいぐいと問い詰めてくるが、それを手を出して制する。
「落ち着いてくれ……何の話だろうか?」
「……ギルドの関係者ではないのか」
それを聞いて巨人はがっくりと落胆した。
辺りを見てみれば、他の人たちもみんな背も高くガタイも良い。みんな俺の方を見て様子を窺っている。
「ここはゴンの町の一時避難場所だ、見て面白い物など何も無いぞ」
「ああ……あっちの方にあった町のことか?」
「町を見て来たのか。まだスライムどもに呑まれてなかったか?」
やっぱりスライムから逃げて来たらしい。
町を気にするということは戻るつもりはあるのか。
「まだ町は侵食されていなかったな。まあ、時間の問題かもしれないが」
「やはりか……くそっ、イブレアギルドの連中め。早くしてくれないと手遅れになる」
ギルド、か。
1番世界の冒険者ギルドのようなギルドがあるのだろうか。
「待て、お前町の方から来たんだろう?スライムを連れ込んでいないだろうな」
「それは大丈夫だ、遠目でチラッと見ただけだから触れていない」
「本当だろうな?衣類に付着するだけでも致命的だぞ」
結界で弾いていたし、結界に付着した物も全部収納したから細胞の1つすらついていないはずだ。
「お前、探索者か?どこのギルドの所属だ?」
「どこにも所属していない、フリーで探索している」
「今時フリーとは珍しいな……まあ良い。町のことを教えてくれた礼にこの辺りをうろつくことを許す」
「どうも」
ここではあちこち探索する人のことを探索者と呼ぶらしい。
そのままの流れで彼らのことを少し教えてもらった。
彼らは巨人族という種族で、人間に比べて体が強靭でガタイが良く、背が高いのが特徴的な種族。
未成年でも今の俺と同じぐらいの背丈があり、みんなムキムキだ。
だからあの町の家も家具も全部大きかったのか。
ギルドというのは、探索者の集まりの組織のことらしい。
彼がさっき言っていたイブレアギルドというのは、この辺りを牛耳っている探索者の集まりのこと。
ゴンの町の彼らは寄生型スライムの対応をイブレアギルドに依頼していた。
けれど返事は芳しくなく、多額の依頼料を要求されているそうだ。
これまで2度も依頼料を支払っているのに後回しにされたり返事を濁されたりしていて、もう寄生型スライムがすぐそこまで来てしまって避難することにした、と。
「あのスライムはどう対応するんだ……?」
「ポペンを知らないのか?スライムへの特攻効果のある薬品を調合できる種族だ。ポペンはイブレアギルドが囲い込んでいて、イブレアギルドを通さないと依頼できないようになっているんだ」
ポペン……聞いたことが無いな。
見たことも聞いたことも無ければ創造で生み出すのも難しいか。
多分補正がかかってできそうな気もするが、本物を見たことが無いからな……。
それとなく転生者について聞いてみたが、聞き覚えが無いようだ。
ゴンの町には転生者は訪れていないみたいだな。
さて、どうしようか。
彼らを見捨てるのは容易いことだ。
それに別に今すぐ命の危機に陥っているわけでも無し、移住を繰り返せば良いだけのこと。
それに助けるにしても、あの寄生型スライムをどうにかしないといけないんだろ?
そのためにはポペンとやらに接触しないといけない。
だけどそうするとイブレアギルドと衝突することになるだろう。
いや、できるよ?
『寄生型スライムを絶滅させる薬』とかなんとか創造して散布してやればその地域からは絶滅させられるだろう。
だけど今回だけはそれで良いかもしれないけど、イブレアギルドを通さずそんなことをすればゴンの町の住民たちがイブレアギルドたちと揉めるかもしれない。
そうなると2回目の機会の際に困るのはゴンの町の人たちだ。
「ちなみに……イブレアギルドの者と話をするにはどこへ行けば良い?」
「あっちに大木があるだろう?その方角に10日ほど歩けば大きな町がある。そこにイブレアギルドの支部があるはずだ」
「分かった、ありがとう」
別にわざわざ助けようと思っているわけではない。
まあ、偶然イブレアギルドの者と会う機会があれば、だな。
これ以上ここに留まっていても仕方が無いので、情報提供にお礼を言って避難所を離れた。
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