第11話 面倒な話し合いの続き

 

ひとまず【結界(快適保障付き)】があれば酷い怪我を負うことは無い。

リーフの構成員たちにボコられそうになった時に冷静だったのは、このスキルを持っていたからだ。

あの場で殴りかかられていても俺だけは無傷で切り抜けることができる。


他にも便利なスキルを付与させておくべきだろうか?

うーん、今考えても思いつかないな。

必要な時にその都度付与していけば良いか。

【特殊技能】の[スキル付与]さえあればいつでも思い通りのスキルを付与することができるんだし、焦る必要は無い。


ここで【特殊技能】のおさらいだ。


──特殊技能──

[亜空間収納]

[変幻自在]

[万能創造]

[転移]

[箱庭の主]

[無限魔力]

[スキル付与]

[ユニット操作]

[分身操作]

[眷属化]

[拠点万能化]

[創造魔法]

[世界移動]


今活用しているのは[亜空間収納][万能創造][無限魔力][スキル付与][創造魔法]ぐらいだ。

他のやつは使っているところを見られたら面倒だからというのもあってまだ使用していない。


[変幻自在]は自分の姿かたちを自由に変えられるスキル。

立ち振る舞いや仕草、癖や魔力波長に血液型、指紋やステータスも全て変更して完全に他人になりきることができる。

あ、この技能は透明化や気配を消したり物をすり抜けることもできるのか。

うーん、こうやって時々確認しないと覚えてない項目もあるな、最初に確認したっきりだからなぁ。


ああ、何か見られたら面倒なことをやる時は姿を変えれば良いのか?

完全に別人として活動すれば行動に制限をつける必要も無くなる。

なんなら別人として活動することを前提にすればチートをふんだんに使えるかもしれないな。

面倒なことになったらまた別人になってほとぼりが収まるまで待てば良いんだし。


でも今はアメルダやニアノーから監視を受けているし、姿を変えることも簡単にできないか。

姿を変えられることだけは絶対にバレてはいけないし、迂闊に使うわけにはいかない。

監視されている状況じゃ[箱庭の主]も他のスキルも使えないな。

やっぱりある程度情報を集めたらここから出て行くか、せめて監視を外させないと。


他のコロニーの情報も欲しいところだ。

ここのコロニーは大規模で自分たちで生産もできている上に聖女との伝手があって援助を得られているらしいし、ここが特別なんだろう。

だとしたらもっと限界ギリギリで運営しているコロニーもあるはずだ。

そのうち町や王都とやらに行くことも考えてそれの情報も欲しい。


そうやって色々考えつつスマホをチラ見してみると、通知が来ていた。フリマ機能の通知だ。

……おおー、完売している。

嘘だろ、あれからまだ10分ぐらいしか経ってないぞ?

もしかして話題にでもなってるのか?と思いつつ掲示板を見てみると、まさかの専用スレッドまで経っていた。


『【おにぎり】神からの配給か?【ワッショイ】』


フリマ機能では転生者たちがその場で採取した効能の分からない物や初期配布のアイテムの中でいらない物を出品していただけだった。

そこへ明らかに日本のコンビニで売っている物と同じおにぎりが合計300個出品された。

もしやあの女神が俺たちへ配給を施しているのか?女神は俺たちのことを観測しているのか?と話題になっていた。


ふーむ、女神の仕業ってことになったか。

まあ別に良い、俺の仕業だとバレなければ良いのだから。

転生者たちはおにぎりが配給できるのならば今度はあれも!これも!それも!あれも!!と要求を次々と投稿しているが、まあこれは無視しよう。俺が従ってやる義務は無い。

あれが食べたいこれが食べたいはまだ分かるが、明らかに転売目的であろう娯楽品を求めてる奴はフリマの概要欄を見てないのか?


しばらくぼんやり掲示板を眺めていると、アメルダとニアノーが戻って来た。


「何があったんだ?」


「ゴブリン共が群れで襲撃して来たのだ。お前たち、ゴブリンに怪我を負わせて放置したのだろう?そのままここに来たものだから、ゴブリンの仲間たちが報復に来たのだ」


げっ、つまりこの襲撃は俺たちのせいってことか。

しまったな、できるだけアメルダたち相手に貸しは作りたくなかったんだけど。

ただでさえこいつ高圧的なのに更に上から押さえつけられるじゃないか。


「別にそれだけのせいじゃない。あいつら定期的に襲撃来る。それがちょっと時期がズレただけの話」


「ニアノー、余計なことを言うな。せっかくこ奴に罪悪感を植え付け有利な取引を引き出すチャンスだったというのに」


おっと、ナイスだニアノー。

やっぱりアメルダ相手に油断はできないな。


「襲撃は大丈夫だったのか?」


「ゴブリン共が集団で襲って来る時はだいたいリーダーとなる上位個体がいる。そいつを潰せば後は残党狩りだ、私がいなくても被害を被ることは無い」


この1時間程度でアメルダたちは上位個体とやらを潰したらしい。

流石に定期的に襲撃されてるだけあるな。


「話の続きをしよう。こちらとしてはこの辺りで獲れる魔物の素材を一通り欲しい」


「一通り、か。かなり数が多いぞ?こちらは構わないが、そっちは交換に出せるだけの量があるのか?」


アメルダは机の方に歩いて来て椅子に腰かけた。

こっちが出せるのがカロリーフレンドだけだと思われてるみたいだな。

まあそれしか見せてないから当然か。


「そっちが希望するのはこの箱……カロリーフレンドだけで良いのか?」


「ほう。つまり他にも提示できる物があると?」


アメルダはこちらを値踏みするように見つめる。

ここで提示する物を間違えてはいけない。

あまりに価値の無い物を提示してしまえば下に見られるし、あまりに価値の高い物を提示してしまうと価値を誤魔化されて搾取されるだろう。


俺が分かっているのは、食べ物が他の物よりも価値が高い。

そして少量取引されているらしい酒がかなりの高レートで取引されているということ。

便利な道具を提示すれば高反応が得られるかもしれないが、下手に日本の道具をそのまま渡してしまうと転生者の目に付くだろう。

そうなると出所が探られ、俺から渡した物だということが知れてしまう。

なら食べることで消費できる物が望ましい。


「その前に1つ約束してほしい。俺が渡した物資は俺が持っていたと他に漏らさないでほしい。特に他の転生者たちには」


「守られなかった場合どうなる?」


「どうもならない。黙ってここから去るだけだ」


「言っておくが、お前の結界装置はまだこちらの手にあるのだぞ」


「その口ぶりだと結界装置を人質に取ってるみたいに聞こえるな。対等な取引、と聞いた気がするが気のせいだったか?それともこの世界のコロニーっていうのは平気で嘘を吐いて人を力で抑えつけ、物資を強奪するような生き物だったか?」


アメルダのこめかみがピクピクしてきた。

多分彼女の立場上弱みを見せることができない、というか強気でいかないとこの世界では生きていけないんだろう。

しかしそれと俺が不快に思うかどうかは話が別だ。


「…………ふぅー、分かった。お前から受け取った物資の出所はできるだけ公表しないようにしよう。しかし、同じ拠点内で生活している以上は完全に情報を遮断することは不可能だぞ」


確かにこのパッケージじゃ目立つよな……。

机の上には日本人には見慣れた黄色いパッケージが置いてある。

異世界人からしてみれば見慣れない紙の箱だろうけど、転生者が見れば地球の物だと一目瞭然だ。

で、そこから転生者の誰かがこれを持っていると考えが行き着いて、俺にまで行き着いて槍玉に上げられるのも時間の問題だろう。




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